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005 第二王女アレクシア

 近衛騎士団の駐屯所に寄り、持てるだけ持ってきた商品を引き渡し、マルクから金貨百枚を受け取った後、ルゥナとユーリは城へと案内された。

 ユーリはやっとマルクの言葉を信じた様子だ。


 因みに、ルゥナの肩にはモッキュが乗っているが、誰にも見えておらず、城の中のきらびやかな装飾品に瞳を輝かせるモッキュの愛らしい姿は、ルゥナしか知らない。


 城内を抜けて裏庭へ進むと、薔薇のアーチを抜ける途中でマルクは足を止め、二人へ振り返った。


「アレクシア様は今、お茶の時間だ。良かったら付き合ってやってくれ」

「は、はい」

「アレクシア様。ルゥナ=パストゥールを連れて参りました」

「こちらへどうぞ?」


 鈴の音のような可愛らしい少女の声がした。

 確かアレクシアはルゥナの一つ下の十七歳と聞いている。声はもう少し若く聞こえた。


 マルクがアーチの奥へと進むように手を差し出し、ルゥナとユーリは一度顔を見合わせて心を決めてから返事をした。


「失礼します」

「どうぞ。――」


 王女の返答を受け数歩先へと踏み出すと、視界が一瞬だけ歪み、静かな庭のお茶会が目の前に現れた。


 庭に設置された長テーブルには茶菓子と三人分の紅茶。そしてそこで待っていたのはルゥナと同じ銀髪とエメラルドの瞳のアレクシア王女だった。

 しかし、髪色と瞳の色が同じというだけで、全身から溢れだすお姫様オーラが眩しい。

 どんなに着飾っても替え玉なんて出来ないだろう。

 ルゥナは一目見ただけでそう思った。


「よくぞいらっしゃいました。ルゥナさん。それからユーリさん。私は、アレクシア=ルナステラです」

「い、今のは……」


 アレクシアの容姿を冷静に分析していルゥナと違い、ユーリは突然現れたアレクシアに警戒心を現すと、彼女は落ち着いた笑みを見せ答えた。


「魔法ですわ。私とルゥナさん達との秘密のお茶会ですから、誰にも邪魔されない空間を選びました。あまりお時間はとれませんので、早速で申し訳ありませんが、どうぞお座りになって私の話を聞いていただけますか?」

「はい」


 アレクシアは二人が席に着くと、思い悩むように瞳を曇らせた後、意を決した様子で口を開いた。


「マルクから聞いているかと思いますが、私の婚約者は無類の女性好きと名高い王子様なのです。私は、その様な方を軽蔑しております、ですから、私の代わりに婚約者の不貞を暴いていただける方を探しているのです。どうか、力になっていただけませんか?」

「それは……ご自分では、どうにも出来ないことなのでしょうか?」


 懇願するアレクシアに対し、ユーリが願いを退けようとすると、アレクシアは悲しげにため息を吐いた。


「はい。私の力では……。私、男性に触れると蕁麻疹が出てしまうのです。ですから、私の代わりに……。サポートは致します。それに、ルゥナさんのご事情もマルクから聞いていますわ。借金は全てお支払しますし、新しいお店も一番街にご用意させていただきます。それから、パストゥール伯爵家も、お望みでしたらルゥナさんが爵位を継げるように手配しますわ。お願いです。どうか力になってはいただけませんか?」


 借金の返済のみならず、新店舗や爵位についてまで提示してくるとは想定以上で、ルゥナは驚いてユーリに目を向けるも、彼女はまだ半信半疑といった目付きでアレクシアを見据えていた。


「婚約って、政略結婚なのですよね? 相手国とも話し合って結んだものですよね? そもそも、破棄なんて出来るのですか?」

「はい。両国ともに、国交間の政治的理由と言うよりも、ただの厄介払いで結んだものなので」

「厄介払い?」

「はい。私、王位を継ぐ兄よりも魔力が高いのです。兄とは関係が良好ですが、お父様は私を忌避しております。ですから私を、私が一番嫌うタイプの男性に嫁がせ、国から追い出そうとしているのです。相手の国も同じです。扱いに困る不出来な第二王子を、自国に影響を及ぼさない他国の王女と身を固めさせ、跡目争いから消し去りたいようなのです。ですから、王子の不貞を暴き、婚約破棄されたとなれば、あちらの王子にも傷が付きますので、受け入れてくださるかと」

「それは……酷い話ですね」


 どちらの王家も、子供を人として扱っていないのだ。  

 会長に求婚された時、もし両親が生きていたらと考えた。

 あんな下心丸出しのおじさんへ嫁げなど、絶対に言わないだろう。

 しかし、アレクシアの父親は違う。

 アレクシアをぞんざいに扱っているのだ。


 ルゥナは彼女の力になってあげたいと強く思ったが、ユーリは相変わらず冷めた瞳でアレクシアを見据えている。


「ですが、相手方の王家を欺くということは、偽物だと知れた時、死罪を言い渡されるかもしれませんよね」

「その心配はありませんわ。ルゥナさんには、本物の私よりも本物になっていただきますから」


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