32.各属性の授業3
昨日と同じ風景、校庭が見える。
ただ、生徒は私しかいない。
「テストお願いします」
「はいはーい。まずは無詠唱でこの桶をいっぱいにしてみて!」
そう言ってアオイが取り出したのは、直径40cmほど、深さ30cmほどの大きさの桶だった。
まあ、これくらいなら大丈夫でしょ。
私は水魔法を発動する。
水は少しずつ溜まっていく。沈黙が気まずい、話でも振ってみよう。
「なんでこの授業ってこんなに人がいないんですか?」
「みんなすっごく早い段階で合格しちゃってね…。水魔法って生活でも使いがちだからかな、火魔法は危ないからって使わせてもらえないとかいうお坊ちゃんお嬢様が多いから、この学校。水魔法くらいなら使わせてもらってるんだろうね…」
あぁ、なるほどね。
たしかに生活で使いがちだ。お金持ちでお手伝いさんとかがいたとしても、洗面の水は毒殺を注意して自分で用意するだろう。たぶん。そのためにわざわざ水を取りに行くのは面倒だろうし。
「その理論だと、氷魔法のほうはみんな時間がかかるんですか?」
そうやって言うと、アオイは少し眉を下げて、こう言った。
「実はね……氷魔法のテストって、氷を作ってそれが溶けないかみたいな感じだったじゃん。私、みんなに教えるときに、氷を手に持って溶けないように魔法かけ続ける方法を教えるの。だから、冬場はキツイのよ、冷たすぎて。夏のうちに終わらせてやるって意気込んでみんな通うものだから、すぐに受かってくの……だからここは過疎なのよ…」
なるほどね……冬に氷はキツイわ、それは。
「あ、できました」
ちょうど、水がいっぱいになった。
というかどうせならと表面張力でギリギリまで水を入れてみた。こぼれたら私の足にかかるから、冷たすぎて絶叫すると思う。
「よし、それだけ安定してれば大丈夫!次、氷魔法のテストやってみる?」
「お願いします」
「じゃあ、まずは氷を作ってみて。あ、魔法陣を使ってね」
私は言われた通り、魔法陣を描き、氷を作り出す。絶対に冷たいとわかっているのだから、土魔法で作った(タウに作ってもらった)机の上に置いた。
「おぉ……すごいね。まあ、問題ないからいいや。じゃあ5分間計測するね、スタート!」
私は魔法陣を保ち続ける。
沈黙はつらいため、話を続ける。
「他の授業も過疎のところはあるんですか?」
「過疎っていうか、光属性の授業はシオカ先生がやってるんだけど、あの人旅行が好きで、結構な頻度でいなくなるんだよね。毎年それがわかってる人たちは早めに終わらせようと頑張るの。1年目の子が引っかかる罠だね、これは」
おぅ、やばいかも。先生がいないとどうしようもない。なんか手はあるかな…。
『いざとなれば、私が』
タウに頼ると不穏な気がするけど、本当にどうしようもなかったらそうしよう。
「それは罠すぎますね。……他にもそういう感じの罠ってあるんですか?」
そうやって聞くと、アオイは学院七不思議みたいなものを教えてくれた。
旅行する光属性の先生。
難易度がおかしい座学の授業。
初回クリア不可能な戦闘の授業。
本棚が動く図書館。
冬になると過疎る水属性の授業。
隠し部屋のある院長室。
寮に出る幽霊。
「え、怖いの多くないですか…?」
なんか、幽霊とかいたんすけど。
怖いの無理なんだけど、タウも無理な時点で私らではどうしようもないんだけど。
しかも院長室に隠し部屋ってなに?え、からくり屋敷じゃん。
図書館のに関しては私たちが開けちゃってるし。
七不思議って面白いけど怖いなぁ…。
「5分経過!危うさが全くなかったねぇ……合格!」
「ありがとうございます!」
私は無事、水属性の授業も終えた。
風属性の授業は、少し特殊だった。
風属性の魔法は主に風魔法と転移魔法のふたつ。だから、そのふたつがテスト内容なのだが、転移魔法は難しいし昔に事故があったため実際に使うというテストはなしなのだ。
「まずは風魔法であそこの落ち葉を向こうの籠に全部ぶっ飛ばしてー」
たしか、フウテという人だった。
のびのびとした話し方が特徴的な、穏やかな先生だ。
言われた通り、私は風魔法を使い、籠の中に葉っぱを収めた。面倒だったから全部に一気に方向性を持たせて動かしたらすごく驚かれた。魔力があるからできる暴挙だ。
「次は、転移魔法陣を描いてみてー。発動させちゃだめだからねー」
私は魔法陣をサクサクと描く。
魔法陣を描くのは、もう慣れた。
魔法を発動しないように注意しながら、3分もかからずに描き終えた。
「よし、これなら発動するね、合格ー」
無事、風属性の授業でも合格の言質を取ったのだった。




