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悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します  作者: 水空 葵
第2章

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81. 大岩に当たりました

「奥様、お待ちしておりました。

 旦那様もいらしたのですね」


 工事の采配を担当してくれている執事さんがいる場所に入ると、早速声がかけられた。

 ここは工事本部になっている小屋で、工事に関わる人たちが頻繁に出入りしている。


 ちなみに、この小屋は馬で運べる大きさになっていて、工事の進み具合に合わせて移動することになっているらしい。

 魔道具が無くても、効率を重視して計画が進められているみたい。


「ええ。私が手を貸して欲しいとお願いしたら、快諾してもらえましたの」

「そういうわけだ。何からすればいい?」

「このスコップを配りに行くので、グレン様はここと……ここでお願いしますわ」


 小屋の壁にはこの町の地図が貼られていて、工事の進み具合が書かれている。

 今は十ヶ所で工事が進められているから、五人で手分けしてスコップを配りに行くつもりだ。


「分かった」

「カチーナはこの二つをお願い」

「畏まりました」


 指示を出し終えたら、私は自分で決めた場所に向かうことにした。


 今回は荷車は使わないけれど、一本のスコップに四本のスコップを縛り付けてあるから、このスコップに魔力を流した状態で持ち上げる。

 これなら荷車を使う必要が無いから、かなり楽に運べるのよね。


「僕が持つよ?」

「これくらい大丈夫よ。ブランは周りの警戒をお願い」

「分かった」


 スコップ十本は普通なら一人で持てないくらい重いけれど、これは魔道具だから紙を持ち上げる感覚で動かせる。

 工事はあまり進んでいないから、目的の場所には一分で着いた


「皆さん、小さい力で動かせるスコップを持ってきましたわ」

「本当ですか!?」


 このスコップを作っている話はもう伝わっていたみたいで、声をかけると一斉に視線を向けられる。

 全員、一目で力持ちだと分かる体格をしているから、こんなに嬉しそうな反応をされるとは思わなかったわ……。


「ええ。使い方は、ここを握りながら動かすだけなので、試してみて下さい」

「分かりました!」


 説明しながらこの場にいる人達に配っていくと、みんな掘りかけの穴に戻っていった。

 そして……。


「これはすごい! 土の塊が埃のように軽く感じる!」

「なんだこれは。楽しすぎる!」


 ……全員から気に入ってもらえたみたいで、穴がどんどん伸びていく。


「これ気に入りました! ありがとうございます!」

「役に立てて良かったですわ」

「これなら腰も痛めませんし、大助かりです!」


 次の場所に配りに行こうとしたら、深々と頭を下げられた。

 この計画は私達が領民にお願いして進めているものだけれど、重要さも理解されているらしい。


 その証拠に、近くで見ていた人達からこんな会話が聞こえてきた。


「このスコップがあれば、俺達でも手伝えるぞ!」

「ああ、間違いない。これも水のためだ。

 仕事を止めてでも参加するぞ!」


 嬉しい声だけれど、今あるスコップは五十本だけ。

 この様子だとすぐに足りなくなってしまいそうだわ……。




 そんな危機感を覚えながらも次の場所に向かうと、少し問題が起きていた。


「この岩、どうやっても割れそうにありませんね」

「町中にこんな大岩があるとは……予想外でした」


 ここも立派な体格の人達が穴を掘り進めていた様子だけれど、土の中から顔を出した大岩に手間取っているみたい。

 どこに用意していたのか分からないピッケルで岩を叩いても、小さな破片が飛ぶだけでヒビすら入らない。


「……やっぱり駄目ですね」

「私に出来ることはあるかしら?」

「奥様、早速ですが例の魔道具を貸していただけないでしょうか?」


 悩んでいる人達に声をかけると、様子を見ていた執事さんから期待するような声が返ってきた。

 この岩がスコップで砕けるとは思えないけれど……試す価値はありそうね。


「ええ、分かったわ」


 スコップをまとめている紐をほどいて差し出そうとすると、ブランが翼を広げて制止してきた。


「何かあるの……?」

「これ、黒竜の卵だよ」

「え……? どうしてこんなところにあるの?」


 卵にしてはゴツゴツしているのだけど、ブランが言うなら間違いは無いと思う。

 けれども、もしそうだとすると町の中……それも公爵邸の近くに埋まっているというのは不穏すぎる。


「黒竜は死ぬ前に転移魔法で卵を産むんだ。

 子供の黒竜の餌が沢山ある場所の土の中にね」

「餌っていうのは……」

「人間だよ」


 魔物は好んで人を襲うことをしない。

 けれども、黒竜は好んで人を襲う。


 その理由は、人が餌として見られていたからなのね……。


 黒竜に誰かが食べられたという話を耳にしたことは無かったけれど、私に知らされていなかっただけなのかもしれないわ。

 お父様とグレン様はそんな危険な魔物を倒すために、過酷な雪山を超えていたのね。


 私にはブランという心強い家族が居るけれど、お父様達はそうではないから、相当の覚悟をしていたに違いないわ。


「白竜様。この卵から黒竜が生まれてくる時期は分かりますか?」

「刺激すると早くなるよ。今みたいにね。

 でも、生まれたばかりの時は卵を産めないから、ここで殺してしまうのも手だと思う」


 町の中で黒竜と戦うことになったら、たくさんの人が被害を受けるに違いない。

 でも、ここで危険な黒竜を倒せたら、もう二度と帝国のような悲惨事は起こらない。


 どうするのが正解なのかしら……?


「グレン様に相談してみますわ。それまでは、放置しておきましょう」

「分かりました」

「ブラン、この卵はいつ(かえ)るの?」


 まだ余裕があると信じて、そんな問いかけをしてみる私。

 けれど、返ってきた答えは私と周りの人達を固まらせるものだった。


「あと一時間くらいだね」

「冗談……ではないのよね?」

「もちろん」


 と、とにかく今はグレン様に相談しなくちゃ……!

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【あらすじ】
  義母と実父の会話を聞いてしまったレティシエルは、追い詰められていた。 実父が愛してやまない義母によって捨てられようとしていたから。
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