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悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します  作者: 水空 葵
第2章

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76. 伝説の素材です

 思い付いたら即行動。

 私は庭師さん達に声をかけながら、執務室に戻って計画会議を始めることにした。


 今回は町全体を巻き込む大事業になるから、執事さん達も勢揃いだ。


「……という方法にすれば、簡単に維持も出来ると思うの。

 みんなの意見も聞かせてもらえるかしら?」


 町全体に水を通す管を張り巡らせて、街の中で一番高い場所にあるこのお屋敷で作った水を流していくという案を説明すると、みんな頷いていた。


「なるほど、庭園の水やり装置を参考にされたんですね。

 しかし、あれは水を流している間にずっと水が出続けるものです。下手をすれば洪水になるでしょう」

「たしかに……」

「時間を決めて流すというのは如何でしょう?」

「大量の水を貯める手段が無いので、喉が渇いても飲み水を得られないという事態になりますぞ」


 でも、問題点はいくらでも出てくるもので、工期に人手に予算に材料といった問題も山のように出てくる。

 けれども、解決案も次々と出されている。


「水があふれる問題ですが、厨房で使っていた水溜めに付いていた蛇口と言うものがあります。

 実物をお見せした方が早いと思うので、一度来ていただけますか?」

「分かったわ。すぐに行きましょう」


 言葉を返して厨房に向かうと、料理長さんが言っていた意味が分かった。


「こちらになります。

 上に水を貯めておいて、この棒を捻ると少しずつ水を流せるんです。構造は説明が難しいので今はしませんが、これは大量に用意できます」

「これがあれば問題無さそうね。すぐに計画に取り掛かりましょう」


 お金の問題はグレン様の承諾が得られるまで残ってしまうけれど、この町の人々を救うためのものだからきっと認めてくれると思う。


 ちなみに、公爵家ほどの大きさになると私の仕事は計画の立案を承認したりするくらいで、材料や人材の手配は執事さん達のお仕事なのよね。

 今の私がすべきは、水道整備と名付けられた計画のために、水を生み出す魔道具を作ること。


「そういえば、錆ないように対策してあるのかしら……?」

「金を表面に薄く塗って錆びないようにするそうですよ。少しお高くなりますが、飲み水ですから仕方ありません」

「そんな方法があるのね。ありがとう」


 上級魔法の魔法陣を描きながらお礼を口にする私。

 水魔法に限らず、魔法は自由に出てくる位置を決められるのだけど、魔道具も例外ではない。


 計画では魔道具で生み出した水を大きなタンクに溜めて、それから水の重さを利用して町中に行き渡らせることになっている。

 壊れたら大変だから、魔道具は三つ用意した方が良いみたい。


「これ、大きいですね……」


 ちなみに、今回の魔法陣は絶対に欠けたりしないようにと、神鉄(ミスリル)という高級な金属を使うことになった。

 神鉄は叩いても潰しても火魔法で焼いても壊れない優れものなのだけど、錬金魔法でしか作ることができない。


 その錬金魔法というのが厄介で、なんと全部の属性を使えないと扱えない。

 だから今残っている神鉄で出来ている武器は、昔の聖女様が作ったものらしい。ちなみに、作るときは大量の銀と鉄が触媒として必要になるから、相応の理由が無いと作ることも難しい。


「大きく書いた方が見やすいからこうしているの。

 神鉄で作る時はもっと小さくするわ」

「なるほど、そう言うことだったんですね」


 魔法陣を描き終えたら、錬金魔法のための魔法陣を描いていく。

 錬金魔法は難易度の高い儀式魔法だから、描いておかないと失敗してしまいそうなのよね。


 普段は柔らかい金属に傷を付ける形で魔道具を作っているから、こんなに大変ではないのだけど……。


「ええ。魔法陣は書けたから、作っていくわね」

「分かりました」


 難易度が高い魔法だから、声が枯れないように喉を潤してから詠唱を始める。

 それから詠唱し続けること数分。


 魔法陣が光を放ち始めて、一気に魔力が減る感覚に襲われた。

 錬金魔法の魔法陣の真ん中には思い描いていた通りの魔道具になる板が現れていて、仄かに光を放っている。


「これがミスリル……。初めて見ました」

「こんなに大きなミスリルを見るのは私も初めてだわ」


 ミスリル自体はお母様が持っているアクセサリーで見たことがあるけれど、この大きさのものは初めてなのよね。

 それに……。


 出来立てのミスリルが光り輝いているなんて、知らなかったわ。


「これでアクセサリーを作ったら、間違いなく綺麗ですね!」

「時間がたつと光らなくなるはずよ。それでも見惚れるくらい綺麗なのだけど……」

「ええ、これで奥様の装飾品も作りましょう! 絶対に似合います!」


 そんなことを言われて、ついミスリルで作ったアクセサリーを身に着けた自分を想像してしまう。

 確かに悪くないかもしれないけれど、装飾品で私が霞んでしまいそう……。


「絶対に私が霞んでしまうわ」

「そうはならないと思います。奥様は誰が何と言おうとお美しいですもの」

「そうかしら?」

「ええ。私もそうですけど、侍女は全員頷くと思います!」


 少しずつ逃げ道が塞がれている気がするけれど、問題もあるのよね。

 それはミスリルを作るときに必要な魔力の量が桁違いに多いこと。


 今のミスリルを作るだけで、私の魔力が半分以上無くなってしまった。

 おまけに、錬金魔法は魔石にある魔力では上手く動かなかったから、頑張っても一日に二つだけしか作れない。


「魔力がもっとあれば作れるけれど、今日はもう作れそうにないわ」


 カチーナは私がミスリルの装飾品で着飾るところを見たそうにしているから、いつものお礼で見せたいとは思う。

 でも、すぐには出来ないのよね……。


「そうだったのですね。そんなに大変だとは思いませんでした……」

「良いのよ。落ち着いたら、作ってみるわ」

「本当ですか!? ありがとうございますっ!」


 満面の笑顔を浮かべているカチーナを見ていたら、私まで明るい気分になった。

 笑顔の破壊力、凄まじいわ……。

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水空 葵 の新着小説
【あらすじ】
  義母と実父の会話を聞いてしまったレティシエルは、追い詰められていた。 実父が愛してやまない義母によって捨てられようとしていたから。
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