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悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します  作者: 水空 葵
第2章

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82. 卵を運びます

「ブラン、しっかり掴まってて!」

「うん」


 あと一時間で黒竜が現れる。

 そう聞いていたら、じっとしている余裕なんて無かった。


 今は風魔法を使ってグレン様のいる場所に飛んでいるのだけど……。


「旦那様、空から人が!」

「ああ、レイラか。

 何かあったのかもしれない」


 まだ離れているのに、もう私の存在に気付かれていた。

 空を飛んでいたら目立つのは分かるけれど、今まで何かを話していたわよね……?


 少し不思議だけれど、気にしないことにしてグレン様の前に着地しようとする私。

 けれど、風魔法で空を飛ぶのが久々だったせいかしら? 少し失敗してしまった。


「あっ……」

「レイラ!」


 勢いよく身体が横に流されて、体勢を崩してしまった。

 ちょっと痛いかも……だなんて思って目を瞑ったのだけど、痛みはいくら待っても訪れなくて、代わりに誰かに受け止められた感じがした。


「危なかったな」

「ありがとうございます……」


 グレン様は今の一瞬でも動けるみたいで、目を開けるとグレン様のお顔が間近に見えた。

 すぐに地面に下ろされたから、一瞬だけだったけれど……それだけで鼓動が速くなるのを感じてしまう。


 ……きっと失敗に驚いただけよね?


「レイラが失敗するとは珍しい。何かあったか?」

「ええ。黒竜の卵が見つかりましたの。あと一時間で(かえ)ってしまうみたいです」


 鼓動を気にしないようにして、グレン様の問いかけに答える私。

 すると、グレン様の雰囲気が一瞬で変わった。


「あの黒竜がまた出てくるのか?

 それも、この場所にだと?」

「ブランの言葉の通りなら、そうなるはずですわ」

「そうか、分かった。

 工事は中断だ。すぐに全員を避難させよう」

「待ってください。まだ卵なので、運んで町の外に出すことも出来ると思いますの」


 すごく大きな卵でも、魔力を纏って引っ張れば運べるようになると思う。

 工事を止めている間に井戸が枯れてしまったら大変だから、工事は止めない方が良いと思うのよね。


 でも、グレン様は私の意見を受け入れなくて、そのまま執事さん達に指示を出していた。


「そうかもしれないが、万が一のことがある。

 過信は良くないよ」

「分かりましたわ……」


 指示を出し終えてから、そう口にするグレン様。

 どうやら卵を運んでいる時に孵ってしまうことを心配しているみたいで、町の外に繋がる道の周りにいる人達を全員避難させる指示を出していたのよね。


「叩かなければ大丈夫なんだけど……心配性だなぁ。どこかの聖女様の性格が伝染(うつ)ったのかな?」


 カストゥラ家の統治はそこまで領民を大切にしていなかったことを知っているから、少し意外だった。

 ブランが大丈夫と言っているから、その万が一のことも起こり得ないとは思うのよね。グレン様の気持ちは分かるけれど、必要以上に慎重になると、領民達から不信感を抱かれてしまう。


 こういう時の判断はお父様もすごく悩んでいたから、難しいのは分かるけれど……。

 やっぱり、この避難の指示は領民達から反感を買ってしまった。


「まさか、こんな町の真ん中から出てくるなんてあり得ないですよ」

「それよりも水道とやらを優先するべきです。水が無ければ赤子はすぐに死んでしまいます!」

「レイラ様が居れば何とかなるんですよね?」

「最悪、俺達は死んでも構いません。その代わり、井戸が枯れる前に水道を完成させたいんです」


 町を水浸し……いえ、洪水にしても大丈夫なら、水魔法でみんなに水を届けられる。

 けれども、その水がどれくらい恐ろしいものなのかは私も知らないから、黒竜がここで暴れはじめる方が被害が少なくて済む。


 この周りに障壁魔法を張っておけば、被害もこの卵の周りだけで済むのだから。


「グレン様。卵を運ぶ時に通る場所の工事を後回しにして、離れている場所の工事をさせて下さい。

 そうれなら、納得してもらえると思いますわ」

「分かった。しかし、ここが完成しなかったら……」

「その時は、私が水魔法で管の代わりをしますわ」

「そんなことも出来るのか!? 分かった。助言ありがとう」


 少し目を見開いたグレン様だったけれど、すぐに普段の表情に戻ると執事さん達に指示を出していた。

 これで、黒竜が生まれてきても誰かが酷い怪我を負うようなことにはならないはずだわ。


 次の問題は半分以上が埋まっている卵をどうやって掘り起こすか、なのだけど……。


「レイラの力なら、そのまま引っこ抜けるでしょ?」

「そんな力は無いわよ……」

「物は試しだよ。一回やってみて?」


 ブランにそう言われたから、魔力を纏わせてから卵に触れる私。

 その瞬間、魔力を奪われそうになったから、慌てて抵抗した。


「魔力を吸われそうになったわ。本当に大丈夫なのかしら?」

「抵抗出来てるみたいだから、問題無いと思うよ」


 そんな言葉が返ってきたから、魔力を奪われないように気を付けながら腕に力を入れると、パキパキという何かが割れそうな音が聞こえてきた。

 よく見ると、卵にヒビが入っているのだけど……。


「ねえ、これ生まれたりしないわよね!?」

「うん、大丈夫。もっと力を入れて!

 そのまま引っ張って!」


 言われた通り、力を込めてから上に持ち上げてみると、周りの土が少しだけ持ち上がった。

 けれども、何かに引っ張られるような感じで卵が元に戻ってしまった。


「力が足りないみたいだね? 本気でお願い!」

「分かったわ……」


 この卵は私が両手でなんとか抱えられるくらいの大きさだから、力を入れにくい。

 こういう時は魔力で身体を動かすと上手く出来るのだけど、また嫌な音が聞こえてきた。


「レイラ、なんかミシミシという音が聞こえるが、大丈夫か?」

「不安になってきたので、障壁魔法で囲っておきますわ」


 まずは障壁魔法を使って……。

 それから、全力で魔力を動かした。




 バンッ!


 直後。そんな音が聞こえたと思ったら、卵の感覚が無くなってしまった。


「あっ……」

「レイラ、大丈夫か!? まさか爆発するとは……」

「私は無事ですわ。でも、卵が……」


 卵の殻を破ってしまったみたいで、中に入っていた真っ黒な液体が穴に流れていく。

 びっくりするくらいの魔力が入っているみたいだから、慌てて穴から出たのだけど……。


「レイラ、ごめん。黒竜の卵、潰れちゃったみたい。

 黒竜ももう死んだよ」

「え……?」


 すぐにはブランの言っていることを理解できなかった。

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  義母と実父の会話を聞いてしまったレティシエルは、追い詰められていた。 実父が愛してやまない義母によって捨てられようとしていたから。
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