元将軍と交易商 12
ハイマンは驚きのあまり目を見開いて腰を浮かせた。目の前の交易商は相変わらずの冷静さだ。そのおかげでハイマンも我に返り、再び椅子に腰を下ろす。
「あのブラン王が……し、死んだ……」
「はい。かの御仁も人間ですから、腹を裂かれれば死にます」
「では、国は……ファランティアはどうなっているのだ?」
「その前に、将軍。そろそろ図面をあらためさせていただけませんか」
「だが、お前は肝心要の最後を話していない」
「はい。ですから、次は将軍の番です。私を信用してください」
「……わかった。どのみち選択肢は無いからな」
ハイマンは巻物を押しやった。交易商はそれを手元に引き寄せ、開いて内容を検める。その真剣さと同じくらいの眼差しで、ハイマンは交易商をじっと見ていた。沈黙の時間が熱を冷まし、ふいにある考えが頭に浮かぶ。
「運命の糸を手繰る神、か……案外と目の前にいたりしてな」
交易商は巻物から目を上げず、ハイマンは独り言を続けた。
「その村にヒルダ女王がいたのは偶然だったのか。たとえば手紙か何かで誘導されたとか。そこへ行けばブランと戦えるかもしれない、とかな」
ほとんど動じることのない表情がぴくりと反応して、交易商はやっと厚い瞼を持ち上げた。
「その証拠はございません、将軍」
それから丁重に巻物を戻し、心なしか満足げに宣言する。
「確認いたしました。これにて取引は完了です」
「では続きを」
「はい。ブラン王の死は臣下たちを動揺させましたが、ひとまず隠すべきだという意見は一致していたようです。そして、その判断は正しかった。テッサにて統一王を待っていたルゴス王も真相は秘匿するよう指示したからです」
「おお、そうか!」
ドン、とハイマンは拳でテーブルを打った。
「ルゴス王がご存命だったか! 北方連合王国は四王の統治を認めているし、上位王は四王から選出される。統一テストリア王国の母体が北方連合王国ならば、四王の一人であるルゴス王には正当な王位継承権があるといえる!」
「ええ、まったくそのとおりの理屈でもって、ルゴス王はキングスバレーに赴き、王位継承を宣言します。ブラン王は旅の途上での病死とされました」
やっと統一が成った王国に無用の混乱を招きたくなかったのだろう。ルゴス王は賢明だ。しかし――と、ハイマンは何食わぬ顔で目の前に座る交易商を見た。その秘密は完全には守られなかったわけだ。
「そうか……では、ファランティアいや統一テストリア王国だったな。安泰なのだな?」
「はい。ただ、まだ話は終わっていません」
「うん?」
「ルゴス王が玉座につかれた翌年、つまり、今から半年前のことですが……」




