第3話 炎上
「うおおおおおおおおおお」
どこからともなく雄叫びが聞こえた。
「燃やせええええ燃やせええええ」
なんだなんだ。声がする方向に目をやると火の手が上がっていた。周りもザワザワしている。逃げる人もいれば、逆に火元に近づく人もいる。一体何が起こってるんだ。俺はうろたえるばかり。
「すぱみさん、どうすればいいと思う?」
「プロフ見て~」
突然の出来事に身動きできないでいると、目深に帽子を被った怪しげな長身の男が歩み寄ってきた。
「よお、そこの小僧。この森に来るのは初めてか?」
「は、はい、そうです。」
「だろうな。慣れて無さそうだったからな」
「火の原因は何なんですか?」
「飲食店だ。店員がふざけて何か迷惑なことをしたらしい」
男の目線の先には焼け焦げた飲食店の建物があった。
「そうだ小僧、この森について詳しく説明してやろう。お前も有名になりたいんだろ?」
「なりたいです!」
「よし。何から話そうか……」
男はタバコ片手に、この森について話し出した。
「有名になるにはいくつか方法がある。面白いことをすれば人は集まる。しかし面白いことをするのは大変だ。何か工夫をしなければならないし、洗練された技術も必要だ。今一度考えてみろ。お前にそれが出来るか?」
そんなことを言われると不安になってきた。
「なあに、不安がる必要はない。最初に言っただろう、有名になるにはいくつか方法があると。苦労せずに有名になる方法がある」
「本当ですか、教えてください!」
すると男はタバコの火で足元の植物を燃やし始めた。
「火遊びだよ」
小さな煙が上がり、何人か見物客がやってきた。
「ほら見てみろ、野次馬が集まってきただろう。結局、人は刺激を求めている。退屈な毎日を彩るような炎を求めている。だからこうやって火遊びをして注目を集めるのさ。簡単だろ?」
確かにこれなら自分でも出来るかもしれない。なんて有用な情報なんだ。
「ありがとうございます!俺も火遊びで有名になります!」
「頑張れよ」
「そうだ、あなたの名前を教えてください」
「ダイエン・ジョーだ」
ダイエン・ジョーと別れてしばらく歩くと、後方から火の手が上がった。その火はどんどん燃え広がり、やがて火の渦のようになった。大炎上だ。もしかして火元はダイエン・ジョーではないか。俺は火元に向かって走る。
火の周りには既に人だかりが出来ていて、火元が何なのか分からない。一体何の炎上なんだ。周りの人の会話に耳を傾けてみた。
「世界の平和が脅かされます」
「え!?ショックです」
「من فضلك لا تترجم」
「プロフィールに私のヌードを掲載」
「失望しました。人々はこれを非難するでしょう」
「え!?ショックです」
だめだ。どういう炎上なのか全然分からない。もっと、もっと炎上の中心に近づかなければ……。
「あちっ!!!」
火に近づきすぎて服に火が燃え移った。熱い、苦しい。いくらか煙も吸ってしまい意識も朦朧としてきた。俺はここまでなのか……。
「大丈夫かおぬし!」
例の爺さんの声がする。群衆の中から爺さんの顔が見えた。爺さんは俺の手を掴んだ……。
そして、気付いたら俺は草の上で寝そべっていた。