20.部活動
ふたりは時が止まったかのように動かない。
『すごく嫌な予感がします…』
タウがそう言ったところで彼らがはっと気がついた。
「君、この本を知っているのかい?」
なんとも特徴のない男の人が、そう言いながら私を手招く。
もうひとりの男の人も、なんとも特徴がない。説明しづらい。
だから私は、
「まあ、一応…」
と歯切れ悪く答えながら中に入った。
「ならば問おう。彼の得意な魔法を答えよ」
彼、が指すのはおそらく魔王。つまりタウだ。
そんなことがわかったって、私の答えはひとつだ。
「すべて。完璧なんだ、タウは」
タウが私の元に来てから、私はきっと変わった。
でも、ここだけは変わっていない。
タウを信仰するほどに好きな気持ち。
まあ、好きと言っても敬意というかそんな感じだけどね。
だから私の答えはこれまでもこれからもこれひとつ。
そんな自信を持って答えた。
それを見てか、彼は笑顔になって言った。
「そうか。なら、来い。ここに、魔王研究部に!」
そのとき、私はひとつのピースがはまったかのように気がついた。
魔法、からhの文字を引いたら、何になる…?
そう、魔王。つまり、ここは私にとっての楽園…。
考える私に、彼は手を差し伸べる。
その手を見て、私は決めた。
「喜んで」
彼の手を、私は握る。
この人はきっと同士だ。
『あぁ……嫌な予感が当たってしまった…。私がそれを見る辛さも知らずに決めましたね…お嬢様…』
ただひとりタウだけは嫌がっていたが。
「じゃあ、ぼくのほうから部活について説明するね」
もうひとりの人が話し出す。
「ぼくはミコリア。ここの副部長…まあ、ふたりしか部員がいないから…」
「で、おれがウリイ。部長だ。ここに入るにあたって、守らなければならないことはひとつ」
真剣な表情で、ウリイさんは言う。
「ここは表向きには魔法研究部。魔王の研究をしていることは他言無用だ」
なるほどね。
ここ、魔法学院は反王政派。
魔王の研究なんて、認められるものか。
「わかった」
それくらい、何の問題もない。
「じゃあ、他はおれが手続きしておく。明日からはいつでも来ていい。文献とかも持ってきていいぞ。今日はもう帰ったほうがいい…と占いに出ている」
占い?もしかして、あれだろうか。
タウが毎日見ていたという、星座占い…。
『なんで知ってるんですか…。俺にそのようなイメージがつくと嫌なのですよ…』
一人称が乱れてるのも含め、聞かなかったことにしようと思う。
私はウリイさんの言う通り、早めに帰った。
帰った…と言いたいのだが、途中でタウに引き止められた。
『お待ち下さい。歴史のお勉強がまだですよ。図書館に寄って下さい』
そういえば、後でタウに教えてもらうんだった。
ということで、私は図書館を訪れる。
そして、タウの言う通りに最上階にまで上がっていった。
『そしてここの本。開けてください』
タウが指示をした、黄色い背表紙の本開くと、魔法陣がたくさん書かれていた。
『これの、35ページ。その魔法陣に、魔力を流します。できますね?お嬢様』
当然。
魔導具を作るのと同じ要領で、魔法陣に向かって魔力を放出すればいい。
私が魔力を流すと、あたりが光りだす。
そして私は、知らないところへと転移していた。
『姫様。起きてください』
タウに起こされる。
私は目を開ける。
そこは、書庫だった。
どこなのかはわからないが、ただただ広い書庫だ。
『歩いてください。そして、そこの12番の棚に…』
いろいろな本が、そこには置いてあった。
ほとんどが、見慣れない作りだ。
革表紙ではない。どうなっているんだろう。
そう思いながらも、12番の棚の前に着いた。
『そして、18番目の列…そう、そこです。そこの、上から3番目の一番左端。そこにあるのが第1巻。そうですね…とりあえず全巻借りますか。闇魔法で、収納を』
え、全巻って言いました?
これ、かなりあるよね…?
でもまぁ、ゆっくり読めばいいし…。
『今日の夜、読み切ります。明日の授業は魔法基礎。もうご存じの内容です。つまり授業中に寝ていてもいいので』
うわぁ…宣告されちまった…。
仕方がないので、私は収納し続けた。
そして、21冊を詰め込んだ。これで全部だ。
『では、帰りましょう。それでは、願って』
『転移が…したい!』
『よくできました』
悪い微笑みが見えた気がした。
目の前が白色に染まる。
次に目を開くと、図書館に帰ってきていた。
私は貸出カウンターに向かおうとしたのだが、タウによるとあの本は特に貸出をするものではないということだったため、特に手続きはしなかった。
そして今度こそ、部屋にきちんと帰ってきた。
「あ、アミ。おかえり」
クウとイソクは、もう部屋にいた。
イソクは夕食を作っている。
「ただいま。…リゼは?」
「もう帰ってくるはず。…ほら」
いつの間にか私の後ろには、リゼが立っていた。にこっとして手を振っている。
「おぉ、びっくりした…。おかえり」
「ただいま!」
なんか、本当に家みたいだ。




