看病
「ありがとうございます」
よりちゃんが本当にうれしそうに私にお礼を言う。
「気にすんな」
「私こういうの憧れてたんです。リンゴとか剥いてもらうの。ドラマとかであるじゃないですか」
よりちゃんは病院のベッドの上で、フォークに刺さった八分の一に切られたリンゴをうれしそうにかじる。
「ああ、そうなんだ。リンゴくらいいくらでも剥いてやるよ」
「私風邪とかひいても看病とかしてもらったことないんです。いつもほったらかしで」
「そうか、お前も苦労してんだな」
「私よくなりますよね」
よりちゃんが私を見る。
「ああ、絶対大丈夫だよ。人間そうかんたんに死にゃしねぇよ」
「私、腎臓が悪いみたいなんですよね」
「うん」
「もう、移植しかないって」
「そうなのか」
「でも、ドナーは順番待ちで・・」
「そうか・・」
「・・・」
「なんだよ。そんな目で見て」
よりちゃんはじとーっと、物欲し気に私を見つめてくる。
「腎臓って二つあるみたいなんですよね」
「ああ、そうだな」
「一つ取っても問題ないみたいなんですよね」
「まあ、生きてはいけるだろうな」
「・・・」
そして、またその大きな丸い目で、私を物欲し気に見つめてくる。
「・・・」
「・・・」
「分かったよ。いざとなったら、私の腎臓一個やるよ。だからそんな目で見るな」
「ほんとですか」
「ああ、だからそんな目で見るな」
「ありがとうございます。お姉さま」
キラキラとした目でよりちゃんは私を見る。
「やっぱりお姉さまはやさしいなぁ。だから私好きなんです」
うれしそうによりちゃんは言う。
「お姉さまはやっぱり本当にやさしいです」
「ほんと、やさし過ぎるよ私は・・」
私は自分に呆れながら、ため息交じりに呟いた。
「お前は本当に人が良いな」
マコ姐さんが呆れ顔で私を見る。
「お前の大事な彼氏寝とった女の看病までして」
「もう、なんだか、しょうがないですよ。自分でも呆れちゃいますけど」
私は自分で笑ってしまう。私たちは、いつもの居酒屋池田屋にいた。
「入院費用まで出してやってんだろ」
「はい」
「まったく、お前らしいよ」
マコ姐さんは呆れながらそこで笑った。
「なんかもう腐れ縁ですよ。もう何でも来いって感じですね」
「強いな」
「もうヤケです」
「両親はもういいのか」
「ええ、父がまだ、酒、酒、言ってますけど、母はもうだいぶ良くなりました。後は借金さえなんとかなったら・・」
「そうか・・、あたしも金はないからな・・、その相談にはのれんな」
マコ姐さんは渋い顔をして、ストレートの焼酎をすする。
「私も、もうこれ以上は・・」
これ以上はどうしようもなかった。返すあてもなくほんとに困っていた。
「自己破産はダメなのか」
「家が取られちゃうんです。母が・・」
「そうか・・」
やっぱり、私の苦しみに出口はなかった。




