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ピヨピヨ精霊

ピヨピヨ精霊だって公爵令嬢に恋をする。

作者: ユミヨシ

シルデフィア・デルベルグ公爵令嬢は銀の縦ロールがビシっと決まっていて、それはもう美しき公爵令嬢だ。


アルド王太子の婚約者であった女性であるが、王太子が男爵令嬢リーナと浮気をして婚約破棄をしたために、王立学園で想いを寄せていたオルドール・アイスレッド伯爵令息の弱みを握り、強引に婚約を結んだ公爵令嬢である。


王立学園で、背の高く銀髪のイイ男であるオルドールに想いを寄せている令嬢は多かった。今まで婚約者もいないオルドールが、シルデフィアと突然、婚約を結んだのだ。

それも、アルド王太子と婚約が解消されてから、すぐにである。


皆、シルデフィアが何か汚い手を使って、オルドールを脅し、婚約を無理やり結んだのではないかと噂をした。




「人の噂なんて気にしないわ。わたくしはこの国で一番、優秀な公爵令嬢。貴方のような優れた男性が婚約者になるのは当然の事ですもの。経緯はどうであろうと。」


シルデフィアは王立学園の食堂で優雅に紅茶を飲みながら、微笑みを浮かべる。


「確かに…シルデフィア様の言う通りですね。俺は優れた男性とは言えませんが…」


オルドールは困り切っていた。


何と返答すればいいのか…シルデフィアが国一番の優秀な公爵令嬢である事には変わりないが…なんせ王妃教育を10年受けてきたのだ。彼女に勝る優秀な女性はいないであろう。


確かに弱みを握られて婚約者になったのだが、どうこの令嬢に接していいのか解らない。


シルデフィアは思い出したかのように。


「そうだわ。貴方にプレゼントがあるの。」


バックから小さな瓶を取り出した。


その瓶は「最高級ハチミツ」と書いてあって。


オルドールは思わず身を乗り出してしまう。


- ぴよぴよぴよ…ハチミツハチミツ 食べたいっ -



そして…慌てて席に座る。自分の行動が恥ずかしくなった。



そう、オルドールは銀の月とあだ名がついている位に、綺麗な見た目でイイ男であるのだが、

その正体はピヨピヨ精霊だった。

ピヨピヨ精霊とは、身体が球体でつぶらな瞳に、羽が生えている森に住む小さな精霊である。

正確には人間とピヨピヨ精霊の夫婦から生まれた半ピヨピヨ精霊なのであるが。


彼は身体が疲れていたり、具合が悪いとピヨピヨ精霊に戻ってしまうのだ。

そして、ピヨピヨ精霊はハチミツが大好物。見ただけで理性が吹っ飛ぶくらいの大好物なのである。


だから、ハチミツから目が離せなくなった。


シルデフィアはハチミツを見せつけながら、


「そうね…わたくしとデートをしてくれたら、このハチミツを差し上げますわ。今日の放課後デートを致しましょう?いいかしら。オルドール様。」


「ああ…本当にくれるんですね?その最高級ハチミツ。」


どんなに美味しいだろう。そのハチミツは。早く食べたい…



放課後、シルデフィアと街でデートをする約束をした。


シルデフィアが最高級ハチミツを先にくれたので、庭に出て小さなスプーンを使い、ハチミツの瓶を開けて一口掬いハチミツを舐める。


凄く美味しい。


-ぴよぴよぴよ 生まれて来てよかった… -


もう一口食べようとしていたら、数人の令嬢に取り囲まれた。


慌ててハチミツの瓶の蓋を閉めて、取り繕う。


「何か御用ですか?皆さん。」


一人の令嬢が近づいて、涙をウルウルさせながら、


「脅されているのでしょう?シルデフィア様に。でなければ婚約なんてありえませんわ。」


他の令嬢も近づいて来て、ぎゅっとスプーンを持つ右手を握り締めて来た。


「本当に酷い方。何かわたくし達、力になれないかしら?騎士団に訴えたら如何?」


他の令嬢が背後から抱き着いて来て、


「そうよ。そうしなさいよ。オルドール様。悪を許してはいけませんわ。」


もう一人の令嬢が左手を握り締めて来た物だから、驚いた隙に大事なハチミツの瓶が地面に落ちて割れてしまった。


そう…大事なハチミツの瓶がである。ハチミツが地にこぼれでてしまい…


ハチミツが…最高級のハチミツが…



ぴよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ。



後は記憶になかった。


気が付いたら網に絡み取られて捕まっていた。


学園の警備員にである。それもピヨピヨ精霊の姿で。



ふと、周りを見渡してみれば、令嬢達が真っ青な顔をして先生に訴えていた。


「変な物体に突かれたんですっ。」


「わたくしもですわ。いきなり現れて、追いかけ回されましたの。」


「怖くて怖くて。」



学園中の人達が集まって来る。


どうも、ハチミツの瓶を割れた事で、疲れてもいないのにピヨピヨ精霊になり、令嬢達を攻撃しまくったらしい。


あああああ…なんて事だ。完璧に詰んだ…


ぴよぴよと網の中で鳴いていると、シルデフィアがやって来て、


「あら、御免あそばせ。わたくしのペットが逃げ出してしまったみたいですわね。」


令嬢達がシルデフィアに詰め寄る。


「突かれたんですわ。」


「どうして下さるんです?」



シルデフィアはちらりと令嬢達を見やり、


「治療費はお出ししますわ。どの程度の怪我かしら?」


どの令嬢も怪我はしていないようだった。


シルデフィアは網ごと、ピヨピヨ精霊を抱き上げて。


「何かありましたら我がデルベルグ公爵家へ苦情を入れて下さいな。では皆様、失礼致しますわ。」


シルデフィアに連れられて、馬車に乗り込むピヨピヨ精霊。

午後の授業どころでは無かった。


シルデフィアは網を取ってくれて、優しく膝に乗せ。


「大変だったわね。オルドール様。今日はわたくしのお部屋でゆっくり休みましょう。

大丈夫。何かあってもわたくしが必ず貴方を守って差し上げますわ。」


あああ…男の癖に情けない。


シルデフィア様に守られてしまうだなんて。


何か言いたくても、ピヨピヨとしか鳴くことが出来なくて、情けなく思うオルドールであった。


公爵家に着くと、シルデフィアはピヨピヨ精霊に高級ハチミツをお皿に持ってきてくれて、たっぷり食べさせてくれた。


-美味しい美味しい美味しい。ぴよぴよぴよぴよぴよ -


高速でハチミツをつつくピヨピヨ精霊。


食べ終わるとシルデフィアが抱き締めてくれて。


「ほら、眠くなってきたでしょう?わたくしが抱っこしていてあげますから…おやすみなさい。」


ベッドに運ばれて、シルデフィアが添い寝してくれる。

安心してオルドールは眠りにつくのであった。


翌朝、例の如く素っ裸で目が覚めてみれば、シルデフィアが目の前でこちらをじっと見ていた。


「可愛い寝顔でしたわ。オルドール様。」


「ご迷惑をかけてしまい、申し訳ないです。」


「いいのよ。」


「本当にいいのですか?俺はピヨピヨ精霊…これから先もどう理性を飛ばして、何をしでかすか解らない。それに…ピヨピヨ精霊の遺伝子が、先行き子供に現れるかもしれない。

それでも本当にいいのですか?」


シルデフィアは胸に引き寄せて抱き締めてくれた。


「いいのよ…わたくしが選んだ貴方。貴方はとても優秀だわ。一生懸命勉強したのね。

剣技も努力して強くなったのね。わたくし達の子供も例えピヨピヨ精霊の遺伝子が出たとしても、きっと…努力家でいい子に育つわ。ねぇ。わたくしは幼い頃から厳しい王妃教育を受けてきたの。でも、辛くはなかった。だって、その教育はわたくしの力になると信じていたから…。わたくしは努力家が好き。だから貴方の事が好き。貴方はどうなの?わたくしに脅されてこうして婚約を結んだけれども。」


ああ…俺の心は…

シルデフィア様が好きだ。今、はっきりと解った。

まっすぐ自分を見つめて来るシルデフィア様の事が俺は好きだ。


「有難う。シルデフィア様。俺も貴方の事が好きみたいです。でも守られてばかりはいられない。先々、貴方を守れるような男になりますから…」


「期待しているわ。オルドール様。」


シルデフィアがキスをしてきた。


その唇は柔らかくて…ぎゅっと思わずシルデフィアを抱き締めてしまった。


自分は素っ裸だったけれも。今はただ…このままシルデフィアをずっと抱き締めていたい。オルドールは幸せに包まれながら、再び眠りにつくのであった。


シルデフィア「オホホホ。餌付けに成功したようですわ。」

オルドール「事実すぎてなにも言えない。泣」

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