彼らの任務
拠点内の格納庫に、エルプズュンデを格納したユーリはコックピットハッチを開けて、階段を使って降りて行く。
「お疲れ様です、先輩?」
床に足を着けたと同時に、待機していたらしいアイクから声をかけられたユーリは、言葉少なく口を開いた。
「アイク……何か用か?」
「はぁ……人の心がないんですか? あの日本人の少女の件で、ご報告があるから待機していたというのに、まさかお忘れで?」
「忘れてはいねぇよ……ミスアンジョウだろう? トキトウからサプリメントと称したもんを、もらって飲んでいた……その結果が出たか?」
アイクがここにいる理由なんて、それしか思い浮かばない。彼が口を開こうとした時だった。無機質な女性のアナウンスが格納庫内に響き渡った。
『ユリシーズ・バーレイ准尉、アイザック・アーヴァイン准尉。レイン・エンジェル博士がミーテイングルームにてお待ちです』
名前を呼ばれたユーリとアイザックことアイクは、お互いに視線を合わせる事なくミーテイングルームへ向かう事にした。その道中で、アイクがユーリに先程伝えようとした件について話し始めた。
「それで、ミナレ・アンジョウについてですが……体内から疑似怪獣の成分と同じ物が微量に検出されました。どうやら、信徒達が配っているのはカタストロイに関連する何かで間違いないようですね。薄気味悪い事この上なくて、嫌悪すら湧きますが」
「そこについてだけは同感だ。んで? 肝心のミナレ・アンジョウは今?」
アイクは肩を竦め、首を横に振りながら答えた。
「サプリメントを簡単にもらうのもそうですが、日本人は警戒心なさすぎじゃありません? ミナレ・アンジョウなんてずっと取り乱してトキトウの心配ばかり。お話になりませんよ」
「日本人で一括りにする問題発言は聞かなかった事にする。それに、謎のサプリメントが流行しているのは世界規模だろうが」
ユーリの言う通り、信徒達があらゆる手段で流行させているのが謎のサプリメントだ。その成分分析は今なお、大まかにカタストロイと関連がありそうだ……という所までしか至っていない。その上、サプリメントの服用でどのような作用があるのか? そこすらも解明できていないのが現状だ。
「それは失礼。ただ、おかしな時期に教師が外部から入って来たというのに、どうも疑わなさすぎる。そこが気になっただけですよ」
「俺は日本人じゃないからな、その心理についてはわからん。だが……潜入しやすかったのは事実だな」
そんな会話をしつつ、二人はミーテイングルームへと入って行く。安城美為の今後の扱い等、まだまだ日本での任務がしばらく続きそうだと思いながら――。