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006 王家の証

 アレクシア王女は、右手に嵌めた大きなエメラルドの付いた金の腕輪をルゥナへ見せた。


「これは王家の証です。お父様が私が産まれた時に着けてくださった物です。これは、お父様にしか外すことはできません。これを嵌めていれば、お父様が――国王陛下が認めたルナステラの王族であるという証になるのです」

「ですが、陛下はその様な事は……」

「はい。お父様がこれを外してくださることは無いでしょう。ですが、私、これを外せるのです。恐らく、これを私に授けた時のお父様より、私の魔力の方が上回ったからだと思います」

「そんな事が……」

「出来ますわ。それから、元々私は社交の場には出ておりませんので、私を知る者は国外に殆んどいません。ですが、もし、以前の私を知る者がいても、それが偽物だったと言ってくだされば良いのです。王家の証を手にしている者こそが、本物なのですから」


 疑いの目を向けるユーリだが、アレクシアは自信満々に言い切った。

 王家の証を外すことが出来るのは本当なのだろう。

 あの腕輪からは呪いに近い強力な魔力を感じる。

 偽物を用意することも出来るかもしれないが、魔法道具の雑貨店を営むルゥナは、偽物で騙されるほど馬鹿じゃない。


「大体の話は分かりました。ですが、どうして私に替え玉を?」

「ルゥナさんは、森の精霊の加護を受けていますわね。可愛い精霊さんです。私と同等……まではいきませんが、魔力も高く、精霊に愛されるだけの優しい方なのだとお見受けしましたのです」


 アレクシアにもモッキュが見えている。ルゥナは驚いて肩で休んでいた筈のモッキュに目を向けようとして気付いた。

 モッキュがいない。よくいなくなるので不思議ではないが、アレクシアの圧に飲まれて気付かなかった。


 でも、初めて精霊が見える人に会えた事が純粋に嬉しかった。


「ごめんなさい。ここに精霊は入れないのです。――ルゥナさん。私の知る限り、ルゥナさんしか、この密命をやり遂げられる方はおりません。他に頼れる方はいないのです。どうか私の力になっていただけませんか?」

「あの。今回、婚約が破棄できたとして……。また次の婚約の話が出た場合も、同じ様にルゥナに密命を下すおつもりですか?」


 心揺れるルゥナに反して、ユーリはアレクシアの願いを聞き入れるつもりはなく、訝しげに目を向けたまま尋ねた。

 しかしその質問に、アレクシアは意外な反応をした。


「いえ。今回の件を兄に相談しまして、他国との縁談についても伺いまして……その……」


 アレクシア王女は頬を赤く染めて俯いていた。

 この反応は……。

 

「ほ、他に想う方がいらっしゃるのですね!」

「は、はい。男性は苦手なのですが。その方は魔導師の方で、お優しくて誠実で……。何とか婚約破棄さえ出来れば、その方と婚約できるように兄が手配してくれているのです」

「それならば、ルゥナが工作せずとも、そのお兄様の力で、どうにか婚約を破棄できないものではないですか?」

「それは……。実は、兄が使者を送ったのですが、第二王子宮に入ることも叶わず、尻尾を掴ませてくれないのです。第一王子様の誕生会に招待されて、その際は第二王子宮でもてなすと手紙を頂きましたので、第二王子様に近づき、証拠を集められる機会は、そこしかないのです」


 色々策を考えた上で、アレクシアはルゥナを選び、頼んでいるのだ。それに、これはルゥナにとっても悪い話ではない。

 借金は、今まで通りに返済したとしても完済に二十年もかかる。それに、今の店を失い次の店舗を探し軌道に乗るまで、どれくらい時間がかかるか分からないし、上手くいく保証はない。

 ルゥナが負った借金なのに、今のままユーリにまで背負わせ続けていることも申し訳ないと思っていたので、これは現状を一発逆転させる大チャンスなのだ。

 それに、困っている人を放っておくなんて、両親の教えに反するようなことは出来ない。


「成る程。分かりました。私が調査します」

「ルゥナ。何を勝手なことをっ!?」

「でも、アレクシア王女様が、このままその女性癖の悪い王子に嫁ぐなんて可哀想です。ちゃんと想う方もいらっしゃるのに。それに、アレクシア王女様は、モッキュが見えているんです。そんな方、初めてですから」

「ルゥナさん。やっぱり、貴女は私が想像していた通りの心の優しい方です。マルクから、ルゥナさんも変態紳士に目をつけられて困っていると聞いています。私はその方からルゥナさんをお守りしますわ」

「へ、変態紳士!? ルゥナ。それはなんの話ですか!?」


 ユーリは絶対に怒ると思ったので、借金返済の代わりに会長は自分の元で仕事をするように言ってきたと話していた。


「会長さんが私を娶りたいと言っていたんです。多分、冗談かと……」

「冗談でもありえませんし、気持ち悪いですからっ」


 ユーリは自身を抱きしめ身震いしている。

 やっぱり、目が本気だったことは言わないで良かった。それを話していたら、ユーリなら今すぐ会長のお店へ行き、剣を引き抜いていただろう。


「ユーリさん。変態紳士の排除は私に任せてください。私なら、その方の野望を潰すだけの権力がありますから」


 アレクシアはニコッと悪戯な笑みを浮かべた。

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