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5. 全部手放します



    ◇



 翌日。

 私はグレン様に付き添われて学院に来ていた。


 二度と来たくない場所だけれど、退学の書類は本人が出さないといけないことになっているのよね。

 ちなみに、午前中のうちにグレン様と書類上で結婚したことになっているから、今の私は伯爵令嬢ではなく公爵夫人の肩書を持っている。


 まだ公表はしていないから蔑むような視線ばかり向けられているけれど、全く気にならなかった。


「退学の書類を提出したいのですけど……」

「学院長を呼んできますので、少々お待ちください」


 受付に声をかけると、そんな言葉が返ってくる。

 ちなみに、この学院に三年間通うことは貴族の義務になっているけれど、結婚した場合は免除される。


 だから私も退学しても問題無いのだけど……。


「どうぞお入りください」

「失礼します」


 一人で学院長室に入ると、学院長から嫌そうな目をされた。


「レイラ君、君は成績は良いはずだ。

 何故退学を選ぶのかね?」

「私の居場所が無くなってしまいましたので」


 それから簡単に昨日のパーティーでの出来事のことを話すと、学院長はますます嫌そうな顔をしていた。


「そうか。それなら仕方あるまい。

 だが、君のよう優秀な人を退学にはさせたく無い。特別に今後の授業を免除するから、形だけでも卒業してもらえないだろうか?」

「分かりましたわ。では、授業に出ない間の授業料も免除してくださいね?」

「もちろんだ」


 この展開は予想していなかったけれど、私には利点しか無いから提案を受け入れることにした。

 私を卒業させることに何の利点があるのかは分からないけれど、学院を卒業していれば平民になっても仕事の選択肢が増えるから、好都合だわ。


「では、ここにサインをお願いします」

「はい」


 こうして、私は学院に二度と行かなくても大丈夫なようになった。




 話が終わり、一礼してから部屋を出ると、グレン様からこんな問いかけをされた。


「その書類、まさか拒否されたのか?」

「ええ。でも、もう二度と学院に行かなくても済むみたい」

「そうか。それは好都合だな。

 俺も必要な授業は取り終えているから、学院に行く必要は無いからね」

「そうでしたのね」

「ああ。だから、領地の屋敷で過ごせる。

 俺は領主の勉強とやらで、空けることが多くなるが」


 そんな言葉を交わしながら、学院を後にする私達。

 これから一度、私の暮らしている屋敷に戻って、荷物をまとめてから公爵邸に向かうことになっている。


 ちなみに、領地を持つ貴族は王都と領地に屋敷を構えていて、必要に応じて使い分けるのが普通だ。

 私の家では私達が学院に通う時期になってから王都の屋敷に移動して、私達が卒業したら領地に戻ることになっていた。


 私の家の領地は王都に近くて、半日もあれば王都に入ることが出来る。

 グレン様のカストゥラ公爵領は王都と隣り合っているから、私の家の屋敷よりも近いように思えるけれど……。


「屋敷まではどれくらいかかりますの?」

「丸一日だな」

「そんなにかかりますのね」


 ……公爵領はかなり広いから、隣り合っていても近いとは限らないのよね。


 そんなわけで、軽い旅気分だ。

 貴族のままだから、自由に家族と会うことも出来るから、それほど寂しさも感じていない。


「お待たせしました。到着しました」

「ありがとう」


 御者さんにお礼を言って、馬車から飛び降りる私。

 人の目があるところでは「はしたない」と言われるから、こんな風に降りたりはしないけれど、ここは 塀で囲まれた自分の家の庭だから関係ないわ。


 今はヒールでは無いから、着地も問題なし。

 グレン様は何とも言えない微妙な表情をしているけれど、これはいつものことなのよね。


「レイラは所作は綺麗なのに、こういうところが勿体ない」

「褒めてます? 馬鹿にしてます?」

「両方だ」


 そう言って馬車から飛び降りるグレン様。


「グレン様も勿体ないですわね」

「誰も見ていないから問題ない」

「私が見てますわ」

「なら問題ないな」


 軽口を投げ合いながら、玄関に入る私達。

 今回の結婚は本当に形だけだから、私は持参金を持って行ったりはしない。


 もちろん結婚指輪も用意されていなかったのだけど、婚約指輪は用意されていたから、それを代わりに着けている。

 サイズを計っていないのに、私の指にピッタリと入るサイズだったから、最初に渡された時は少し驚いたのよね。


「お嬢様、荷物をまとめておきました」

「ありがとう」


 部屋に入ると、私のドレスや部屋着なんかが纏められていたから、侍女さん達にお礼を言った。

 私の持っているドレスは殆どジャスパー様からプレゼントされたものだったのだけど、ほとんど私の好みから外れている。


 だから、荷物の中に入っているのは私が自分で選んだものと、部屋着や下着くらいなもの。

 お陰で荷物は小さく纏まっている。


「このドレス達はどうされますか?」

「処分……はもったいないから、売っておいてもらえるかしら?」

「畏まりました」


 裏切ってくれた人からのプレゼントなんて、持っているだけでも良い気分になれないから、早く手放さなくちゃ。

 お金にすれば、多少は家の助けになるよね……?

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水空 葵 の新着小説
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