赤ずきん
あなたは今ッ、とんでもないマッチョを目の当たりにするッ!
◯メルヘンワールド
幅広の雲をくだると緑の平原です。
三匹の子豚がちっちゃなレンガの家に籠城し、
ある日森の中から熊さんがやって来て、
人魚姫の泡が風になって吹き渡っています。
そんなメルヘンワールドです。
メルヘンの北は樹海です。
木の根がうねり、ワイバーンがブレスを吐き、猟銃の衝撃波が肌にしみる、その先に、ぶどう酒の味の一軒家、看板には、
『赤ずきんハウス』
『〜ホエイプロテインあります〜』
ガラス戸に映るテーブルに、ちっちゃな皿、まるいブルーベリー、壁のシミは生活感、熟成した葡萄酒のかおり、きしむ古時計、深紅の瞳は親子の目、あわただしい朝食の準備の音、そして、ダンベルが食卓に鎮座しております。
ママ:「赤ずきんちゃ〜ん♪」
赤ずきん:「なーあーに」
ママ:「今日も晴れわたるいい空ね〜」
赤ずきん:「そうね」
朝よりも、ママのマッスルポーズ。
肌色が、朝日を吸って、汗きらり、
ゴールデンマッスルになりました。
ママ:「赤ずきんちゃ〜ん♪」
赤ずきん:「なーあーに」
ママ:「今日も腹筋グレネードボムね〜」もみもみ
赤ずきん:「そうね」
凶悪な、腹筋がふたつ、ピクピクピク、
斜めに合体です。
スベすべスベすべ、ゴリごりゴリ♪
いい肌ざわりです。
ママ:「赤ずきんちゃ〜ん♪」
赤ずきん:「なーあーに」
ママ:「今日はママがトレーニングマシン役ね」
赤ずきん:「そうね」
ママは腕を押さえる役。
赤ずきんは引っ張る役。
パワーは拮抗、二人は咆哮、
家のガラスが飛びました。
ママ:「赤ずきんちゃ〜ん♪」
赤ずきん:「なーあーに」
ママ:「朝ごはんは〜、オオカミ肉よ〜♪」
赤ずきん:「そうね」
豪快なソテーです。
赤ずきんの大きな唇、開いて、
フォークの先には肉片です、
アーん、ごりごり、うまみ。
ママ:「赤ずきんちゃ〜ん♪」
赤ずきん:「なーあーに」
ママ:「おばあちゃんに お届けものよ〜♪」
>ちいさなバケット
マッチョババアの笑顔です。
元気です。
プロテインを切らして、
ふて寝です。
新発売、ぶどう味
のどごし爽やか、試飲です。
赤ずきん:「そうね」
紫のパッケージです。
牛乳パックです。今、
バケットもって、
おとどけです。
赤ずきん:「いってきまーす!」
ママ:「行ってらっしゃーい♪」ちゅ
行ってきますのちゅう。
◯赤ずきんハウス・外観
ドア:「いでぇ」ベリベリベリッ!
ママ:「あらまあドアちゃん剥がれちゃったの」
赤ずきん:「ごめんなさーい」
押し戻す ドン
ばき、バキバキッ!
ママ:「あらまあ壁ちゃんヒビ割れちゃったの」
赤ずきん:「あーん、またやっちゃった」
カラスの群れ:「「「カァー」」」
バサバサバサ…
◯森
気を取り直して一本道、
森の中へと伸びていきます。
ところで、赤ずきんちゃんの足、
とっても、太いです よね?
赤ずきん:「ホップスキップらんららん♪」ドシドシ
>>>じわれ
ビシィィィィィ
ビシィィィィィ
ビシィィィィィ
蜂:「ぶーん、ぶーん、大変だー」
リス:「キャー、地震よー」
ウサギ:「ぴょんぴょん、奴が来た」
猿:「ウキウキ、奴だー、頭を守れ」
熊:「ハチミツ食ってる場合じゃねえ」
森の中では大騒動です。
赤ずきん:「ふんふフン、ふフン♪」
ドシドシ ドシィィィン
ビシャァン ドカァァァン
地盤は隆起、枝はボトリ
遠くの街では避難警報
木も動物も しっちゃかめっちゃかです。
赤ずきん:「らんらんらん♪
自然破壊はー、たのしいな♪
うふ、うふ、うふふふふ〜♪」
オオカミ:「やあやあそこの 赤ずきんちゃん」
赤ずきん:「だれかしら」
オオカミ:「森の神、古くからのね
この道いくと、みんなのすみかだ
キミに優しさあるならば
右向け右して 寄り道しなさいな」
赤ずきん:「むーん」
回り道だなんて……メリットがありません。
それどころか、「優しさがない」と
言われたようで 面白くありません。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
睨み合い です。
レッドキャップが スライムみたい
ぷるぷるプルプル震えています。
オオカミ:「プロテインの泉があるよ」
赤ずきん:「わーい」
ちょろいです。
◯おはなばたけ
赤ずきん:「わはー」
ブゥゥゥゥゥゥン
ドドドドドー
砂ぼこり:「ブォンブォン!」
カヤの葉:「キャー、ブチ、くるんくるん」
蝶:「オロロロロ〜、酔った」
蜂:「なんてことを、私たちの巣が、巣がー」
慈悲はない。
レッドキャップはプルプルしています。
◯おばあさん宅
青のトタンの屋根を乗せた、ボロ小屋です。
青い屋根です。日陰です。窓枠、ベッド、筋肉です。
オオカミ:「やあ」ガチャ…
おばあさん:「ぐごー ぐごー」
あまりにマッチョ。おばあさん。
身長2メートル超、体重100キロ超。
オオカミさんは、目をぐるぐるして、
やっぱり勇気を出しました。
オオカミ:「……コレが諸悪の根源なのか
森の平和のため、いただきますッ!」
デカい唇、赤黒い喉、んああー
ばくん!
ごくん!
オオカミ:「げぷぅぅー」
おなかが横倒しのマッチョになりました。
◯プロテインの泉
まんまる泉に赤ずきんがひっついています。
赤ずきん:「ここにダンベルを落とせばいいのね」ボチャン
ヒュー
女神:「落とし物だイヤッホゥ!」
大変、ねえ見てくださいよ。
空から女神ですよ!
ざばーん
赤ずきん:「わぁ、ビックリ」
ブクブクブク ざーん
女神:「ありました。落としたのはこの
【金のダンベル】ですか? それとも
【銀のダンベル】ですか?」
赤ずきん:「あなたの腹筋です」
女神:「ファッ!?」
女神の腹筋わしづかみ、ガシッ!
女神:「ちょっと、はなして、
はなしなさいよ、イヤー」
赤ずきん:「ふんふんふーん」
肩にでっかい女神を乗せてんのかい!
スクワットはどこまでも。つづく。
◯おばあさん宅
もう太陽はオレンジボールです。
赤ずきん:「いっけなーい」
道草です。マッチョの時間に遅れるぞッ!
ドアノブです。留め具がオンボロだぞッ!
赤ずきん:「おじゃましまーす」バキバキバキ
壁:「ぎゃー」
おやおやぁ、窓からオオカミが見えますよッ!
オオカミ:「毛布ねまき、ナイトキャップ
メガネ……あー人間って大変だな
よしこれで、騙し討ち準備OK」
オオカミ:「そして、しわがれ声でこう言うのさ
あがず──」
赤ずきん:「(耳元)おばあちゃーん!」
オオカミ:「ずずずわぁぁー!??」
オオカミ、ジャンプ!
天井、ドカン! 顔ぐちゃです。
ケツから、ベッドイン! しわっです。
赤ずきん:「おばあちゃん おばあちゃん
おばあちゃんの 大臀筋は
どうして そんなに ちっちゃいの?」
オオカミ:「ぎくぅ!?」
バレてます バレてます!
赤ずきん にっこり
オオカミ:「そそそそれは、えーと、アレだよ
プロテインが足りなかったせいだよ」
赤ずきん:「じゃあ腹筋は?」
オオカミ:「ぎくぅ!?」
心臓バクバクです。
それでも必死にうなって
オオカミ:「それもプロテインが
足りなかったのだよ」
赤ずきん:「じゃあ上腕二頭筋も?」
オオカミ:「それもプロテイン」
バカの一つ覚え!!
赤ずきん:「………そーなんだ!
たいへんだねッ!」
こっちもバカだった!
赤ずきん:「まってて今シェイクするね
特製ぶどうプロテイン
ジョロじょろサッサ、
シャカしゃかシャカ」
大臀筋フリフリ
オオカミ:「はあはあ」
助かりました。
そしてチャンスです。
背中がガラ空きです。
赤ずきん:「るんるんるん♪」
オオカミ:「スキありー!」
大きな口は、のどちんこ丸出し……
赤ずきん:「プロテインできたよー」振り向いて
オオカミ:「イガーーー」ドゴォ
肘打ちクリティカルヒット! バキバキ
ベッドの残骸にうまります。
グレーの貧弱な足です。
赤ずきん:「軽い……おばあちゃん
短期間で ここまで減るわけない!
さてはオオカミだね!」
オオカミ:「しまった!
バレちゃ しかたない
猟師さん お願いします」
◯川辺・1キロ離れている
猟師:「チッ、しくじったか
おおザミエルよ
魔弾の悪魔よ
▼
我が命と運を以って、今ここに
契約を」✡️
✡️ ✡️
✡️ ✡️
✡️ ✡️
銃が黒から白になりました。
猟師:「契約は成った
平和を勝ち取る弾丸だ
まずは右目だ」
タァーン!
赤ずきん:「目がぁぁぁぁぁ〜!?」
望む場所にヒットする魔弾です。
泣いてとっても痛そうです。
オオカミ:「動くな!」がじがじ
赤ずきん:「うおおお」
声量で木の家は、空中分解です。
そして草原、草木の音。
猟師:「次は左目!」
タァーン!
赤ずきん:「ううあああー」
オオカミの鼻息です。
引き金を引く音です。
オオカミ:「森のために くたばってくれ」
うねうねマッチョ
猟師:「次は右耳だ!」
タァーン!
猟師:「左耳だ!」
タァーン!
赤ずきん:「うう、キーンってする」
鉛と毛深い香りです。
そしておばあちゃんの残り香がします。
めまいマッチョ
猟師:「お次は鼻!」
タァーン!
空気が鉄の味です。
赤い舌がウネウネします。
そして四股でクレーター、
土煙の味です。
オオカミ:「大人しくなったぞー
必殺技だ、いけー」
猟師:「さあ、次は心臓だ。
どんなマッスル鎧でも、
異次元からは無抵抗の紙
▼
さあ、お前の罪を数えろ!」
タァーン→❤︎
ぱたり
赤ずきん:「ぐふっ」吐血
なんということでしょう。
クレーターに横たわる赤い人です。
さすがの赤ずきんも生きてはいまい。
猟師:「よし」
オオカミ:「よし」
クレーターの円周上に、
森の動物たちが整列します。
ワイバーン:「やったか」
木:「ついに平和が戻った」
鮭:「心おきなく産卵できるぜ」
熊:「ハチミツパーティーだぁ!」
蜂:「おいよせ、こっちに来るな」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
猟師:「なんだ?」
オオカミ:「やだ、もしや第二形態」
赤ずきん:「我は日輪 地の上の日輪なり。」
浮いたッ!
腹筋が上昇!!
中程でくるっと回転
背中に羽が生えてるぞッ!
✨ピカーン✨
日は沈み、空は黒、
だけども森は、オレンジです
レッドキャップが大炎上
足の裏までオレンジです。
オオカミ:「なんと 神々しい オーラ」
猟師:「さては 泉の女神を 食らったな」
そのお姿は、まるで太陽の神です。
赤ずきん:「まあ素敵、パワーあふれるわ
みんな見て、灼熱のポーズ
フーン!」
☀️☀️
☀️☀️☀️
☀️☀️
ジュッ
土は焦土、
木は木炭、
動物も木炭、
泉は蒸発。
オオカミは盾
猟師:「オオカミー!」
オオカミ:「へっ、俺はここまで
ラスト一発 撃ってしまいな」
猟師:「うおおおお」
タァーン
ヒュー……静かな風です
猟師:「はあ、はあ、やったか?」
赤ずきん:「残念だったね」ポト
猟師:「ば、バカ、な。
異次元よりの魔弾、見切っ……ぐふっ」
後に残るは、ママとおばあちゃんです。
おばあさん:「なんだいなんだい うるさいね
禁断の【二度寝超回復】という邪法に
手を染めてんのさ。ああ筋肉痛ー」
赤ずきん:「おばあちゃーん」ぎゅ
おばあさん:「なにさ、おや、
大胸筋が 増したねえ」
赤ずきん:「でも、でも、
プロテインが蒸発しちゃった」
おばあさん:「かまわないさね
アンタの筋肉が 増えたんだ
喜ぶべきさ」
赤ずきん:「わーい」
おばあさん:「わーい」
ママ:「わーい」
めでたし めでたし