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004 裏切り者

 ルゥナはベネディッドの腕から無理やり降りると、裸足のままユーリに駆け寄った。


「ユーリっ。今、傷を直すわ」

「おい。治療なら野営所に運んでから――」

「回復薬があります。これを飲めば楽になりますので」


 ルゥナはポーチから回復薬を取り出し、ユーリに飲ませた。

 モッキュ特製の薬草から作る回復薬では、体内の傷なら骨折でも内蔵損傷でも何でも治せる。それもモッキュが側にいる時はより効果が高くなるのだ。


 ユーリはひと瓶飲み干すと意識を取り戻した。


「る、ルゥナ。……無事で良かったです」

「ユーリ。痛いところはない?」

「大丈夫です。……そうだ。ビリーはどこですか!?」


 ビリーは隣で頭から血を流し倒れており、スーザンが頭部の出血を布で抑えていた。他にも色々な所を怪我しているが、呼吸は落ち着いている。


「彼にも薬を……」


 ルゥナが薬を取り出そうとポーチへ差し込んだ手を、ユーリは掴み険しい目を向けた。


「お止めください。治す価値などないでしょう。ビリーは……。あの。こちらの方は?」

「私はベネディッド=ロンバルトだ。ドラゴンの討伐の争いに巻き込み申し訳なかったな」

「ろ、ロンバルト……?」

「私の婚約者だそうです。私達は彼に助けられました」

「ありがとうございます。ですが、本物ですか?」

「ああ。身分を保証するものなら……これでどうだ?」


 ベネディッドは腰の剣をユーリに見せた。

 漆黒の剣に赤い宝石が埋め込まれた、ルナステラの王族の証と似た呪いの様な魔力を感じさせる剣だった。


「魔剣ノワール・ルキゥール。本物ですね。黒竜の心臓から産まれた魔剣と云われています。現在の所有者は、ベネディッド=ロンバルト様だと聞いております」


 ユーリは近衛騎士としての知識をこの二週間で詰め込まれたそうだが、剣にまで詳しくなっているとは驚いた。

 スーザンもその剣を見て納得している。

 しかし、魔剣の話などアレクシアから聞いていないルゥナには寝耳に水の話だった。

 それに何か大切なことを忘れているような……。


「あっ。ビリーに回復薬を……」

「お待ちください。ですから、それはなりません」

「俺も放置を推奨する。先程、上空から見させて貰った。理由は知らないが、その男はアレクシアの命を狙っていたのだろう。救う価値などない」


 ユーリもベネディッドさえもルゥナの行動を否定した。でも、目の前で傷ついた人がいて、それを治す薬があるのに、何故駄目なのだろうか。


「価値とは何でしょうか? 命の価値など、皆同じです」

「同じと言うなら尚更だ。人の命を狙うような奴を生かせば、その何倍の数の命が失われることになるぞ」

「それは……」


 ベネディッドの意見は正しいかもしれない。しかし、このまま方っておけば命に関わる。

 その時、ビリーが目を覚まし唸り声を上げた。


「ど、ドラゴンがっ……。助けてくれ頭が、頭が割れそうに痛いんだっ」

「この薬を飲んでください」

「ああ。……あ、アレクシア様っ!?」


 ビリーが驚愕の表情で固まった。命を取ろうとしたものに助けられるなど思ってもいなかったのだろう。


「これを飲んでください」

「し、死ねということですか?」

「へ? 違います。これは薬です」

「く、薬? そ、そうなのか? 俺を助けてくれるのか?」

「そうだ! 貴様に命を狙われたにも関わらず。アレクシア様はお前を助けようとしているのだ」


 ルゥナを見て怯え退くビリーの前に立ち、ユーリは剣に手を掛け言い放った。ビリーは頭を抱え踞り、嗚咽を漏らしながら震えている。


「あ、アレクシア様が? 俺を? ああ。そうか。すまない。頭を打ったせいか、混乱しているんだ。だが、俺は誓う。アレクシア様の命を狙うなど二度としない事を」

「本当か?」

「ユーリ様。宜しければこれを」


 疑いの目を向けるユーリにスーザンはポーチから取り出した真実の指輪を渡した。

 ユーリはそれを怯えるビリーの指に無理やり嵌める。


「もう一度問う。アレクシア様に手出ししないことを誓うか?」

「ああ。勿論だ。アレクシア様は命の恩人だ。決して傷付けることはしない。アレクシア様に忠誠を誓う」

「本心のようだな」


 ユーリはルゥナから回復薬を受け取ると、ビリーへと飲ませた。ビリーの顔色はみるみるうちに赤みを取り戻していく。


「すごいな。こんなに効くなんて」


 回復し喜ぶビリーを見ると、ベネディッドは呆れてため息を吐いた。


「甘い奴らだな。王族に手を出す輩ということは、裏で手を引いているのも、どうせ身内か何かだろう? 一番厄介な案件だ。――貴様、誰の命で動いていたのだ?」

「それは……こ、国王陛下です」


 ビリーはその名を口にした瞬間顔色を青ざめ己の口を両手で塞ぎ、恨めしそうに指輪を睨み付けた。

 これが指輪の力なのだ。

 ベネディッドはそれを冷めた瞳で見下ろし、ルゥナへと尋ねた。


「国王か。……心当たりは?」

「あります」

「そうか。君も身内から嫌われているのだな。だから護衛も一人なのか……。こいつは捕虜として扱おう。主君を守らず逃げ出した、裏切り者の御者としてな」


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― 新着の感想 ―
[一言] ビリー君の紙の様な忠誠心に拍手!(笑) まぁ…陛下からの依頼じゃねぇ…
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