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悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します  作者: 水空 葵
第2章

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83. 肩の荷が下りました

 黒竜は卵ごと私が押しつぶして、そのまま倒したらしい。

 被害を出さずに対処出来たのはいいけれど、この魔力の塊はどうすればいいのかしら……?


「なんだ、この魔力の塊は……。うぷっ……」

「グレン様!?」

「何かで見たことがあるが、濃すぎる魔力に晒されると酔うらしい……。

 多分、黒竜の卵の中身のせいだ……」


 私には何も起きていないけれど、周りを見てみると、近くにいた人の中には気絶している人もいた。

 治癒魔法をかけても何も起こらなかったから、魔力が消えていけば元に戻りそうね。


「この魔力、どうしましょう……」

「魔石と同じように、何かに使えないか……?」

「試してみますわ」


 卵の中身に触れながら、私が知っている中で一番魔力を使う防御魔法を使ってみる。

 必要な魔力の量が多すぎて、魔法陣を描いて効率を上げても私一人では扱えない、町全体を包み込む結界の魔法。


 効果は、術者に敵対する人と魔物が入れなくなるだけ。

 けれども、一度発動してしまえば、意識しなくても込めた魔力の分だけ動き続けるらしい。


 領地にあるアルタイス邸の魔物除けに似ているけれど、この魔法の方が上位になると本に書いてあった。

 そんな魔法だけれど、一番魔力の効率が悪くなる無詠唱……は私の技量が足りなくて出来なかったけれど、詠唱するだけで発動してしまった。


「成功、したみたいです」

「そうみたいだな……。まだ気分は良くないが、魔力が消えたのは分かる」

「本当に大丈夫ですか?」


 顔色も酷くなっているから心配だわ……。


「少し楽になったから、もう大丈夫だ。」

「分かりましたわ」


 治癒魔法をかけても、やっぱり何も起こらなかったから、グレン様が落ち着くまで倒れてしまった人達に治癒魔法をかけていった。




   ◇




 あれから十数分。

 魔力酔いになっていた人達が全員復活して、工事も再開されることになった。


 けれども、水道が完成するよりも先に井戸が全く出ない場所が出てきてしまった。


「まずいな……」

「こうなったら、町の人全員に参加してもらいましょう!」

「あまり権力を使いたくはないが、今はそんなことも言ってられないな。

 俺も工事に参加しよう。指導者がただ指示を出しているだけでは反感を買うからな」


 グレン様がそんなことを言い出して、護衛さん達も工事に加わるようになった。

 水を生み出す魔道具はもう完成しているから、あとは町中に水を届けるための管を作るだけ。


「水が枯れてしまったところは、穴を掘らずに地面の上に管を置くことにする。

 埋めるのは後回しだ」

「承知しました」

「レイラ、錬金術で管を作って欲しい。今のペースだと間に合わなくなる」

「分かりましたわ。では、お屋敷に戻って作れるだけ作ってみますわ」


 今回の水道では、木の枝のように太い管から細い管が分かれていくような作りになるから、何種類かあるのよね。

 でも、鍛冶屋さんが満遍なく作ってくれているから、私はそれを見ながら魔法陣を描いていく。


 金にも触媒は必要だけれど、出来るだけ薄くすれば公爵邸にある物だけで足りると思う。


「一つ目は完成したわ。次はこれね」

「奥様、私もお手伝いしますわ」

「ありがとう。外側から三番目の輪までは同じだから、先に描いてもらえるかしら?」

「分かりました」


 カチーナの手も借りて、魔法陣を描いていく。

 水が無くなったら魔物の襲撃よりも恐ろしいことになるから、雑談を交わす余裕も無くなってしまった。


「奥様。ここまで終わりました!」

「ありがとう。私の部屋から宝石箱を持ってきてもらえるかしら?」

「分かりました」


 あの中にはジャスパー様から贈られた金の装飾品も入っているから、触媒にするために持って来てもらう。

 かたちを変えるだけなら魔力の効率も良いのよね。


 ちなみに、あの趣味の悪い装飾品を今も持っているのは、何かあった時に活用しようと思っていたから。

 ……というのは建前。本当は、趣味の悪いデザインのせいで、どの宝石店も買い取ってくれなかったのよね。


 こういう形で役立てないと捨てることになってしまう。

 捨てられるよりも人の役に立つ方が装飾品も喜んでくれるはずだもの。


「お待たせしました。重くて手間取ってしまいました」

「ありがとう。ちょうど魔法陣も書き終えたから、今から始めるわ」


 それから、私は魔石を手にとって、錬金術の詠唱を始めた。


「ずっと気になってたのですけど、どうして大広間なのですか?」

「見ていたら分かるわ」


 詠唱を終えてから返事をすると、魔法陣から少しずつ管が生えてきて、数十秒で三階分の高さがある大広間の天井に届きそうな長さになった。

 普通の部屋でこれを作っていたら、天井に穴が空いてしまうのよね……。


「なるほど、理解しました。それにしても、よく倒れませんね……」

「ブランが内側から支えてくれているから、大丈夫よ」

「あんなに小さくても、力はあるのですね」

「そうみたい。だから、うっかり踏んでしまっても大丈夫よ」

「そんな罰当たりなことは出来ません……」


 詠唱の合間で雑談しながら、ひたすら魔法陣を作っていく。

 けれど、陽が落ちる頃になっても必要な数の三割しか作れなかった。


「グレン様。目標に届かなくて申し訳ないですわ」

「問題無い。鍛冶屋が頑張ってくれて、これを合わせたらもう十分だ」

「そうでしたのね。良かったです……」


 でも、結果は良い方向に動いてくれて、ようやく肩の荷が下りた気がした。

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【あらすじ】
  義母と実父の会話を聞いてしまったレティシエルは、追い詰められていた。 実父が愛してやまない義母によって捨てられようとしていたから。
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