疑似怪獣
大災害の悪魔、略称をカタストロイ。
ソロモン諸島近海から突如現れた有機生命体……怪獣は、謎が多く解明されていない事が多い。
だが、判明している事もある。
それは……なんらかの理由により、カタストロイの信徒となった人間を、疑似的なカタストロイに変異させるという事。
簡易的に、変貌した彼らの事を人々はこう呼んだ。
疑似怪獣と。
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走るユリシーズの背後から、建物が崩れる音がする。巨大化により、建物が形状を維持できなくなったのだ。瓦礫が落ちて行く音が響く。
それに構わず、ユリシーズは目的地にたどり着いた。
そこにあるのは、彼の愛機。
カタストロイに対抗するために生み出された人型機動兵器、マシーネ・エンゲル。通称M.E.。
白を基調とした機体色に黒いラインが全体に入った、右腕に杭打機を着装したM.E.が主を待つかのように佇んでいる。
ユリシーズは軽やかな動きで、コマンドを入力し右腕の端末からワイヤーを射出してコックピットの前に降り立つと、ロックを解除し中に乗り込んだ。
操縦席に座ると、操縦桿を握る。それを合図に、M.E.が起動した。
動き出すM.E.の中、ユリシーズに向けて音声通信が入る。
その声は、無機質な女性の声だ。
『ユリシーズ・バーレイ准尉。疑似怪獣をこちらでも確認しました。これより、標的をロンウェーと命名。標的を速やかに排除して下さい』
「簡単に言ってくれるな……まぁいい。これは俺の仕事だ、果たしてみせるさ」
疑似怪獣、ロンウェーがこちらに向かってくる。すっかり人の原型を失い、メタリックな身体に四足歩行、ドリルのような形状をした尻尾を生やしたその姿は、まさしく怪獣そのものだった。
ユリシーズは、エルプズュンデのブースターを噴かせると一気に前進し杭打機を構える。
「穿つ……!」
ロンウェーの腹部に杭打機の先端を打ち付けると、シリンダー部分を回転させ五発の杭を打ち込んで行く。青い体液が、ロンウェーから流れるのを確認すると、一旦先端を抜いて後退し距離を取る。
唸り声をあげると、ロンウェーが尻尾のドリル部分を回転させ、エルプズュンデめがけて振りかざす。
ギリギリで避けるが、追尾するかのように迫って来る。
ユリシーズは、右腰のホルダーから拳銃を取り出すと、ドリルに向かって特製の弾丸を放ち、牽制しながらなおも後退し距離を取る。
「このままじゃじり貧だな。あれを出すか……音声入力……OK……座標指定クリア。到着まで残り三十秒か」
牽制を止めると、ホルダーに拳銃を戻し、再度ブースターを噴かせて杭打機をドリルに打ち込む。回転を防がれたドリルからまたしても青い体液が漏れ出る。
その時、ドリルから重さが少し消えた事に気づいたユリシーズは、先端を抜き取ればドリル部分が地面に落下した。視線を向ければ、切り離したのだろう……ロンウェーの尻尾の先端に新たなドリルがあった。
「ちぃ! トカゲの尻尾切りじゃあるまいに……っとぉ!?」
新たに生えたドリルが回転し、青い光線を放ってきたのだ。間一髪でかわすと、ユリシーズは、ビルの隙間を利用して、攻撃を避けて行く。
一進一退の戦いに終止符の一手が来るまで――後五秒。