表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/100

4. まずは契約から

「まず、レイラさんが婚約破棄された時の状況についてお話しします。

 レイラ、僕が話して良いかな?」


 そんな風に問いかけてくるグレン様。

 婚約破棄された時のことを話すのは難しいと感じていたから、この提案は嬉しかった。


「お願いしたいですわ」

「分かった。

 ……では、ジャスパー殿の状況から」


 そう言って、私が婚約破棄された時の状況を説明し始めるグレン様。

 それを聞いたお父様は、今度は怒りを感じたみたいで、拳を握りしめていた。


 お母様も怒りを感じているみたいで、小さく震えている。

 でも、相手の方が地位が高いから、私達だけではどうにも出来ないのよね。


「……冤罪については、他の貴族にもお願いして無実である証拠を集めてもらっています。疑いが晴れるのも時間の問題でしょう」


 グレン様はその言葉で説明を終えると、小さく一礼した。


「状況は把握しました。

 その上でお尋ねします。娘を迎えたいというのは、本気ですか?」

「はい。ギリギリまで婚約者を作らなかった理由をご存じであれば、納得して頂けると思っていましたが……」

「分かっていますが、信じ難いです」


 私は完全に蚊帳の外で、グレン様とお父様のあいだで交渉が進んでいく。


 それから少しして、お父様が折れる形で交渉は終わった。

 この状況での公爵家から縁談を頂けたら、私の地位も家の名誉も保たれる。


 けれども、相手に迷惑をかけることを嫌うお父様が渋っていたのよね。


「レイラ、僕と婚約して頂けませんか?」


 婚約の申し出は嬉しいけれど、今はグレン様の行動も疑ってしまう状態。

 ここで婚約を受け入れても、良い結果にはならないと思う。


「ごめんなさい……。私には無理ですわ」


 だから私は首を縦には振らなかった。


「理由を聞いても?」

「裏切られて罠に嵌められたばかりですから、他人を信用出来ませんの。

 ですから、今婚約を結んだとしても、グレン様に好意を向けられるとは思えないのです」


 今は何も思っていないけれど、一緒に過ごしている間に彼を嫌いになってしまうかもしれない。

 そう思うと、この婚約を受け入れたくはないのよね。


「もっともな理由だな。

 婚約するとは言っても、表向きだけで構わない。俺がレイラの後ろ盾になるだけでも良い。

 婚約破棄された時のパメラ嬢の顔は見ていたか?」

「ええ、少しだけ。理由は分かりませんけれど、私を憎んでいる様子でしたわ」

「そうだな。パメラ嬢は、一度嫌った相手は徹底的に潰そうとしてくる。

 去年、子爵家の令嬢が一人処刑されたのは、パメラ嬢が原因だ」


 そこまで聞いて、ようやくグレン様の意図が理解できた。

 きっと彼は、幼馴染に嫌われる覚悟で私を守ろうとしてくれているのね……。


「グレン様の意図は分かりましたわ。

 でも、今の私はグレン様の期待に応えられるとは思えませんわ」

「構わない。ここでは守り切れないと思うから屋敷に来てもらうが、自由にしてもらって良い。

 パメラ嬢が断罪されてレイラの身が安全になったら、出ていってもらっても構わない」

「分かりましたわ。

 ところで、グレン様に利点はありますの?」


 一応は政略的な婚約になるから、お互いに利点が無いと後々揉めることが多いのよね。

 だから確認だけしておきたいわ。


「レイラの魔法の力を得られることが利点だ。

 怪我をしてもすぐに治せる治癒の力も、どんな魔物も遠くから倒せる魔法の力も、喉から手が出るくらいには欲しいと思っている。従う必要は無いが、魔物が迫ってきたり、怪我人が出たりしたときは手を貸して欲しいと思っている」

「分かりましたわ。では、パメラ様が断罪されるまでの間、よろしくお願いしますわ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 お互いに礼をしてから、婚約のための書類の準備に取り掛かった。

 貴族のしがらみから逃げるつもりだったのに、どうして国一番の大貴族と婚約することになったのかしら?


 貴族の家に嫁入りすることも諦めて、身分を捨てて自由に生きていくつもりだったのに、自由とは程遠い公爵邸で暮らすことにもなってしまったのは、本当にどうしてかしら?

 圧に負けた私が恨めしかった。




 それから婚約についての話し合いを進めて、私とグレン様は正式に婚約者の関係になった。

 どういう訳か、明日には書類上で結婚することになっているのだけど。


 一度離婚したら、本当に良縁なんて望めなくなってしまうから、その時は今度こそ勘当してもらうわ。

 平民になれば、こういう経歴は関係無くなるもの。


「娘をよろしくお願いします」

「はい。何があってもお守りします」


 お父様とグレン様は笑顔で握手を交わしている。

 明日から私は公爵邸で暮らすことになるのだけど、上手くやっていけるかしら?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水空 葵 の新着小説
【あらすじ】
  義母と実父の会話を聞いてしまったレティシエルは、追い詰められていた。 実父が愛してやまない義母によって捨てられようとしていたから。
 けれども、気晴らしにと参加したパーティーで、とある人物と親しくなって……。 

捨てられると同時に復讐を果たす令嬢のお話
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ