21.日記〜0〜
夜も更け、私たちは寝る準備を万端にした。
と言っても、私はまだ寝られないわけだが。
だって、タウから勉強するように言われているから。面倒だ。
そんなことを考えていると、いきなり部屋に、ドアをノックする音が響いた。誰かが来たみたいだ。
1番扉に近かったリゼが、外の様子を見に行く。
「アミ、レイさんがきてるよー。なんか、少し用事があるんだとか」
用事?何かあったっけ…。というか、私に聞くようなことがあるのか…?
疑問は大量に浮かんでくるが、とりあえず聞きに行けばすべてわかる話だ。
「はーい。ちょっと待っててー」
私は玄関に行く。
そこには、パジャマ代わりの浴衣の姿をしたレイがいた。
「どうしたの?」
私は問う。
その答えが返ってくることはなかった。
『お嬢様!逃げてください!』
タウの願いは届かず、レイの手は私に届くことになる。
レイは、私の胸に手を当てる。
そして、少し力を入れたかと思うと、私の体は動かなくなった。
えっ…なにこれ。
レイが、私に害を与えた、ということ?
だとしたら、私は今どうしたらいい?
『タウ!助けて…!』
『私には…どうすることもできませんね…これは。私の知らない何かだ…。とりあえず、応急処置を致します。しばらく、私に体を預けて』
タウに従うしかない。
私は体の力を抜く。
タウがどう動いたのかは知らないが、私が確実に言えるのは、目の前が真っ暗になったという真実だけだ。
最後に見えたのは、レイの静かな微笑みだった。
ここは…どこ?
目を覚まし、辺りを見渡す。
しかし、何もない。闇が広がっている。
私の体は、闇の中に浮いていた。
『タウ?いるの?』
私は呼びかけるが、反応はない。
タウもいないとなると…
『いますよ。でも、今は話しかけないでもらえると助かります。緊急事態なので』
あっ、いた。
ひとつ、安心できた。
しばらくしたら、話しかけてもいいのだろうか。
まあ、終わったら話しかけてくれるよね。
そう信じて、私は待つことにした。
約2時間後。
時計なんてないから大体の感覚だ。
何もなかったから暇で長く感じただけで、実際は20分ほどだったのかもしれない。
『お嬢様、一段落がつきました。現状を説明いたしますね』
タウが語ってくれたのは、なんとも言えない、疑問の残る話だった。
あの後、リゼやクウ、イソクは私を助けに来た。倒れる音がしたから、だそうだ。
そして、ベッドに寝かせてくれた。
レイはどうなったのか。
もちろん、リゼが放っておくはずもない。
追いかけた。隣の部屋も行った。
でも、見つけられなかった。
だからとりあえず、寝て明日を待とう。
そう事が運ばれたらしい。
タウはどう動いたのか。
まず、原因究明を図った。
すると、魔力が動いていないことを悟る。
おそらく、レイに魔力を放たれ、それによって固められている状態だ、と。
そうなると、生命活動を維持できる状態を作り出しつつ、その固まった魔力を少しずつ溶かしていく、というのが最適解になると考えたらしい。
魔力を溶かすのにかかるのは、約1カ月と半分。
そうなると、私は暇だ。
だから、闇属性の魔法である収納、その中に私を放り込んだ。
収納の中には、借りてきた日記もあるからちょうどいい、と。
その後、生命活動の維持のために、いろいろと頑張った。いろいろと。だから、緊急事態だった。
まあ、これが現状だ。
すべて聞いても、疑問しかない。
なぜこのようなことをしたのか。
収納の中にいるってどういうことなのか。
どうやって魔力を固めたのか。
でも、その解を聞き出すことはできなかった。
『私が、なんとかします。なのでお嬢様は、ゆっくりと本でもお読みください。私の読書時間の確保のためにも、急いで終わらせます。ここからは少し余裕がありそうなので、疑問は聞いてもらっても大丈夫です』
うん。そういう自分の目的のためってほうが安心できる。ちゃんと進めてくれそう。
『じゃあ、任せたよ』
『仰せのままに』
ここまで言ったタウは信頼していいと思う。
彼は、嘘をつかない。なんでって聞いたら、それが美しいからって言ってた。
だから、私は言われたことをする。
さぁ、650年前の世界へ。




