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収穫祭の夜

 その夜、年に一度の収穫祭が始まった。

 みんな食べて、飲んで、歌い、踊り、大いに笑った。そして、また大いに食べ、飲んで、歌い、踊り、そしてまた笑った。それはどこまでもどこまでも果てしなく続く幸福のように、満天の大宇宙の星空の下、私たちを高揚させ、ありとあらゆる幸せの感情で満たした。たとえ世界が滅びたとしても、この瞬間のこの幸せは永遠なのだと、決して失われることのない幸せなのだと、みんなそう感じていた。  

何もかもが許された。今まで生きて来た人生のどんな辛いことも、どんな理不尽なことも、どんな残酷なことも、どんな間違いも、どんな悲しみも、全てが村の中央で焚かれている巨大な焚火の炎と共に許された。

こんな喜びがあるだろうか。全てが満たされ、全てが温かかった。人間としての喜びが、今ここにすべてあり、大きく心の底から、それが止まらないほど溢れている。地球よりも大きな、とてつもない喜びと幸福が、心に収まり切らないほど溢れ出していた。

「日本に帰って来てもいいんだぜ」

 マコ姐さんが言った。私たち二人は、村の広場の中央に焚かれた巨大な焚火の前にいた。

「はい」

「借金のことは気にするな。私がなんとかしたよ」

「・・・、ありがとうございます」

 私はそこで焚火の強烈な炎を見つめた。炎は天に向かって猛烈に燃え盛っていた。

「でも、私ここにいます」

 そして、私は言った。

「そうか」

「ここにいると、生きてる感じがするんです」

「うん」

「すごく生きてる感じがするんです。ああ、生きてるなって。本当に思うんです。本当に生きてるって思うんです」

「そうか」

「父も母も、こっちに来てからとても元気になりました。桐嶋もだいぶまともに戻って、今子どもたちに勉強教えてます」

「そうか、幸せなんだな」

「はい、とっても幸せです」

 私は心の底から言った。

「そうか、じゃあ、いいんじゃないか」

 マコ姐さんはそこでやさしく微笑んだ。

 私たちの頭の真上には、大宇宙と直接繋がった無限の星々が瞬いていた。

「あたしガンなんだ」

 マコ姐さんが言った。私はマコ姐さんを見た。

「お前に会うのもこれが最後かもしれない」

「・・・」

 マコ姐さんは、マコ姐さんらしからぬ少し寂しい表情をした。

「嫌んなっちゃうよな」

 マコ姐さんは、目の前の焚火の炎を見つめながら、少し笑った。

「絶対大丈夫です。マコ姐さんなら」

 私はマコ姐さんに言った。なぜか私はその時、そう思った。

「マコ姐さんは死にません」

 それはなんの根拠もない当てもない不確かなものだった。でも、私は確信していた。マコ姐さんは死なない。そんな揺るぎない自信と確信が私の中にあった。

「そうだな」

「そうです」

「あいつらを、置いて行くわけにはいかないしな」

 マコ姐さんは村人たちと楽しそうに踊るヒロシ君と子どもたちを愛おしそうに見つめた。

「家族を持つって、こんなに幸せなことなんだって全然知らなかったよ」

 そう言って、マコ姐さんは笑った。

「・・・」

 私はそんなマコ姐さんの横顔を見つめた。

「さて、あたしが夜の街で鍛えた踊りを披露してやるか」

 そう言って、マコ姐さんは、何かを振り払うかのようにみんなの踊る輪の中に入って行った。

 マコ姐さんの踊りは、素朴な伝統の踊りの中で滅茶苦茶浮いていたが、でも、村人には大ウケだった。

「お前も踊れ。あたしだけに恥をかかすんじゃないよ」

 そう言われて私も引き込まれる。私も見よう見まねでマコ姐さんと一緒に踊る。それも大ウケだった。村人全員が腹を抱えて思いっきり笑う。そこに、村の子どもたちも私たちの周りに集まって来て、一緒に見よう見まねで踊りだす。それがまたかわいくて、大ウケだった。収穫祭はさらに盛り上がった。本当に楽しい夜だった。

 私たちの喜びは尽きることなく、収穫祭は夜を徹して続いて行った。

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