1.プロローグ
『ねぇ、これからどうしよう』
私は問う。でも、
『別に、ギルドとかで仕事をもらってこればいいんじゃないか?』
と答えが返ってくるので、別に悲しい人とかではないはずだ。
まあ、彼は存在しないはずなんだけどね。
自分の中で話す感覚…俗に言う二重人格なのかもしれない。
気がついたときには、こうだった。
ちなみに、それで言うなら、主人格は私のほうだ。タウはいつも、私の心の中にあるだけ。
そのタウと今後の計画を話しながら、街の中心部の方にあるギルドへ向かう。
いつもそうやって、進んできた。
私は、だいぶ中心部へと近づいてきた街を歩く。
「ただいまセール中!」
「今日は特別価格!」
そんな活気ある声の中を進んでいく。
『なんか久しぶりだよね』
今までも、来たことはあった。だが、5年間ほどはずっと来ていなかったのだ。
5年も経てば、店も人も変わる。何もかもが新鮮に感じる。
テンションが上がるのも納得してほしい。
『ここの角だな』
タウがつぶやいたと同時に、私は顔をあげる。
そこにあるのは、大きな建物。
見上げようとするだけで首が痛くなる。
ここはそう。いわゆる、ギルドだ。
『とりあえず、中に入ったらどうだ?』
私は、タウの言葉で、思わず立ち止まって通行の妨げになっていることに気づく。
だから、中に入ることにした。
カランコロン。
心地のいい音色が響き、ギルドの扉が開く。
その音に反応した職員のお姉さんが近づいてきた。
まだ20代前半だろうが、慣れた職場のようだ。職員の服を少し着崩している。
「ご用件をうかがってもよろしいでしょうか」
営業スマイルで問いかけてきた。
「えーと、仕事探しに来て…」
「それでは、1番カウンターにてお待ちください」
私をその場に放置して、お姉さんはかけていった。
とりあえず、言われた通りにカウンターへと向かう。
この国には、ギルドがここにしかない。
昔はいくつかあったらしいけれど、今はここだけだ。
だから必然的に、職員の数も多ければ、場所も広く、冒険者の数も多い。
そのため、カウンターは30番まであった。多すぎる。
『一緒に1番カウンター探してよ』
『嫌だね』
そうやって言ってる間にも私は見つけたため、椅子に座った。
奥では、職員が忙しなく働いている。
まだお姉さんは来ない。時間がかかりそうだ。
なら、タウと話していよう。
実はこの謎能力、暇つぶしにも最適なのだ。
『何があるのかな』
『面倒なことに変わりはなさそうだ』
と待っていたら、さっきのお姉さんが、奥側の席に座った。
手には、半径6cmくらいの球の形をした魔石を持っている。
おそらく、魔術具の一種だろう。
「お待たせしました。この魔石に手をかざしてください」
お姉さんは魔石を机に置いた。透明で、奥が透き通って見える。
「えーと、こういうこと?」
私はとりあえず、手を上に置いてみる。
すると、画面のようなものが出てきた。
誰かが、スクリーンと呼んでいたような気がする。
「どれどれ…」
お姉さんが覗き込む。私も見てみる。
すると、文字が書いてあった。
魔力量 1000/1000 スキル???? レベル5
属性 火、水、風、土、毒、光、闇
「「…はい??」」
私とお姉さんの声がハモった。
意味がわからない。
「あの…これどういうことですか?」
昔見たことある気がする。でも、こんなことがあるはずがない…。
唯一頼れそうだったお姉さんは、魂が抜けたようにぼーっと上を見ていた。
私からすると、あと頼れるのはタウしかいない。
『ねぇ、意味わかる?』
『俺が説明できると思ったのか?』
うん、なんとなくわかってた。
しばらくして、いきなりお姉さんは生き返ったように目を覚ました。
「すみません!今偉い人呼んできますね!」
説明してほしかった。というか偉い人ってなに?
色々考えても、私の選択肢は待つことだけだった。
「えーと、さっきの方!奥に一緒に来てもらえますか?」
お姉さんが、遠くから叫んでくる。
正直、周りからの視線が痛いほど刺さっている。
『行くしかないんじゃないか?』
それしかないよね。まあ、行ってみよう。
ついていった先は入り口とは真反対の方向。
それが、もう戻れないかのような雰囲気を醸し出している。
木でできた薄暗い廊下を歩き、突き当たりのドアを開ける。
するとそこは、明るくてとても豪華な部屋だった。
赤いカーペットにシャンデリア。執務机まで置いてある。
ほんと、いわゆる豪華な部屋、偉い人の部屋だ。
『お金ってあるところにはあるんだね…』
この一言に尽きる。
『そうだな』
同意してくれた。
後ろを振り向くと、すでにお姉さんはいなくなっていたようだ。
ふと奥を見ると、
「いらっしゃい、アミ」
見覚えのある人が座って、私の名を呼んでいた。
「院長…?」
そう。つい1ヶ月くらい前に見た、国経営の孤児院長。
そんな人が奥にあるソファーに誰か2人と座っていた。
どういうことだろうと考えていたら、院長が話し出した。
「今この場所では、ギルド長だよ。まあ、国王も兼業なんだけどね…。気軽にスイウって呼んでよ」
忙しすぎるだろ、この人。
「まあいいや。スイウさん、なんで私は呼ばれたんですか?」
私は問う。
スイウは困った素振りをしてから、こう言った。
「何から説明すればいいかわかんないんだけどね…君は特別なんだ」