元将軍と交易商 8
「まあ、どうしても仕入れられない商品というものは、あるのだろうからなぁ? オークの内情まではさすがに無理か。残念だが、仕方あるまいなぁ」
にやにやするハイマンと、いやはや誠に申し開きもございませんを繰り返す交易商。もうしばらくこの時間を楽しみたかったが、それも下劣とここまでにしておいた。
「ま、仕方ない。話を戻そう」
「ご理解いただけたようで、ありがとうございます。えー、ごほん、では……東部街道の防衛線を維持し続けた帝国軍はさすがと申しましょうか。もともと怪物退治に長けた軍隊とはいえ、オーク傭兵の波状攻撃に対し善戦したと言えましょう。しかしそこへ西部から転進したブラン上位王率いる北方連合王国軍が参戦してはひとたまりもなく、帝国軍はホワイトハーバーまで後退します。そこで東部方面司令官ハミルトンは撤退を決意。帝国軍は海へ脱出しました」
まだ口元が緩んでいたハイマンも、それを聞いては片眉を吊り上げる。
「なんと、撤退。それはかなり重要な決断だぞ。ホワイトハーバーは基地化も進んでいたのだろう。踏みとどまる選択もあっただろうに」
「この判断の是非はわたくしごときの考えが及ぶところではございませんけれども、帰国後、ハミルトンは引退し家督を幼い息子に譲ります。もちろん本人の希望ではありません。相続を許された領地は僻地の小島一つだけ。帝国議会は将軍と同じ沙汰を下したようですね」
「ふむ……」
「その後、ブラン王は東西を行き来しながら地域の掌握に注力しました。キングスバレー方面では偵察部隊同士の小競り合いが続き、徐々に前線が構築されていきます。次の大きな戦いはキングスバレー攻略戦ですが、それは停戦破棄から三年後のことでした。その緒戦となった〈古道の戦い〉は小規模でしたが、この統一戦争が新たな局面に入った最初の戦いでもあり、また本当の意味で、ファランティア自由騎士団の初陣とも言われております」




