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竜去りし地の物語  作者: 権田 浩


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元将軍と交易商 11

 翌日の午前中に、交易商はまるでいつもの様子でやってきた。二人はいつもの部屋で、いつものように対面に座って向き合った。昨晩ざっと降った雨が夏の暇乞いだったのか、窓からそよぐ風には爽やかな秋の気配がしていた。


 ハイマンは足元の袋から巻物を取り出し、テーブルの上に置いて、交易商のほうへ押しやった。さすがの交易商も右のまぶたをぴくりとさせ、いつもよりせわしなく手を伸ばす。


「では、さっそく拝見させていただきます……」


 しかしハイマンは巻物の一方をきつく掴んだ。


「まて。先にそちらの話を聞いてからだ」


 一呼吸置いて、交易商は手を戻し、椅子に身体を落ち着かせた。


「いいでしょう。わたしには貴方を信頼する他ありません。統一歴一年は、盟約歴なら一〇二六年、帝国歴では三五年になります。すなわち二年前、南部沿岸都市テッサの降伏をもって、帝国議会は停戦を決議。これにより事実上、ブラン上位王の統一戦争は終わりを迎えました。同年、北方連合王国は国号を統一テストリア王国と改め、ブラン上位王は正式に統一テストリア王となります。現在、統一王といえば彼のことです」


 ハイマンもまた巻物から手を離し、姿勢を楽にして、交易商の話に耳を傾ける。


「ブラン統一王は戦に()んでいた民のため、各地に残る戦火の爪痕を消そうと内政を重視するよう指示した……と、言われておりますが、その御心がすでに次なる戦場、すなわちエルシア大陸遠征へと向いておりましたのは言うまでもないことでしょう。王都をキングスバレーに移したのもつかの間、南部の復興を指揮するという名目で自らテッサに向けて出立します。その目的はエルシア海を渡る船団を作り上げるためだったようで、それを示唆する証拠や証言もあります。そして事件はその道中、統一王がブラックウォール城に逗留中に起こります。まるで運命の糸が手繰られたように……」


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