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006 裏切り者?

「レオナルド殿下。ロンバルトからの使者の方が城門にお見えになりました」

「おお。早かったな。慰謝料を持ってきたのだろう。すぐに会おう」

「畏まりました」


 レオナルドは報告を受けると、意気揚々と貴賓室へと向かい使者の到着を待った。一体ロンバルトはどれ程の慰謝料を用意してくるだろうか。ロンバルトは交易が盛んで裕福な国だと聞く。自国の使者をわざわざ派遣するのだから、余程のものだろう。


 ロンバルトの誠意は如何なるものかと期待を持ち始めた時、部屋に使者が通された。

 金髪に真紅の瞳の青年と、黒髪に橙色の瞳の騎士。その後ろにはローブを着た魔導師風の女性がいる。三人とも手には何も持っていないし、使者にしては若く、大金を任せられるような雰囲気は皆無だ。


 手ぶらということは、先王の死を聞き、慰謝料を払うつもりもなく、適当な下っ端どもに交渉を任せたのだろうか。向こうの国の方が裕福だからといって、下に見られたものだ。


 レオナルドは不信感を高めつつ使者へと目を向けると、金髪の若い使者はレオナルドへ微笑みかけた。どこかで見たことのある顔立ちに目を細めると、使者はよく通る声で言葉を発した。


「レオナルド=ロンバルト様。お久し振りです。私の事は覚えておられますか?」


 随分と図々しい使者だ。やはりルナステラをなめているのだろう。レオナルドは苛立ちながら答えた。


「久し振り……だと? ロンバルトは遠い故、足を運んだのも数回のみ。覚えてはおらぬ」

「そうですね。お会いしたのは随分と前に一度ほどですし。――私はベネディッド=ロンバルト。アレクシア様の元、婚約者です」

「べ、ベネディッド……様!? 言われてみれば……。しかし、何故ベネディッド様本人がわざわざルナステラへ?」


 ベネディッドの兄、ジェラルドの顔は知っていたが、彼のことは殆ど記憶にない。しかし、髪色や瞳の色、そして雰囲気がジェラルドに似ている。

 レオナルドがまじまじと観察していると、甘やかされて育った様な柔和な笑みを浮かべてベネディッドは微笑んだ。

 先程からニコニコと気持ちの悪い男だ。

 アレクシアの事故死は、まだ知らないのだろう。しかし、もしそれが分かれば、慰謝料を渋るかもしれない。レオナルドは、敢えて自分からアレクシアについて明言することは避け、ベネディッドの出方を探ることにした。


「ルナステラ王の訃報を聞き、私もご冥福をお祈りしたくお伺いしました。アレクシア様には、とてもお世話になりましたので」

「そ、そうか。婚約が破棄となって残念だが、アレクシアはロンバルトでのベネディッド様の事情に胸を痛め、婚約破棄を申し出たと聞いている。しかし、国同士としては今後も良い関係を築いていきたいと思っていたところだ」

「そうでしたか。婚約破棄は私の落ち度故、申し訳なく思っておりました。ですから本日は、レオナルド様の暗いお顔も明るくなるような者を用意しました」

「ほぅ……。見せてみよ」

 

 意外と友好的な態度のベネディッドに、レオナルドはホッと息を付いた。

 慰謝料は持参していたようだ。

 それも、レオナルドが喜ぶほどの額らしい。

 アレクシアが亡くなった事は、慰謝料を受け取ってから言えばいい。


 レオナルドが浅ましい事を脳内で考えていると、ベネディッドの後ろに控えていた魔導師が一歩前へ出て、フードを取り顔を上げた。


 銀髪にエメレドの瞳の少女は、アレクシアと瓜二つ。いや。アレクシアに見えた。腕には、王家の証の腕輪を着け、それが見えるようにレオナルドへと礼をした。


「あ、アレクシア? そんな筈は……」

「偶然通りかかった谷底でアレクシア様とお会いしました。先ほど小耳に挟んだお話ですと、アレクシア様はロンバルトからの帰路で事故に遭い、亡くなった事になっているそうではありませんか。ですがご安心を。アレクシア様は無事にございます。お二人は大層仲が良いそうですね。喜んで頂けたでしょうか?」


 レオナルドは目の前の少女を見て唖然とした。

 アレクシアが生きていた。

 違う。アレクシアの替え玉が生きていたのだ。


 それは、マルクの裏切ったと言うことだ。

 レオナルドは怒りに震える拳を握りしめた。


 もしかしたら、今頃マルクはアレクシアをあの結界内から連れ出そうとしているのかもしれない。しかし、マルクごときに何か出来るとも思えない。

 レオナルドは側に控える宮廷魔道士に目配せし、アレクシアの元へと向かわせた。ここは適当に処理し、さっさと自分もアレクシアの元へ向かい、マルクを罰しなければならない。

 だが、あの替え玉はどこまで知っているのだろうか。単なる事故と思っているのか、それとも、命を狙われたことを知っているのか。


「ベネディッド様、アレクシアを助けてくださり感謝いたします」

「いえ。当たり前のことをしたまでです。しかし、すれ違った城の方が驚いていていました。マルクがアレクシア様の死の証拠を持ち帰ったそうで、まさかアレクシア様が生きていたなど思わなかったようです。マルクが持ち帰ったのは、王家の証だったとか」


 案外面倒な男だ。知っている情報を小出しにしてこちらを探ろうとしている。あまり詮索されると、替え玉が暗殺計画に気づいてしまうではないか。


「ああ。マルクは王家の証を持ち帰ったのだ。しかしあれは偽物だったようだな。マルクの勘違いだったのだろう」

「勘違いですが……。アレクシア様が襲われ気が動転していたのか。それとも、あえて小細工をしたのか。大変興味深くあります」


 全てを知ったような顔で微笑むベネディッド。

 もしかしたら、ベネディッドは暗殺計画に気付いているのかもしれないと、レオナルドは感じた。


「それは……私には分かり兼ねる。後でマルクを問い正そう。アレクシア、医師に見てもらおう。こちらへ来なさい」


 レオナルドが手を差し伸べると、アレクシアはベネディッドの後ろへと身を翻しレオナルドを睨み返した。


「お待ち下さい。マルクの真意も分からぬまま、元婚約者をお返しするのは気が引けます。それに、マルクの独断など有り得ないかと。アレクシア様直属の近衛騎士に命を出せる方は限られていますよね。例えば、王族の誰かとか……」

「それは、私を疑っているのかな?」

「はい。どんな方なのか知りたくてお話をさせていただきましたが、もう真っ黒だなぁ。って感じているところです」

「ば、馬鹿にしおって!?」

「馬鹿になどしていませんよ。アレクシア様を見た瞬間、お喜びになるどころか怪訝そうでしたので、黒幕確定って思ってしまっただけなので。私だって、レオナルド様がアレクシア様を暗殺しようとするなんて、ショックなのですよ」


 ニコニコと笑顔で解説するベネディッドに、レオナルドは腹わたが煮えくり返る思いだった。レオナルドがアレクシアを手に掛けるはずがない。

 全て知ったようなフリをして、勝手に勘違いして優越感に浸るベネディッドに心底苛立ち、レオナルドは椅子から立ち上がり声を荒らげた。


「違うっ。私はそんな事はしない。私はアレクシアを何よりも大切に思っているのだ。これは――そ、そいつだ!? 全てはそいつのせいなのだ!」


 レオナルドが指さしたのは、ベネディッドの背に隠れたアレクシアだった。


「そいつとは? アレクシア様の事――」

「違う。ベネディッド様はお気付きになられなかったのでしょうが、その娘は……偽物なのだ。本物のアレクシアは、父と同じ病で病死したのだ」


 ベネディッドの言葉を否定し、レオナルドは思いついた言葉をあたかも本当のことのように並べた。

 これなら本物のアレクシアを隠し通せる。誰も己を騙していた偽物に情を移す者などいないだろう。全て替え玉のせいにすればよいのだ。

 レオナルドの言葉を聞き、ベネディッドはアレクシアの顔を見て半笑いで尋ねた。


「びょ、病死ですか?」

「そうだ。だから、ロンバルドへは行けなかった。父の具合が悪く、アレクシアが亡くなった事は隠しておきたかったのだ。そこで、その少女に協力してもらったのだ。結果として、父は亡くなってしまったのだが……」

「その少女ですか? ということは、この方はアレクシア様ではないと?」


 驚くベネディッドに、レオナルドは腹の中で笑い転げていた。すっかり替え玉に騙され慰謝料まで払わされようとしていた馬鹿な王子だと。さっきまで自分は全てお見通しだと言わん顔をしていた癖に、良いザマだ。


「そうだ。それは替え玉だ。そして、ロンバルドからの帰路、本物のアレクシアに挿げ替わろうとした、裏切り者なのだ!」


 レオナルドに指を差されたアレクシアは、ベネディッドと顔を見合わせ困った笑みを浮かべ、レオナルドを真剣な眼差しで見つめ返し口を開いた。


「お兄様。私は、裏切り者なのですか?」





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― 新着の感想 ―
[一言] レオナルド…面白い奴(笑)
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