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再び実家に帰る

 雅男のマンションの部屋を整理し、落ち着く間もなく私は雅男の部屋を出た。雅男のマンションの部屋は雅男が死ぬと、私の抗議などまったく届かず、あっという間に借金取りが、借金の形に持って行ってしまった。

 私は行く当てもなく実家に帰った。追い詰められていた私は、結局そこに帰らざる負えなかった。

「おおっ、愛美、いいとこに帰ってきた。酒買ってくれ」

 家に帰り着くと、さっそくおやじが私に近づいてくる。

「母さんは?」

「母さんなら奥だ」

「なあ、それより酒」

 私は父を無視して、奥に行った。母はやはり一心不乱に、あの巨大な仏壇に向かって祈っている。

「・・・」

 しかも以前にもまして、その熱と激しさを増している。狂人的な雰囲気さえあった。

「あらっ、メグちゃん」

 背後から声がして振り返ると、山田がいた。また、山田は、勝手に人の家に上がって来て、我が物顔に歩き回っている。

「久しぶりねぇ」

 山田は以前、最後にあった時よりも、さらにパワーアップした濃い化粧の顔面と巨体を揺らし、私に近づいてくる。

「元気にしてた?」

「・・・」

 元気にしている訳がない。

「丁度良かった、今度の日曜日に信者さんの集まりがあるの。またお料理とお給仕お願いね」

「・・・」

 あまりの厚かましさに、私は言葉も出て来ず茫然とする。しかし、私の反応など全く無頓着に、山田はどこかへ行ってしまう。

 私は母を見た。母は私の存在などまったく気づくことすらなく、ひたすら仏壇の中のインチキ臭い本尊に向かって祈り続けている。

 私は仕方なく荷物だけでも自分の部屋に置こうと、二階の自分の部屋に向かった。

 部屋の襖を開ける。ここに帰って来るのはいつ以来だろうか。ものすごい長い旅から帰ってきたような感覚があった。

「わっ」

 襖を開けるとそこには、知らないおっさんがいた。

「お、お前は誰だ」

 おっさんが驚いて私を見る。

「お前こそ誰だ」

「ああ、この方は柊さん。信者さんよ」

 そこに山田がやって来て、何でもないことのように言う。

「信者さん?」

 訳が分からなかった。

「あなた誰よ」

「うおっ」

 さらに奥から、別のおばさんも出てくる。

「・・・」

 どうなっているんだ。頭が混乱して、何も考えられない。

「行くところがないから、ここに泊めてあげているのよ」

 山田がまた当たり前みたいに言う。

「泊めて・・?」

「そうよ。熱心な信者さん方でね。自分の家や財産を全部売り払って、教祖様のために御寄進くださった尊い方々・・」

 私は山田の話をみなまで聞かず、慌てて兄の部屋まで走りその襖を開けた。

「わっ」

 そこにも見も知らぬ、おっさんと若い男がいた。

「・・・」

 大切な兄の部屋までもが、全く見も知らない人間の住み家になっていた。

 家は私のいない間に信者たちの宿泊所にされていた。

「・・・」

 私の想像をはるかに超えて、私の家は無茶苦茶になっていた。

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