間違えて女神を「お母さん」と呼んでしまったサラリーマンは、穴があったら入りたい。 ~チートスキルを持たぬ勇者と蕎麦アレルギー~
道路に飛び出した猫を助けようとした俺は、G13型トラクターにひかれて死んでしまった。死ぬ間際に見た強面の眉毛が特徴的な男の無表情が、今も脳裏に焼き付きて離れない。
「ココは何処だ……」
見渡す限りの秋桜畑。風は無いのに秋桜がゆらゆらと揺れ、まるで俺にだけ心地よい風が吹いていないような寂しさを感じた。
「よくぞ参りました。勇者」
透き通るような声が聞こえ、目の前にシルクを纏った女神が現れる。頭には茨の冠を乗せ、如何にも古代ギリシャかローマ辺りの雰囲気を漂わせていた。
「……へ?」
「其方はこれより異世界を救う勇者へと転生するのです」
「へー、はー、ふーん……」
なんだ、夢か?
「チートスキルを一つ差し上げますので、転生後の役に立てて下さい」
「おいおい、一つだけかよ」
思わず夢につっこんでしまった。どうせなら巨乳ちゃんとイチャコラぶっこく夢が見たかったぜ。
「二つ以上にするとタイトルがキャッチーじゃなくなりますので」
「……?」
「いえいえ、此方の事です。あ、それと転生後に巨乳ヒロインを準備致しました。三人ほど御用意しましたので、存分にお楽しみ下さい」
「お、おぉう!?」
不穏な重低音と共に、俺の横に緑と黒が入り混じる穴が現れた。ここに入れば、その異世界とやらに行けるんだな? 夢ならば覚める前に巨乳ちゃんとベッドインしたいぜ!!
「それではチートスキルをお選び下さい」
「分かったよお母さん」
「…………」
「…………」
──シュポッ!!
「ああっ!! まだチートスキルを選んでませんよ勇者様!?」
女神を間違ってお母さんと呼んでしまった俺は、恥ずかしさで顔を覆ったまま異世界へ続く穴へと飛び込んでしまった。
そして俺は勇者として転生し、王様に「チートスキルを持たぬ貴様は追放じゃ!」と追い出され、尋常じゃない巨乳幼馴染みは「私はずっと一緒だよ!」と俺に着いてきてくれた。
そして俺は田舎へ引っ越し、幼馴染みと蕎麦屋を開いてスローライフに勤しんだ。俺の作る蕎麦は瞬く間に評判になり、魔法による出前サービスもあってか、一日に1000食以上の売り上げになり、全くスローライフじゃ無くなってしまった。
そして、気が付けば異世界を支配する大魔王は死んでいた。どうやら重度の蕎麦アレルギーだったらしい……。ついでに王様も蕎麦アレルギーで死んだ。ある意味チートスキルだな、蕎麦アレルギーって。