006 野営地にて
野営地にて、ルゥナ達は大歓迎された。
元々、ここで合流することにはなっていたそうだが、ルゥナ達一行を総括をしていたマルクは不在。
こちら側の窓口がいない状態であり、ユーリは不安の色を見せていたが、ベネディッドが適当に紹介し、今後の段取りまで組んでくれた。この隊の指揮をとっているのは彼のようだ。
ベネディッドは暗くなる前に討伐したドラゴンの後処理をすると言って小隊を引き連れ野営地から去り、ルゥナ達は案内役の騎士に、救護所へ連れていかれた。
ドラゴンに襲われた後だとベネディッドが伝えてくれていたが、服がボロボロの割に治療の必要がない状態だと分かり、救護所の騎士に驚かれた。
ルゥナは、ユーリの傷が完治していることが分かりホッとした。狩りに失敗した時や、両親の仕事の護衛の時に、あれぐらいの怪我ならユーリは何度も経験したことがある。
しかし二人になってからは初めてだったので、正直怖かった。ルゥナの力だけで、ユーリを助けられるのか不安だったのだ。
一応ビリーも怪我がないか診てもらい、その後ユーリは牢付きの馬車までビリーを連行していった。
それから、まだテント内の準備をしているとの事で、ルゥナは救護所で少し待つことになった。
救護所には、軽い怪我から酷い火傷を負った者など、負傷者が沢山いる。ルゥナの薬を使えば治せる怪我ばかりだが、この人数分の薬の持ち合わせがなく悩んでいると、準備が整ったので旅の疲れを癒してください、とテントへ案内された。
一番大きな野営用のテントはベネディッドのテントで、中へ入ると真ん中に仕切りが立てられ、男女で分かれ、簡易ベッドもそれぞれ二台ずつ用意されていた。スーザンがポーチから必要なものを取り出し手際よく支度を始めると、ビリーを騎士に引き渡していたユーリがテントへと現れた。
「アレクシア様。ベネディッド様が麓の街から馬車を手配してくださりました。明日の朝到着し、ここからロンバルトまでは二日で着くそうですよ」
「あら? ロンバルトまでは七日かかるのではなかったかしら?」
「本来ルナステラから、ここまでくるのに四日はかかるそうなのですが、ビリーはわざと、人が通ることのない険しい近道を選んだようなのです」
「そう……」
ということは、始めからルゥナの命を狙っていたことになる。
国王はマルク達を国へ呼び戻し警護を手薄にさせ、アレクシアを計画的に暗殺しようとしていたのだ。
「ビリーはロンバルトの騎士が見張っておりますのでご安心を。手帳には書かれたのですか?」
「いえ。まだ……」
アレクシアにビリーのことを手帳で報告すると、すぐに返信が来た。
『私の力及ばず申し訳ありません。ロンバルトの騎士と合流できたとの事、安心しました。もし、刺客が送られようと、簡単には武力行使できないでしょう。国王が持病の悪化で倒れました。しばらくは国内の警備が厳しくなる為、マルクは出られないかもしれません。こちらからも国王の動向を探ります。どうぞお気をつけくたさいませ。また、婚約者の監視の件、宜しくお願いします』
『承知いたしました。アレクシア様もお気をつけください』
父親に命を狙われ、そしてその父親が病で倒れるとは、アレクシア様も心を痛めているだろうに、大丈夫だろうか。
ルゥナの顔色を見て、ユーリは励ますように声をかけた。
「ベネディッド様もアレクシア様の命が狙われたことはご存じですし、ロンバルトと行動を共にしている時にアレクシア様が命を落とせば、外交問題に発展しますので、お守りしてくださるとは思いますが……」
「そうね。それに、もう何度も助けていただいてしまったわ。――そうだわ。怪我をしている方が沢山いらしたから、回復薬を作りましょう。でも、薬瓶がないから、薬草をすり潰して食事に混ぜてもらおうかしら?」
「薬草もありませんが。……もしかして、ここで栽培するのですか?」
「そうよ。助けていただいただけでは申し訳ないもの。せめてものお礼をしなくちゃ。それから、騎士団の方達と仲良くなって、王子の身辺調査をしようと思うの」
ルゥナの提案にユーリとスーザンは顔を見合わせた後、同時に頷いた。
「成る程。手伝います」
「私もお手伝いします」
◇◇
『モッキュン。モッキュン』
「モッキュン。モッキュン」
テントの裏でモッキュと薬草の種を植え、栽培を始めた。いつもの呪文? をモッキュが唱えて小躍りをすると、種は発芽し瞬く間に成長していく。
ルゥナは隣で一緒に呪文? を唱えながら成長した薬草を収穫し、ユーリに手渡していった。テントの中ではスーザンがすり鉢ですり潰してくれている。
「あの。アレクシア様。モッキュン。モッキュンって。それ、言う必要ありますか?」
「え? そうね。多分、あると思うわ」
『モッキュん!』
「モッキュは、はかどったって言っているわ」
「そうですか。モッキュ、お疲れ様です」
ユーリは見えないモッキュにお礼をいい、モッキュはルゥナの肩で胸を張っていた。
「そろそろ十分採れたわね。スーザンを手伝いましょう」




