かぐや姫
☪️今ではもう昔のことでございます。
竹取りの翁というマッチョがおりました。
野山を時速60キロで駆け回り、竹をバキバキとへし折って、バーベルのシャフトや懸垂用のぶら下がり機なんかを自作して売りさばいておりました。
ある夜、いつものように竹を取っていると……
翁:「なぁんだアレはぁッ!?」
ゴールデン竹ッ!
高級プロテイン袋の輝きッ!!
近づいて〜
翁:「アチョー!」バキバキィィィ
へし折ると〜
姫:「わきゃ〜♪」ピョコピョコ
10センチほどの、かわいいかわいい姫様が、ちょこんと座っておりました。
翁:「かわいいなッ! …そうか、この姫をマッチョに育て上げればよいのだなッ!!」
肩に乗せて、家へと帰り、妻の嫗へと預けます。
嫗:「あんら可愛い♪ この子の名前は『かぐや姫』だ」
翁:「いい名前だな!」
こうして翁と嫗は、かぐや姫にダンベルとプロテインを与え、しっかりと育て上げました。
☀️それからというもの…
翁:「なんてこったい、まーた黄金だぁ!」
竹の中から黄金がドバドバと出てくるではありませんか。
翁:「これだけあれば、立派なジムを建設できるッ!」
自宅をジムに改造して、近所の人々にダンベルとプロテインをふるまい、マッチョあふれる村ができてしまいました。
☀️かぐや姫のすくすく育つこと育つこと、三ヶ月後、かぐや姫はなんと、身長2メートルのマッチョになりました。
姫がフィットネスの衣装と専用ローションをつけると、ジムは筋肉の光につつまれます。
翁は体調が悪い日も、かぐや姫を見ると元気を出して追い込みまくりました。
さぁマッチョを呼び集め、ボディビル大会を開き、その猛烈なバルクをほこるバリバリマッチョかぐや姫を見せつけることを繰り返し、その噂は、日本中へと広がりましたとさ。
☀️
やがて、かぐや姫の元に、ウワサを聞きつけた変態どもが群がってきます。
ある者はストーカー、ある物は家に穴あけて覗き、またある者は家の周囲をウロウロして不意にマッスルポーズをキメます。
かぐや姫:「あたたたたーーー!!」
変態:「ぐべっ」
変態:「うぼっ」
変態:「ぬわー」
変態共をボコボコにして回る日々、さすがに疲れます。
ところがどっこい変態は、なにも平民だけではありません。
やんごとなき身分の貴公子が五人、ラブレターで熱烈プロポーズをかますのです。
翁:「姫よ、翁はもう70歳を過ぎてしまった。そして彼ら五人は確かなバルクの持ち主だ。結婚を考えても良いのではないか?」
かぐや姫:「そうですね。この五人はたしかにマッチョ、そして筋力は同等のようです。ですが、いささか力不足ではないかと。」
翁:「むむっ?」
かぐや姫:「実際に会って確認したい事があります」
☀️
日が暮れるころ、変態貴公子五人組が、風のようにやって来ました。
ある者はプロテインを飲み、ある者はマッチョソングを歌い、ある者はダンベルを取り出し、ある者はスクワット、ある者は特性劇重扇で指を鍛えていたところ……
翁:「もったいなくも、むさくるしい所に、おいでなさった事を、恐悦至極に存じます」ペコリ
貴公子A:「いやはやここは立派なジムだ」
貴公子B:「平安の都のものと遜色ない」
貴公子C:「ところで姫は」
貴公子D:「ついにお顔を見ることが?」
貴公子E:「うむ、実に心踊る」
と、ザワザワと興奮気味であります。
翁:「うむ、実はですね、かぐや姫が『愛情の深さは筋力でわかることでしょう。あなたたちのウェイトリフティングの限界を見て決めましょう』と言うのです」
と、言うや否や
貴公子A:「フハハハハ」
貴公子B:「面白い。実に単純明快」
貴公子C:「我らのパワー、しかと見るがいい」
貴公子D:「ふっふっふ」
貴公子E:「燃えてキター!」
そう言ってドドドドドっと中へと押し入ると
かぐや姫:「ごきげんよう、みなさま」
着物姿のかぐや姫!
なんと、ゴリゴリの上腕二頭筋も、目立たないッ!
貴公子たちが思わず、息を呑むと
かぐや姫:「ではそこのあなた、この【鉢植え】を持ってみてくださらない?」スッ
と、一見なんの変哲もない植木鉢を差し出す。
貴公子A:「フハハハハ、この私は200キロのバーベルを持ち上げたことがあるのだ。鉢植えごとき重おおおおおおおッ!?」
どっしーん
かぐや姫:「あらあら情けないこと。では次の方はこの【木の枝】を」スッ
カラフルな珠のついた枝を差し出します。
貴公子B:「鉢植えならともかく、このような貧相な枝ごときでは重おおおおおおおッ!?」
どっしーん
かぐや姫:「あらまあ。どんどんいきますよー、はい、はい、はい♪」
貴公子Cには、軽そうな【羽衣】
貴公子Dには、きれいな【宝玉】
貴公子Eには、きれいな【貝がら】
を、渡していきます
貴公子C:「まさか、この羽衣が……200キロを超える……いやいやまさかそんなこと重おおおおおおおおッ!?」
貴公子D:「まてまて、割ったときの弁償がこわいなんてことない重おおおおおおおおッ!?」
貴公子E:「わー綺麗な貝がらですねー重おおおおおおおおおッ!?」
どしーん
どしーん
どっしんしん♪
▼▼▼▼▼▼▼▼
さて貴公子どもに格の違いを見せつけたかぐや姫でしたが、今度は『帝』に目をつけられてしまいました。
ある日、見慣れぬ男がジムの門を叩き、
使者:「勅命です。かぐや姫の容姿を見て来るようにとのことです」
かぐや姫:「いいよー」ムキムキ
使者:「ホワァァァッ!?」
▼
帝:「なんと、そこまでハイレベル……多くのマッチョを蹴散らしたというウワサは真だったのだな」
使者:「ははぁ、それはもう、鬼が山を背負うがごとく──」
使者が目を血走らせ、ものすごい勢いで身振り手振り絶賛するものですから
帝:「欲しい、是が非でも欲しいぞ、かぐや姫ー!」
あーあ、暴走しちゃいました。
▼
翁:「姫やー、姫やー、大変だー」
かぐや姫:「え、なにこれ?」
家の前には大行列!
山に狩に行くと称して、かぐや姫の自宅に突撃する作戦なのです!
翁:「姫、奥で待ってなさい」
かぐや姫:「わかったわ」
翁と嫗、二人で平伏して出迎えますz
帝:「このオレこそが帝、数多のマッチョを束ねる最強のマッチョなり。さあ、かぐや姫に会わせてもらおう」
身長220cm、着物ごしに感じる圧倒的な威圧感。
なるほど確かに『最強』を自称するだけはあります。
帝はどんどん奥へと進み、なぜかジムと併設されている劇場へと踏み入ります。
バァァン!
スポットライト
光が満ちる
清らかで美しいマッチョ
帝:「おお、聞きしに勝る輝き。比類なきマッチョなり」
かぐや姫:「お褒めにいただき恐悦至極。ところがどっこい残念ですが、お引き取りくださいな。」
帝:「手を引くつもりはない! オレは今まで欲しいものは自らの筋肉で手に入れてきた」
グイグイ歩いていきます。
帝:「抵抗するならするがいい。この手を振り切れるものならなッ!」
岩のような手が、岩肌のような前腕筋へと触れるとき
かぐや姫:「女だと侮りましたね」ガシッ
帝:「んなっ!?」
全く同じように掴み返す。
鏡合わせだッ!
かぐや姫:「おおおおおおおお」
帝:「ぐおおおおおおお」
引っ張り合うッ!
そして押し合うッ!
互角ッ!
全くの互角ッ!
いや
わずかに
わずかに
帝が優勢かッ!?
帝:「フハハハハ! オレをここまで追い詰めたのは、おまえが初めてだッ! 誇るがいい」
かぐや姫:「くうっ、まだまだー」
少しずつ、少しずつ、帝が押していくッ!
帝:「諦めろッ! もう勝負は見えている! さあ、オレのモノになれ、妻になれ、そして、二人で子をなすのだ」
かぐや姫:「嫌、いや、いやぁぁぁーー! あっ」プツン
何か不吉な音がします。
帝:「なにっ?」
かぐや姫:「う、うおおおおおおお!!!!!」
雄叫びです!
帝:「な、何事だ!?」
かぐや姫:「ふゥゥゥんッ!」
ドゴォォォォォン!!!
巨大化ですッ!
モリモリ モリモリ
モリモリ モリモリ
モリモリ モリモリ
モリモリ モリモリ
モリモリ モリモリ
モリモリ モリモリ
モリモリ モリモリ
モリモリ モリモリ
ドゴォォォォォン!!!
身長50メートル!!
帝が指先サイズ!!!
自宅は崩壊、帝はビックリ、人々は大パニックだぁ!
☪️かぐや姫の肩
翁:「なんと!」
帝:「月の都……」
かぐや姫:「はい。前世で違法ドーピングに手をそめた報いで、転生して一から筋トレをする事になったのです」
翁:「なんということだ……」
帝:「さしずめ、この巨大化が、迎えの合図という訳だな」
かぐや姫:「……」
大きな姫は、うつむいてしまいます。
そうです。このままでは次の満月の夜、月の都に連れ戻されてしまうのです。
翁:「最初は菜種ほどだった姫が、今や奈良の大仏かと見紛うグレートマッチョになったのだッ! 誰ともしれぬ月の民に渡してたまるかッ!」
帝:「月の民だろうがなんだ! そんなもの返り討ちにして、必ずおまえをオレのものに、妻にしてみせる!」
二人とも、愛する姫のために命を燃やす覚悟です。
かぐや姫:「みんな、ありがとう」ぽろり
涙のボールがビチャリと落ちます。
帝:「お前ら、ありったけのマッチョを集めろ!」
翁:「村の衆、今こそトレーニングの成果を見せるときだッ!」
「「「 うおおおーーーーー 」」」
みんな意気投合!
ああっという間に、総勢2万人のマッチョが姫の元へと押し寄せて来ました。いつかの五人の貴公子たちもいます。
☪️そして満月の夜
翁:「おお、なんという筋肉の大草原!」
帝:「いくら月の軍勢といえど、さすがに突破は困難であろうな」
はっはっは。なかよく笑います。
かぐや姫:「えーと……」
帝:「どうした」
かぐや姫:「ここまで準備しておいて非常に言い出し辛いのですが……」
帝:「よいよい、申してみよ」
かぐや姫:「月の民は、常識外れの筋力を有します。人の世界のマッチョなど、囲炉裏の灰のようにふわっと飛ばされてしまうことでしょう。どうかお気をつけて」
翁:「なあに、これだけの人数。マッチョがいるのだ。」
帝:「そうとも。心配するな、全てオレたちに任せておけ!」
はっはっは。
かぐや姫:「……そうですね」
姫はもう諦めて手紙をしたためます。
そうこうしているうちに、夜中の12時。
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✴️ ✴️
✴️ ピカッ ✴️
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真昼の太陽みたいな光です!
翁:「うっ、眩しい」
帝:「ついに来るか……ッ!? なんだアレは」
空に見えるは人の影。
雲にも馬車にも乗ってない、飛んでもいない、徒歩で来ます!
それは天女!
超巨大な天女ッ!
身長200メートル超!!
ゴリマッチョな天女だッ!!!
翁:「……」ポカーン
帝:「……」ポカーン
マッチョ達:「「「……」」」ポカーン
火山みたいに異常発達した上腕筋、ハムストリング!
月面みたいにゴツゴツした腹筋、背筋!
爆弾みたいな大胸筋!
その筋肉に、ひらひらした羽衣を、ふわっと被せているのです!
天女が8人、どんどん近づいてきます!!
天女:「ちっちゃーい」
天女:「なにあれー」
天女:「もしかしてマッチョ?」
地上のマッチョ達はハッと正気に戻り、怒ることも忘れて
マッチョ:「な、なんだあの圧倒的バルクはー」
マッチョ:「逃げろー、あんな腹筋に、勝てるわけがない!」
マッチョ:「うわーーー、もうお前らが最強でいいよー」
褒めながら逃げてしまいます。
しかし、人とアリほどの体格差、距離は縮まる一方です。
巨大天女の羽衣が、ふわり、大地をすべると〜
ズガガガガガガガーーー
ブルドーザーより強いのです。
そして天女がふわっと着地すると〜
ドドドドドドドドーーー
震度7強の断続的な揺れが続きます。
天女:「あ、姫だー」
天女:「姫ー」
天女:「やっほー久しぶりぃー」
無邪気。汚れなき笑顔です。
かぐや姫:「ああ、ついに来てしまったのね」
天女:「はい羽衣」ポス
かぐや姫:「ウッ……」ムキムキ
無慈悲にも、ヤバそうな羽衣を装備させられてしまいました。
姫のリミッターはすっかり外れ、筋肉が肥大化してしまいます。いいえ、元に戻ったというのが正しいでしょう。
ドゴォォォォォン!!!
身長1000メートル!
超巨大天女と思っていた彼女らが、お人形さんのようです。
かぐや姫:「いえーい♪」
天女:「姫〜」
天女:「おっきくなったねー」
天女:「帰ろ」
かぐや姫:「うん。帰ってもっとでっかくなろう」
飛び上がるため、姫がつま先にチョンと力を入れると…
ドゴォォォォォ
クレーターができてしまいました。
翁:「……」ちーん
帝:「……」ちーん
悲しむひまも、ありません。
かぐや姫:「あはははは〜♪」
天女:「わはー」
天女:「きゃっきゃ」
天女:「いえーい」
こうしてかぐや姫は、宇宙空間を生身で突っ切り月へと帰って行きましたとさ。
めでたし めでたし