王都−03
ここは王城召喚の間、特定の者以外武器は持ち込めないのだが、見るからに鍛え上げた腕の筋肉。
その引き締まった身体を躍らせ、鱒太に飛びかかった。
その動きはとても速く、しかも周りの者達も鱒太の国王に対する発言の怒りで止めるタイミングを無くしていた。
一息鱒太に迫ったその者は鱒太の死角から後頭部に向けて足の先が見えない程の速さで上段蹴りを叩き込んだ。
「ゴッボキ!バチチチ!」
「グッアガアアッ!」
蹴り込む姿を見ていた者はもしかしたら殺してしまったのではないかと、そう思った視線そのままに…倒れ込む飛びかかった者と、振り返りもせず堂々と立つ鱒太を目にして殆どの者は絶句していた。
一部始終を正面から見ていたドベデス王も絶句しつつ、今の不意打ちが失敗した事も含めて訝しむ。
鱒太はチラリと後ろの足元にうつ伏せに倒れ伏す襲撃者を一瞥し、左右に並ぶ貴族達を見回し溜め息を吐きつつ言い放つ。
「学ぶ脳のない奴ばかりなのか」
と、殺気スキルを発動させ言うと、その場にいる殆どの者が身体が硬直した様に動けなくなった。
(威圧スキルにしとくんだった!ま、まあ結果オーライか。でもちょっと強力過ぎるなこれは。早めに解いたほうがいいかも。)
貴族達の怯むというより青ざめる顔を見てそう思った。
そんな中、殺気スキルを向けられなかったドベデス王は内心驚愕していた。
(記録にある過去の英雄召喚と違うじゃないか!何がどうなっているんだ?呼び出して直ぐはレベルも低く弱い平民のはず!術に問題でもあったのか?)
広間を見回し今回の召喚を取り仕切った責任者である魔術師長を探し、奥の方で腰を抜かしているのを発見し目で問いかける。失敗なのかと。
鱒太を怯えた表情で凝視していたが、ドベデス王のその視線に気付いた魔術師長はブンブンと首を横に振り必死にアピールした。違うと。
2人のやり取りに気付いた鱒太は魔術師長にも問い詰める。
「お前が実行犯か」
「ひいっ!」
(こんな怯えてたら会話にならないな。スキル解くか?…威嚇のつもりだったしな。)
スキルを解除して話を続ける。
「何故この俺を狙った?」
「ね、狙ってなど!英雄召喚は素質のある者をこちらに呼び寄せる術のはず、過去の記録でも普通の平民しか召喚されておりませんし。…あ。」
(言ってから気が付いたのか、どうしようもねえな。)
「今までも人を攫っていたのか!コイツは今まで行ってきた事がどういう事なのか、少しは理解が及んだ様だが…他はまだ誰も気が付けもしないのか?今ここで、家族も仕事も国も無くされ身体1つで違う場所に呼び出され、言葉も通じぬ見知らぬ者達に強制的に何かやらされる。残された者達もどうなるのか?考えてすらいないのか!」
鱒太の話に気付き理解し俯く者。目を逸らす者。知った事かと顔を真っ赤に怒りを表す者。
王も含めた全ての人に続けて投げかけられた言葉に全員の顔から血の気が引いた。
「今言った事が理解できない者は声を上げろ。何の準備もなく今直ぐに俺と同じ様に何処かに飛ばしてやる。
何人でもいいぞ?1人ずつキッチリ別の場所に飛ばしてやる。さあ!どうした!?」
この言葉に応えられる者は無く、召喚の間は静まり返るのだった。