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第7話

「エグゾギア・シュテン!」

「野郎衆暫定頭領、ザガン!」


 ――参る!!


 刹那に両手を持ち上げ、その五指をザガンへと差し向けたシュテン。その目には突撃を敢行するザガンの姿が確と映っていた。

 彼の視線はそのまま照準になり、今まさに五指の先の射出口から神速の弾丸(つぶて)を放とうと彼がした時であった。


「ムゥッ!?」


 その直前、忽然とシュテンの前からザガンの姿が消え失せる。すると己の上に落ちる影に気が付き、飛んだのかと彼が月夜を見上げた。


「あ、アレはっ!」


 掛かったな――空に見えたもの、それは大太刀! しかし大太刀《《のみ》》!!

 驚嘆を挙げるシュテンに掛けられた声は彼の遙か下方から、上げていた面を急遽下げて行く彼の前で、地に寝転がり巨体故のシュテンの死角に滑り込んでいたザガンが飛び上がる。


 獰猛で凶暴な表情を隠そうともしないザガンは同時に落下してくる大太刀を宙で掴まえると、シュテンが動き出すよりも迅くそれを振り下ろす。ボロ布に覆われた大太刀の刃が彼の頭上、角の合間へと叩き付けられる。


 ――その直後であった!


 ぐぁああっ――鬼が様相を呈するシュテンの頭部、それを今まさに叩き潰さんとしていた筈の大太刀はしかし寸前でその動きを止め、すると生じた閃光と激痛にあろうことかザガンが悲痛なまでの悲鳴を挙げた。


 シュテンが頭部に有する対の角は“ライカク”と云い、電撃を発するのだ!! その放電現象により絡め取られたザガンの全身は脳からの信号を乱され痺れ、硬直。

 その間にもシュテンは右手の指を彼に突き付け、「南無!」そう唱えるとその指先が瞬いた。


 ――ズババンッ!!


 直後吹き荒れる破壊の嵐! 風を切り、空気の壁を穿ち、あらゆるものを完全粉砕するシュテンが主力の鋭翔爪!!

 しかしそれが破壊したのはザガンが背に戦っていた斎屋の一角であった。狙いが逸れたわけでは無い、目標が逃れたのだ。失せたザガンを追ってシュテンの首が傾く。するとその先で見付けたのは電撃に今だ苛まれるザガンを抱き抱えた竜人、バジラ!!


「間接感電とか、キチョーな体験あざます……!」

「ムゥッ、何奴!?」

「悪党に名乗る名前はない! 御神体(エグゾギア)を渡すつもりもないし、みんなをこれ以上殺させるつもりもなし! 帰りなさいっ」


 我に後退の二文字は無い――びかりと輝くシュテンの双眸。その迫力にバジラは幾分か気圧されつつあったが、ぴりりと痺れが伝わる腕の中のザガンを見ては彼の勇気の一欠片を分けてもらい己を奮い立たせる。


「なら私が相手になる! 選手交代だっ」

「真竜人が相手なれば不足無し! その言葉、二度とは飲み込めぬ事覚悟せい!!」


 誰がするかとザガンを背に隠し、彼に変わり大太刀の剣を手にするバジラ。彼女の怪力を以てすれば巨大なる大太刀と言えどザガンのように担ぐこと無くとも諸手により持ち上げることが可能であった。


「弾め! 鋭翔爪っ」


 そんな彼女へと向け、シュテンの右手の五指が閃いた。彼女にとって未知であるその現象を前にその思考は働きすぎたが故に肉体が動作しない。シュテンは勝利を確信する。


 ――ガガカカカッ!!


 訪れた事態に驚嘆を挙げたのはシュテンであった。彼の目の前には目視など不可能な神速の弾丸を、大太刀の腹を広げて受け止め防いだバジラの姿があった。同時にそれを受けて粉砕はおろか穿たれることすら無い大太刀の頑強さにも彼は目を見張る。


「っ……ザガン!」

「あの指先は危険、輝いてからでは遅いぞ。的を絞らせるな」


 だがバジラの神がかり的な防御動作も、何も彼女だけで行ったものではなかった。彼女の背には動こうとしない身体を強引に動作させて起き上がったザガンの姿があり。彼の両手が彼女の両手を掴まえて動かしたのである。

 ザガンはシュテンの鋭翔爪が枕を目撃している!!

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