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001 求婚

「借金は全て私が立て替えよう。だから安心して嫁にきなさい!」


 雲ひとつ無い青い空の下。王都の隅っこにある小さなボロい魔法道具雑貨店にて、ルゥナ=パストゥールは、商店街の会長に求婚されていた。

 会長の年齢はルゥナの三倍の五十四歳。

 ルゥナより歳上の息子や娘、それに孫だっている方だ。

 

 興奮した様子で両手を広げ、こちらへ笑顔を向ける会長と目が合うと、全身に鳥肌がたった。

 この店を切り盛りするようになってから約三年。新参者のルゥナへも優しく面倒を見てくれた会長だけれど、こんな下心を秘めていたとは知らなかった。

 多分、暑さで頭が沸いてしまったのだろう。


 ルゥナは、普段と変わらぬ営業スマイルで対応することにした。


「会長さん。今日も良い天気ですね。商店会費の徴収は来週ですよね。支払いはしっかり致しますので、ご安心ください」

「そんな物もう要らないのだよ。この区画は整理されることが決まったのだ。私の店も何店舗も整理区画に入れられてしまって。だが、それで大金を手に入れることが出来たのだよ。ルゥナの借金を全て返してもお釣りがくるくらいにな」

「まぁ。それは初耳です」


 この店は亡き両親が遺してくれた唯一の財産だ。

 パストゥール伯爵家の一人娘として生を受けたルゥナは、二年前に事故で両親を失った。宝石商を生業としていた両親は商品を運搬中に海難事故に遭い、海の底へと宝石と共に沈んでしまった。


 伯爵家は父親の弟である叔父が引き継ぎ、両親の死を悲しむ余裕も時間も与えられぬまま、ルゥナは金貨五百枚という多額の借金と、このボロい雑貨店のみ相続し、姉妹同然に育った従者のユーリと共に屋敷を追い出されてしまっていた。


「この店が無くなれば、ルゥナは行く宛もないだろう。ここの立ち退き料として金貨が五枚支給されるが、それっぽっちでは君の借金はどうにもならん。――若く美しく聡明な君が欲しい……じゃなくて。そんな優秀な君の力になりたいのだよ!」


 会長は私の胸に飛び込んでおいでと言わんばかりに、両手を開いたままルゥナが座る奥のカウンターへと足を進めた。その瞳は爛々と輝き、息は獣のように荒い。

 

 もはや言葉など通じないだろう。

 

 ルゥナは、カウンターの上で丸くなってお昼寝中のモッキュへと目を向けた。この子は手の平に収まる程小さいヤマネという動物に姿を変えた森の精霊だ。

 姿は魔力の高いルゥナにしか見えないが、人に害を為す魔法が使える子ではないので、起こしても戦力外である。


 普段用心棒を兼ねている従者のユーリは、森へ調合の材料を調達しに行っている為、夕暮れまで戻らない。今、モッキュに呼びに行かせても、戻るまでには小一時間はかかる。


 ここは何とか一人で切り抜けなければならない。


 ルゥナはカウンターの下にそっと手を伸ばし、強盗対策として一応用意してある睡眠薬入りの小瓶を手に取った。

 申し訳ないけれど暫く眠ってもらい、ユーリと対策を練ろう。

 

 そうルゥナが決意した時、店の扉が開きベルの音が店内に響いた。

 会長とルゥナが同時に音のした先へと目を向けると、扉の前には外光を背中に浴びて光輝く騎士様の姿が――。

 

「い、いらっしゃいませ。マルク様っ」




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