53.授業の終わり
私は即座に、クナイを10本作り出し、投げる。そしてそれを先生が避けている間に私は懐へ潜り込み、9割ほどの魔力を一点集中させた炎で首元ら辺の鱗を燃やし、溶かす。さすがにここまで高火力なのであれば燃えるらしい。そして、そこを刀で突き刺す。
おそらくかかった時間にして約2秒。
甘党先生はゆっくり倒れていく。
一瞬にして圧倒的な、勝利だった。
「やるじゃん。合格」
そう言い残して、先生は寝た。
魔力はおそらくすぐに回復していたのだろう。しかし、甘党先生は動かないでいた。
聞いたら、眠いと零していた。いや、わかるけど。一応授業中に寝ないでもらっても?ただ、先生の疲れもよくわかる。昨日はたくさん動いたし、今日勝つまでに私はたくさん作戦を練ってきた。私も正直寝たい。
「先生、もう帰っていいですか?」
「ん?あぁ……ちょっと待って。今戻るから」
そう言って甘党先生は人間の姿に戻ってきた。しかし、不思議でたまらない。
「どういう仕組みなんですか?これ」
そうやって聞くと、困ったような顔をしてこう言った。
「いやぁ、僕もよくわかってなくて。院長先生が……いや、アレイスさんが調べてくれてるんだよね。僕さ、こっちの世界には一種の契約みたいなもので来てて。犠牲にしてるものは大きいけど、やっぱこっちの世界のほうが自由でよくて……何が起こってるかは僕もわかんない」
途中で言い直したな、この人……いや、ドラゴン?黒龍?
まあいいや。私の知り合いにも院長先生のと呼ばれる立場の人がいる、ということを思い出したのだろう、きっと。
「そこはまあいいや。この授業で全部クリアでしょ?」
そうだ。だから私は首を縦に振る。
「なら、アレイスさんの部屋に行こう。そして、卒業式の手続きをするよ」
卒業の……手続き?
疑問に思いながらも甘党先生の後ろをついていくと、院長室についた。最初に行った、あの部屋だ。
甘党先生は扉を開けたと思ったら、ソファに
座っているアレイスさんに向かって走り出した。
「アレイスさーん……疲れた……」
ぎょっとしながら甘党先生を見ていると、途中でドラゴンの姿になっていた。サイズはきちんと調整されていて、猫ぐらいだ。
アレイスさんは慣れているのか、膝の上にちょこんと乗せていた。
「どういう状況ですか……?」
混乱を免れられなかったのは私だけではないと信じているのだが……タウが何も言っていないのが怖い。もしかして普通なのか……?
『わぁ……後でからかってやろ』
あっ、驚きすぎて声が出てなかったタイプだ。そういうやつだ。
「それで、アミさんの用件は?」
あっ、そうだった。
何のために来たのか忘れるところだった。
「卒業の手続きに」
「あー、終わったんだ。早かったね。1属性ならわかるけど、全属性で、かぁ……。訳ありの人って何かそういうタイプの人が多いんだよね〜」
しみじみとするように言われても私には理解できないんですけど…。
「それで、手続きとは?」
私がそう促すと、アレイスさんは甘党先生を肩に乗せ、机に向かった。
「このプリントにサインしてもらうだけ。あと、ちょっとした質問だけ……」
プリント?
もらったプリントを見てみると、卒業証書のための名前がほしい、とのことだった。
「フルネームで?」
「フルネームで」
うわぁ……フルネームわかんない……。
「名前しかわかんないんですけど……」
そう言うと、アレイスさんは分厚い辞書のような物を引き出してきた。
「この中にあると思うよ……えーっと……ここか。へぇ、国営の孤児院か。アミ・フィミノアさん」
あっ、孤児院の名前か!
そこまで良い思い出のある場所ではないから嫌ではあるが、仕方がない。
私はサインを書く。アミ・フィミノア、と。
フルネームなんて初めて知った。案外使う機会なかったんだなぁと改めて思った。
「よし、じゃあこれ。招待状」
プリントと引き換えに渡されたのは、手紙。きちんと丁寧にシーリングスタンプまでしてある。豪華なやつだ。
「日にちと場所が書いてあるから。同伴者は1名までね。名前は自分で書いといて。あと、当日にこの券がいるから」
なるほど。入場券みたいなものなのか。
「わかりました」
「あとね、これはちょっとした調査だけど……」
アレイスさんはソファに座り直す。
私もソファに座り、姿勢を正す。
アレイスさんの膝の上に乗っている甘党先生は、のんびりとしている。
そんな厳格な雰囲気……厳格?いや、厳格だ、たぶん。厳格な雰囲気の中、アレイスさんは話し出す。
「卒業した後、何をする?」
未来の話だった。
ここで私が何と答えるかは、大切なのだろうか。ここで、王政派として動くと言ってもいいのだろうか。
嘘はつきたくない。だから、攻撃されるようなことになったらすぐに反撃できるよう、厳重な警戒をしつつ、話す。
「私は……スイウさんからの依頼をこなします。その後はまだ、考えていません」
そう言うと、アレイスさんはにっこりと微笑んだ。拍子抜けだ。
「そっか。そう言うと思ったけどね。こっち側に来たかったらいつでもおいで。こっちのスパイとして使うとか、いろいろ活用法はあるからね……向こうのスパイとして、じゃなかったら歓迎するよ」
否定されなくてよかった……のか……?
まあいいや。
「ありがとうございました」
「うん、元気でね」
そう言って私は部屋へ帰った。




