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マッチョ姫  作者: ✨️ゲーミング百合✨️
マッチョ姫
3/7

人魚姫

たいへん遅くなりましたぁ!!

人魚姫




◯真夜中の大海原



 国への帰ろうと豪華な船に乗ると急に雨足が追いかけて来ました。


   ざざーんザアザアざざんざあ


 嵐は海を踏みつけて、波浪が船を叩きます。


船乗り:「船長、もうダメです。舵が空回ってます」

船長:「ガタガタぬかすんじゃねえ。気合でなんとかしろ!」

船乗り:「でもぉ、帆は破れてマストは折れて、錨は長されちまってます。もう船はダメです」

船長:「バカヤロウ、最後まで諦めるなッ!」


   ざっぱーーーーーん!


船乗り:「うわぁぁぁあ!!?」ドボン


 荒れ狂う白波は死神のカマとなり、船乗りたちを冷たい水底へ落としていきます。


船長:「何だ…何なのだこれは……まるでこの、この大海原が食あたりか何かで暴れ狂っているようだ」

船乗り:「くそっ、どうすれば」

船乗り:「もうおしまいだぁ…」

船長:「おいヤローども。いいか、ウチには王子様が乗ってるんだ。こうなりゃ王子様の延命に徹しろ! 今から俺たちは捨て駒だ、王子様の盾だァ!」

船乗り:「そうか!」

船乗り:「目標がありゃぁ、がぜんやる気が出てくるってもんだ」

船乗り:「ラジャー。王子様をお守りしろ」

船乗り:「オー!」


 と、ここで、まばゆい王冠の輝きが差しこんで、夜のカーテンを開いたッ!!


王子様:「船長、船長、そこにいるな!」

船長:「まぶしっ、この光は……ハッ、王子様。いけません、ここは危険ですぞ」


   ざっぱーーーーーん!!


船乗り:「ぐわぁぁぁぁぁぁ」

船長:「ほ、ほら。波に食われちまいますぞ。さあさあ中へ戻りましょう」

王子様:「船長、ボートを出せ。俺様一人でも国へ帰る」

船長:「王子様ッ!? 何をおっしゃいます。どうかお気を確かに」

王子様:「話は聞かせてもらった。この船はもうじき沈むのであろう。既に浸水も始まっている。だったら次の一手を打つまでよ」


   デデェーン!!


 謎の効果音とともに、王冠から虹を振りまきます。


船長:「ははぁ、仰せのままに」

王子様:「船長、一緒に来い。そして残された諸君、すまない、お前たちの名は一人残らず墓に刻んでやろう!」


 海はまさにクジラの口となり、うなり、もうボロボロな船を食べてしまおうと、その時ッ!


   カパッ!


 船の横が開いて、ボート射出ッ!


王子様:「イヤッホゥ!」


 雨を斬り裂く希望の閃光ッ! それは王子様ッ!!


王子様:「俺様がくたばったら後継者争いで国が沈むッ。王家の血統、絶やしてなるものkウボボボボォォー」


 現実は非常である。

 ボートは転倒、王子様は頭から海へ真っ逆さまでございます。


 ブクブクブク……(白い泡)


 ブクブク……ゴボッ!(大きめの泡)



 おや、どこからか声がやってきます。



???:「うひょー、イケメンじゃーん。腹筋バリバリッ! これは助けるしかなぁい!! イヤッハー!!!」



   ドゥロロロロ〜♪




◯海底都市・郊外


 海底のキラキラした王国の外れです。たこつぼ型の屋敷が海底火山にドカンと乗っかっております。

 そこに空色アイシャドウの人魚姫が戸を叩く!


人魚姫:「もしもし魔女さーん、お薬くださいなー」ドンドンドン


   しーん……


人魚姫:「金は言い値で払うよー。札束だよー、クレジットで一括払いだよー」ドンドンドン


   しーん……


人魚姫:「あ゛あ゛あ゛ーッ、早く開けてよー、王子様が逃げちゃうよー、どこぞの姫さまと婚約しちゃうのぉー。はやくはやくはやくぅ〜」ドンドンドンドンドン

魔女:「やかましい!」ドガァ!


 扉が吹っ飛んだッ!! 人魚姫、鼻から出血!


人魚姫:「いった〜い。くー……」と、はなぢをおさえます。


魔女:「なんだいなんだい王女様、そんなに眉毛をピクピクさせて」


 魔女はタコの人魚、デカい触手がうねっております。


人魚姫:「んぐー……えっと、あのね、さっきね、超絶グレート腹筋イケメン王子様を拾ったの」

魔女:「うんうん」

人魚姫:「でもね、人間だから海じゃ息できないわけよ」

魔女:「うんうん」

人魚姫:「だからね、その辺の砂浜に置いてきたわけよ」

魔女:「ほー。なるほどね。つまり足を生やして王子様とキャッキャウフフなあまあまライフを──」

人魚姫:「そーなのよッ! そして結婚して赤ちゃんを産んで、うふ、うふ、うふふふふ〜❤︎」


 タコよりも激しくウネウネしております。


魔女:「ふむふむ。お買い求めの商品はこれだね」サッ



┌───────────┐

┃           ┃

┃  足がはえる薬   ┃

┃           ┃

 (※劇薬につき取扱注意)      ┃

└───────────┘



人魚姫:「そうそうこれこれ〜」ベリベリ

魔女:「待ちなっ、箱の裏をちゃんと読むんだよ」

人魚姫:「ええー、めんどい」(・ε・)

魔女:「いいから読め。道半ばで力尽きても知らないよ」

人魚姫:「むう。それは困る」


 と、箱を裏返します。

 そこには真っ赤な文字でこう書いてありました。


   「喉が潰れます。

    事前に声帯筋を鍛えましょう」


   「重度の精神的ストレスによって

    気泡になるおそれがあります」


   「地上を歩くにはヒラメ筋を

    肥大化させる必要があります」



人魚姫:「なんッじゃこりゃァァァッ!!」

魔女:「ふっふっふ、さあ筋トレの時間だ。こんなこともあろうかと、プロテインもトレッドミルも完備してあるぞ」

人魚姫:「いや、待って、やっぱり人魚のまま可愛がってもらおうかなぁ〜、うん、でかい水槽を用意してもらって。それか文通で満足するしか──」

魔女:「つべこべ言うなァーッ!!」グイッ

人魚姫:「いやぁぁぁ!!?」


 タコ足が姫をハウスの奥へと引っぱりました。

 そして壮絶な筋トレがはじまったのでした。


   むっきむき〜♪



◯思い出の砂浜


 王国の南の深い森を抜けると砂浜でした。

 一面の砂と水とが白のキラキラになります。

 岩にカモメがとまりました。


王子様:「俺様としたことが、またこの場所に戻ってきてしまった……」


 海パン姿の金髪イケメンが、ゴツゴツした小高い岩に立って腕を組みます。


王子様:「俺様はまだあの時の記憶をさまよっている。俺様を、この冷徹王子と呼ばれしこの俺様を、ここまで熱くさせるのかッ、まだ見ぬ姫よー!」


   バサバサバサッ!

 王子様の叫びにカモメの羽音が返ってきます。


王子様:「いいだろう。その姿が明らかになった暁には、泣いて許しをこうまでタップリと可愛がってやろう。この俺様から逃げられると思うなよ」


 海に背を向け岩からジャンプ……その時ッ!


   じゃぶ、じゃぶじゃぶじゃぶ…


人魚姫:「プッハー! カヒュー、カヒュー……ごくり。あーあーあー、テステステス」


 それはマッチョ姫。

 もう一度言おう。

 マッチョ姫ぇぇぇ!!!!!

 筋肉が、薬の副作用に、勝ったのだ!


人魚姫:「よぉし喋れるぞー、そして歩けるッ! 本日は絶好調なりィィィ!!」ドシドシ


王子様:「なんだ貴様は」

人魚姫:「あ、王子様ぁ〜❤︎ あたし、人魚姫でぇす♪」ムキムキ

王子様:「下品な女だ。帰れ、貴様など知らぬ」ぷい

人魚姫:「ひどっ! ちょっとそれはないでしょ。あたしね、あの嵐の夜に助けてあげたんだよ。ねえねえちゃんと覚えてる?」

王子様:「なんだと!?」


 と、目を細く鋭くして、マッチョの手をつかみ、にぎにぎします。


王子様:「ふん、違うな。俺様の腹筋を撫で回した手はもっとスベスベしていた。断じてそんなゴツい指ではないッ!!」

人魚姫:「ガーン!!?」


 不覚ッ!

 確かに王子様を助けた時は普通の絶世の美女だった。

 だがしかしッ、今はッ、顔だけ美女のゴリマッチョォォッ!!

 これでは説得力がないッ!!!


人魚姫:「そ、それは、えっと……」うじうじ

王子様:「フッ、話にならんな。去れ、うるさい筋肉よ。今なら無礼も見逃してやろう。さもなくば──」


   シャキン!


人魚姫:「ひぐっ!?」

王子様:「この剣先が貴様の喉元を掻き切ってしまうぞ。さあ、去れ!」


◯人魚姫の心


 まな板の上にちっちゃなロリ人魚姫が20人!!


 「いやぁぁぁ、思ってたのと違いすぎるぅー」

 「どうしてこうなったし」

 「やばい、親に無断で薬飲んでもう後がない」

 「そもそもアレだよ」

 「筋肉のせいだ」

 「そうよ。魔女のババアが無理やり筋トレさせるのが悪いのよ」

    (そうだそうだー)

 「でも剣って、ドキドキするかも」

 「確かに」

 「いいかも」

 「え、でも危ないよー」

 「見て、王子様のおめめがキリッとしてるのよ」

 「おおー」

 「イケメンだー」

 「なんか興奮するーッ!」

 「うぇーい」

 「うぇーい」

    (うぇーい)


◯砂浜


人魚姫:「うぇーい」

王子様:「なんだ貴様、気でも狂ったか?」

人魚姫:「はい正気です!」

王子様:「俺様の気分次第で貴様の喉は血を吹くことになるのだぞ」

人魚姫:「大丈夫、ほら」バキッ

王子様:「んなっ!?」


 折れたッ!

 伝説の聖剣だったのにッ!

 姫の手刀に斬られたッ!!


王子様:「……くく、ははは、あーっはっはっは。この俺様の興味を引くとは。面白い女だ。いいだろう、気に入った、特別待遇で住まわせてやる。感謝しろ」

人魚姫:「やったぁー!」



 それからそれから、二人の間を楽しい日々がどんどん通り過ぎていきました。


 水槽の中にはマッチョ!

 ブラとパンティと鎖つきのチョーカーのマッチョ!!

 王子様にその筋肉、とくにフグのような大胸筋を見せつけて、エサに高タンパクの食事とプロテインを頬張ります。


 そして散歩に連れて行かれます。市場で買い物、野原でお花摘み、湖のボートで二人きり、森のオオカミを殴って退治、充実したひとときでした。


 それはそれは楽しい日々で、運命がこっちにやって来るのに全く気づかないほどでした。



◯王城・王子様の部屋



人魚姫:「ちょっと誰よこの女!!」


 王子様の背中には、キリッとした吊り目の修道女がいました。


修道女:「ごきげんよう、ワタクシ──」

人魚姫:「アンタには聞いてないッ!」

王子様:「なんだと、俺様に質問するなッ。まあいい今は気分がいい、特別に答えてやろう。この女こそが俺様が探し求めていた命の恩人なのだッ!」


  デデェェェーン!!!(冠から虹)


人魚姫:「ちょっと待ちなさい、私がその恩人なのよ! 言ったじゃない」

修道女:「なんですの貴女、ワタクシこそが命の恩人なのですわ」

人魚姫:「ファッ!? うそつけー適当ぬかすんじゃないわよ」

修道女:「貴女こそ、いいがかりはよしてくださいませ、この筋肉ゴリラ。そう、それは嵐が過ぎた朝のこと……」



◯回想



人魚姫:「くう、仕方ない。待っててね王子様、すーぐ足を生やして来るから」ドボン


 人魚姫が王子様を砂浜へぶん投げてからの事です。

 王子の手の先が、砂を引っつかみました。


王子様:「ぐ、ここは、どこだ……波の音、まとわりつく砂、俺様は……生きている。ゲフッ、ダメだ、まだ意識が……起きろ……国へ帰らなければ……」ガクン


 と、気絶。顔が砂まみれです。

 おや、向こうから少女が走って来ます。


修道女:「もし、もし、まだ息がある。よいしょ」ひょい


 と、腹筋を撫で回しながら教会へと連れて行きましたとさ。



(回想終了)



人魚姫:「オーマイガッ!!!!!」

王子様:「ちなみにコレは由緒正しき隣国の王女だ。これほど俺様にふさわしい女はいないだろう」

修道女:「ごめんあそばせー」

人魚姫:「ちょっ、愛は、真実の愛とかないの?」

王子様:「お前は珍獣枠だ」

人魚姫:「おわあああああ」



◯人魚姫の心


 まな板の上の人魚姫の群れが吠えている。


 「あんぎゃああああ」

 「いがああああああ」

 「うろおおおおおお」

 「ええええええええ」

 「おごごごおごおお」


   ドッッゴォォォォォッッ!!!


 海底火山が噴火したッ!!

 そしてマグマは次々と姫の姿になって飛び回ります。


 「どうしてくれよう」

 「この泥棒猫」

 「首をねじってやろうか」

 「海底に頭ぶつけてくれようか」

 「それとも空のはるか彼方へと投げつけてくれようか」


 「それとも王子様をさらってしまおうか」

 「南の孤島で逃げられない二人暮らしをしようか」

 「人魚になる薬を無理やりねじ込んでくれようか」

 「いっそこの国を完全に滅ぼしてやろう」

 「そして絶望に歪んだ顔を愛でてやろう」


 「ダメよ、外道に堕ちてはいけないわ」

 「落ち着いて、まずは海で頭を冷やすのよ!」

 「そして魔女に相談するのよ」


 「黙れ」

 「敵が目の前にいるのだぞ」

 「この激情、今すぐぶちまけてやろう」


 「やめなさい」


 「やめない」


 「よしなさい」


 「ぶっ潰す」


 「深呼吸をしなさい」


 「暴れてやる」


 「だめよ」


 「いやだ」


 心がマグマで満たされて、グツグツグツグツグツグツグツグツグツグツ!!!!!!!!



        デン!



   「重度の精神的ストレスによって

    気泡になるおそれがあります」





◯王子様の部屋



人魚姫:「うぼ、うぼぼ、ブクブクブクブクブク」

王子様:「なんだと!」

修道女:「キャー!!」


 なんということでしょう。


 あまりの葛藤に耐えかねて、人魚姫は全身が泡となって消えてしまいましたとさ。


 その後、人魚姫は空気の精霊に転生して、悠々自適な筋トレライフを送り続けました。


 結婚して幸せそうな王子様を見ては、キレて、嵐を巻き起こす迷惑な存在となったのです。


 風が強い日には、決まってマッチョの悪夢を見せ、夢の中で筋肉痛になるまで可愛がりつづけたのでした。


 めでたし めでたし

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― 新着の感想 ―
[一言] ロリ人魚姫いいなぁ。 やはりロリは可愛くないとね(*^^*) 薬の副作用だったのか。。。 副作用を補うのに 筋肉増強という発想は無かったwww 情景描写を最後まで入れるとすると、 凄く長…
[良い点] あああ、でも、あっちへ行くと思えば、また戻る。そういうのは面白いですよ! 王子様NTRもの? [気になる点] うーーん。確かに後半の描写、もう少しあった方がいいかな。
[一言] なんだよぉ〜! ストレスってなに!? 声はなんとかなったけど、意味ないじゃん!(笑)
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