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彼氏を寝とった女

「お姉さま」

 街を歩ていた時だった。聞き覚えのある声に私は振り返った。

「お久しぶりです」

 よりちゃんだった。

「・・・」

 私は絶句してよりちゃんを見つめる。しかし、よりちゃんは、なんの悪びれた様子もなく、そんな私を見ている。

「お金貸してくれませんか」

「はい?なんであたしがあんたにお金貸さなきゃなんないのよ」

「ダメですか」

「当たり前だろ。どこに自分の彼氏寝とった女に金貸すバカがいるんだよ」

「そうですよね。そうですよね」

「っていうか、肩代わりした借金返せよ」

「そうですよね。そうですよね」

 よりちゃんはしくしくと泣き始めた。

「泣いたってダメだからな」

しかし、私はこのよりちゃんの泣き方に弱かった。こういう時、よりちゃんに唯の面影がちらつく。

「そうですよね。すみませんすみません。こんな事頼めるわけないですよね」

「なんで金がいるんだよ。そんなに」

「私入院するんです」

「入院?」

「はい、私病気になってしまったんです」

「そんなの親とかなんとかに頼めよ」 

「私、親も兄弟もいなくて、天涯孤独の身なんです」

「友達とかいるだろう」

「私友だちも知り合いも一人もいないんです。生まれて初めて出来た友だちがメグさんだったんです」

「その生まれて初めて出来た友だちの彼氏を寝とったのかよ」

「すみません」

「すみませんじゃねぇよ」

「そうですよね。勝手ですよね。私、彼氏寝とって自殺にまで追い込んで、それで、自分が病気になったら、それで看病してくれなんて」

「看病まで頼む気だったのか」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

よりちゃんはまたしくしくと泣き始める。

「本当に私って嫌な女ですよね。だからいつもみんなに嫌われちゃうんです」

「そら嫌われるだろ」

しかし、なんかそこまで言われると、さすがになんだかかわいそうになって来る。よりちゃんの泣き方にもどうしても、なんか弱い。それに、天涯孤独と言われると、やはりどうしても唯の面影が、親近感を持たせてしまう。

「分かったよ、いくら?」

「とりあえず三十万」

「三十万?とりあえず?」

 驚く私を、また悲しげな憐みを誘う目で見つめて来る。

「分かったよ。そんな目で見るな。なんとかするよ」

「ありがとうございます」

「しょうがねえなぁ」

 三億と家の借金で、三十万どころの話ではなかったが、もうなんとかするしかない。

「あの病院ここです。病室は・・」

 よりちゃんは、病院の住所の書かれた紙を私に差し出した。

「もう最初から頼む気満々じゃねぇか」

 私はそれをひったくるように受け取った。

「ありがとうございます」

 よりちゃんは涙の溜まった輝くような目で、私を見上げた。

「そんな目で見るな」

「はい」

 イラつく私に、しかし、よりちゃんはうれしそうに微笑んだ。

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