6.特訓
同じようにシンの部屋に行く。
「シンー、起きたー?」
だいたい20秒後くらいだろうか。
シンの返事が来た。
「…起きた。部屋には入るな。外にいて」
なら仕方がないだろう。
しばらく待っていると、不機嫌そうなシンが部屋から出てきた。
「朝から起こされるのってほんと嫌なんだけど…」
シンは、寝起きは語彙力というか、取り繕いがないっぽい。
「リゼが、起こしにいけって…」
じゃないとずっと寝てるってついでに言っていた。
それまで伝えると、
「よくわかってんな…あいつ」
と言ってシンは目を逸らした。
「まあいいや。朝ごはんだけ食べて、アミの特訓にいこう」
え?聞いてないんだけど…?
まあ、それは必要なので、素直にやろう。
朝ごはんを食べてから、3人でギルドへ向かった。
特訓は、ギルド内にある作戦場でやるらしい。
ここなら魔法を使っても大体壊れないし、剣の衝撃波も大体は大丈夫らしい。
大体っていうのは、昔壊した人がいたらしい。魔王とか、魔王とか。
「よし、剣は…これでいいかな?」
作戦場内に行ってから、シンは剣…というより刀だね。刀のようなものを取り出してきた。
「なんでこれにしたの?」
シンプルに疑問に思った。
「…兄の形見なんだけど…使わないし」
マジかよ。
「え、ほんとに使っていいやつ?」
「まあ、怒んないと思うよ。すでにちょっといじっちゃってあるし」
なんと。
「じゃあ、使わせてもらおうかな」
私は、シンから刀を受け取る。
「どうぞ〜」
手に馴染みやすい、良い刀だった。よくわかんないけど。
でも、これだけはわかる。手入れがものすごく丁寧にしてある。美しい、刀だった。
「とりあえず使ってみなよ」
リゼに急かされて使ってみる。
『…魔法付与はできなさそうだ。シンプルな剣技で攻めることになるな』
魔法付与なんてしようとしてたんだ。剣技でよかった。
「私が相手するからさ、模擬戦してみようよ!」
リゼが目をキラキラさせて誘ってくる。
「でも、私が使うの実際の剣…刀だし…」
怪我させたらどうすれば…。
「実際に使うやつで練習したほうがいいと思うよ〜。まあ、回復はシンがいるし!」
たしかに。
というわけで戦ってみた。
結果から言うと、惨敗でした。まあ、わかってた。
リゼが強すぎる。剣の使い方が明らかに上手なのだ。
一体どれだけの修行を積めばできるんだ…という感じだ。
でも、得たものも多い。タウの教え方とは違い、実戦だし、丁寧に教えてくれる。
リゼからも、
「まあ、ちょっとは腕が上がったと思うし、明日はコンパスのところ行ってもいいかな」
とまで言われた。
ただ、シンは回復魔法の使いすぎでだいぶ疲れていた。
だからこそだろうか。
「なんで明日?まだいい気もするけど…」
と聞いていた。
だが、リゼに黙殺されていた。諦めろってことだね。
昨日の宿に帰り、夕飯も食べて、私は寝た。
アミが寝静まったころ。
シンとリゼはまだ起きていた。
「おーい、リゼ。行くぞ」
アミの部屋まで来る。
そして、起こさないように近づいてきた。
「昨日の作戦でいいんだね?」
「ああ。じゃあアミ、ごめんね」
そう言って髪飾りが外された。
『ったく…仕方がない。行くか』
アミが寝ているため、俺はたったひとりの虚空でつぶやいた。
『〈スキル????〉』
俺がアミと意識を変える間に、シンとリゼはシンの部屋へと戻っていた。
なので、とりあえずシンの部屋に行く。
そして、扉を開き、中に入る。
「端的に終わらせよう」
俺にとっては、ただの面倒なことなのだから。
「あぁ、そうだね。じゃあ、まずひとつめ…」
早すぎるだろ。
「まずは邪魔をなくすところからだろう?…〈眠毒〉」
そう言って俺は、リゼに向かって毒魔法を放つ。
するとリゼは、何もなく足から崩れ落ち、眠った。
「タウっ…何をした!」
そんなに怒らなくてもいいのに。
「ただの睡眠の毒魔法だ。気にするな」
これで1個、質問に答えた。計画的に進めよう。
シンは、なにかを考え込んだ後に、言った。
「…そうか。タウが危害を加えないとは限らなかったか…」
そりゃそうだ。でも、この話が出てきたのは俺にとって都合がいい。
「それならば、取引をしよう。俺は今日が終わるまで、お前らに危害を加えない。まあ、お前から攻撃してこれば別だが。代わりに、あの質問の権利はなしだ」
「……それでいい」
よし、計画通り。
「ならば少し話でもするか。場所は…あそこでいいか。転移魔法…風属性の応用…」
よし、できそうだ。
「シン、行くぞ」
「えっ、ちょ、まっ」
なにか言いたげなシンを巻き込み、俺は転移魔法を発動した。
目的としたのは、広大な場所。真っ平らで、人の気配はない。
半径500mほどの地上のものが、消え去っている。
夜空には星が輝いていた。
「ここは…!」
シンが知らないはずもない。
「ああ、前のあそこだ」
人がいないから話しやすいと思ったのだが。
「立ち入り禁止な上に、常人じゃ入れないところになっちゃったんだよ、ここ」
そうか。でも、それと同時に納得する気持ちもある。
「炎魔法と水魔法の同時発動。広範囲が消し飛んだっけな」
俺が最期に、試したやつだ。