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001 謁見

 城へ着き、ベネディッドと共に国王陛下と王妃様に謁見した。

 ルゥナが挨拶を述べると、国王は穏やかな笑みを浮かべ歓迎の意を表し、その容姿は金髪に紅い瞳で、ベネディッドに良く似ていた。


「おお。遠いところよくぞ参った。噂通りの美しい姫だ。早く孫の顔が見たいのう」

「陛下。まだ婚約したばかりにございます」

「そうだった。これは失礼したな。ベネディッド。ドラゴンの討伐ご苦労であった。長旅の疲れを癒すと良い。お前には期待しておるぞ。明後日、ジェラルドが隣国から帰還する。顔合わせも兼ねて昼食を共にしよう」

「はい。陛下」


 短い挨拶を済ませ、廊下で待つユーリと合流し、三人で第二王子宮へ向かう馬車へ乗った。スーザンは先に向かい支度をしてくれている。


 馬車へ乗り込みユーリと顔を合わせると、やっと緊張が和らいだ。国王陛下は緩い感じの人だったけれど、王妃は常に威圧的な瞳でベネディッドを見下ろしていて、正直怖かった。あれが義理の母になるのかと思うとゾッとする。


 そんな事を考えている内に馬車が止まり、第二王子宮に着いていた。王城より少し小さいが、ルナステラの城と同じくらい大きな城が直ぐそこに建っていた。


 ベネディッドは馬車を降りると、ルゥナへ真剣な顔を向けた。


「アレクシア。この後、俺は王妃の茶会に出席する。戻り次第、君を呼ぶから部屋で休んでいてくれ」

「はい。あの。私はお茶会へは――」

「君は参加しなくていい」


 言い終わる前にベネディッドは断言した。

 その瞳は、ビリーに縄をかけた時と同じで、氷のような冷たさを帯びていた。


「分かりました」


 ルゥナが頷くと、ベネディッドは、また馬車に乗り込み城へと戻って行った。


 ◇◇


 第二王子宮は城から馬車で数分の場所にあり、庭も広いし、城の裏手には大きな湖と森、それから温室もある。この国、ルナステラよりも絶対に裕福だ。


 建物の前にはスーザンと、背の高い魔導師風の中年の男性が立っていて、ルゥナ達へ手を降り歓迎ムードで出迎えてくれた。


「お待ちしておりました。アレクシア=ルナステラ様。私、ベネディッドの叔父であり、彼のお守り役のコリン=マグナスと申します。何かお困りの際は私にお声かけください」

「はい。アレクシア=ルナステラです。よろしくお願いしますわ」

「ここまで大変だったそうですね。第二王子宮は、王子が幼少の頃より仕える使用人しか居りませんので、ご安心ください。さぁ、お部屋へご案内いたしましょう」


 コリンは城内へとルゥナ達を招き、話を続けた。


「アレクシア様の部屋は裏の湖畔が見渡せる二階のバルコニー付きの部屋になっております。それからより警護を厳重にしたいとの事ですので、こちらからも護衛を一人お付けします。ちょっと無口でぶっきらぼうな奴ですが、腕は確かなのでご安心を」

「そうですか。ありがとうございます」


 やはり護衛は別の人なのだ。

 ルゥナは無意識の内に落胆していた。

 初めて会う相手なのに、それはコリンへも伝わったらしく、彼はわざとらしく疑ってみせた。


「おや? そんなにウチのベネディッド様がお気に召しておりましたか?」

「そ、そんな事ありません」

「いいじゃないですか。婚約者なのですから」

「コリン様。先程ご説明いただいた護衛の方はどちらですか?」


 ルゥナに代わってユーリがコリンへ質問すると、気を悪くする素振りもなく、コリンは笑顔で答えた。


「あ、今はベネディッド様と一緒です。基本的にベネディッド様の護衛なので。戻り次第部屋に呼びに行かせますので、それまでごゆるりとお休みくださいませ」


 コリンの話に付き合っていたら部屋についていた。  

 一度も詰まること無く早口でよく喋る叔父だ。


 しかし、部屋はとても豪華で広く、花の香りが広がる素敵な空間だった。

 

「アレクシア様。湯の準備が出来ておりますので、身を清めましょう」

「あら。いいわね。どうせなら三人で入りましょうよ。王妃様とのお茶会でしたら、時間はそれほどかからないでしょうし、二人も身体を清めたいでしょう?」

「ですが……」


 スーザンはユーリと顔を見合わせ、それからお互い自分の身体を見回した。一人ずつ入っている時間などある筈がない。しかし二人とも早く湯を浴びたい。悩んだ結果、二人はルゥナの意見に喜んで賛成した。


 ◇◇


 ルゥナ達が呑気に湯に使っている頃、ベネディッドは王妃の茶会に参加していた。

 参加、と言っても出席者は王妃とベネディッドのみ。この時間はベネディッドが人生で一番嫌いな時間だった。


「お義母様。お待たせいたしました」

「討伐ご苦労様。帰りが早くて驚いたわ。無傷で帰ってくるなんて流石ね。さぁ、お茶をいただきましょう」

「はい。ありがとうございます」


 勧められた紅茶は赤みが強い甘めのお茶だ。これを飲みきるまで、王妃は決してこの空間からベネディッドを出そうとしない。

 ベネディッドはそれを良く理解していた。

 だから、それを笑顔で一気に飲み干すのだった。


 ベネディッドが茶を嗜む姿を、庭の隅で眺めている騎士が一人いた。ベネディッドより一つ年下の彼は、右目を眼帯で覆い、腰に魔剣ノワール・ルキゥールを携えている。

 ベネディッドはカップをソーサーへ戻すと、王妃に挨拶をして、その騎士の元へと歩み寄った。


「ヴェルナー。戻ろう」

「はい。ベネディッド様」


 ベネディッドはヴェルナーの横を通り過ぎようとしたが、急な眩暈に襲われ倒れかけた所をヴェルナーに支えられた。

 王妃はその姿を見て満面の笑みを浮かべ尋ねる。


「あら。大丈夫? 疲れが溜まっているのね。ゆっくり休むといいわ」

「はい。ありがとうございます」


 ヴェルナーが王妃を睨み付けようとすると、ベネディッドは微笑み首を振り、ヴェルナーの耳元で掠れた声を絞り出して指示を出した。


「ヴェルナー。行くぞ。アレクシアに早く会いたい」

「はい。ベネディッド様」






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[一言] なんだ?薬でも盛りやがったか?
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