第1話 X
とにかく俺は有名になりたかった。
有名になるため、承認欲求を満たすため、俺は森へ冒険に出かけるのだ。
その森の名は、X。
森の入り口には爺さんが佇んでいた。近づくと爺さんは歩み寄って俺に話しかけてきた。
「おぬし、この森に入るのか?」
「そうさ!この森で俺は有名になってやるのさ!」
「やめておけ」
「え?」
急にそんなことを言われ、きょとんとしてしまった。
「やめておけ、と言っておる」
なんなんだこの爺さん。俺は苛立ちを覚えた。
「あんたに止められる義理はないが」
「わしはこの森に遥か昔からおる。この森は変わってしまった。もうここは人の住める場所ではない。別の森に行くべきじゃ」
爺さんは真剣な眼差しでそう言った。
しかし俺は知っている。数ある森の中でも、Xの人口は群を抜いて多い。
X以外で俺のどでかい承認欲求が満たされることはないのだ。
「そんな爺さんの戯言いちいち聞いてられねーよ。いくら止めても無駄だよ。俺は有名になるためにここに来たんだ」
爺さんは渋い顔をして、ため息をついた。
「そうか。そこまで行きたいのなら行くがよい」
ここで純粋な疑問がわいた。
「なんであんたはこの森に住んでるんだ? 人の住める場所じゃないならあんたも別のとこに行くべきだ」
爺さんは遠い目をしてこう言った。
「わしはこの森で、青い鳥を探してるんじゃ」
「青い鳥?」
「ささやかな幸せのことじゃ。わしはいつからか、それを見失ってしまった」
そういえば昔、この森には青い鳥が棲んでいたと聞いたことがある。だが昔話は今の俺には関係ない。
「ああそう。見つかるといいな」
「そういえばおぬしの名前を聞いていなかったな。名を何という」
「バズ・リテーネ。あんたは?」
「蚕忠じゃ。達者でな」
「じゃあな!」
俺は森の中へと歩を進めた。