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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界恋愛

渡り鳥と呼ばれた私について

作者: アンリ

こちらは遥彼方様主催の「イラストから物語」企画参加作品です。

複数のイラストからインスパイアされていますが、作中では敢えてイラストを挿入していません。

企画者様のイラスト一覧を見てから読むもよし、または本作を読んでからイラスト一覧を見ていただいても面白いかと思います。

「誰か……お願い」

 一度口から零れたその一言、その願いは、一度放ったが最後止められなかった。

「助けて……」

 はじめは小さく、次第に声を張り上げながら唯一の願いをとなえ続ける。

「誰かこの子を助けて……っ」

 まだ温かな宝物を強く抱きしめ力の限り声を張り上げる。

「お願いこの子を……!」

 禍々しいほどに輝く五つの月の下、山頂から全方位に広がる森に向かって何度も叫ぶ。だがそれにこたえる者は一向に現れない。

「うっ……」

 唐突に涙があふれだした。しかしそれを止めるすべを私は知らない。救済はどこにもないし、この世界には試練しかないし、都合のいい神や奇跡の類は存在しないのだから――。

「う、うう……」

 圧倒的な孤独と絶望に貫かれ――。

「ああああ……!」

 私は声を限りに叫んだ。


 *


 図書館で借りた本を読むことが私の唯一の趣味だった。

 近所の狭い図書館にある本は手当たり次第に片っ端から読んでいた。純文学、エッセイ、ビジネス書、はては油絵の描き方や俳句の作り方といったものまで。どんな本を読むか、そこに年齢なんて関係ないと思っているし、乱読は悪ではないとも思っている。

 ファンタジーにも一時期ハマった。ライトなものからハードなものまで、アニメになったものから古典まで。ただ、それもファンタジーというジャンルが好きだから読みふけっていたわけではない。舞台装置としてのファンタジーが目新しく思えたからだ。

 けれどしばらくしたら食傷気味になった。結局、ファンタジックなシーンとは、私にとってはアメリカや中国、インドと同じようなものだと気づいたからだ。海外だけじゃない、国内もそう。秋田も滋賀も高知も群馬も、東京も、私にとっては異世界と同じだったのだ。

 そう、私は横浜で生まれ、横浜で育った。そしてそのまま横浜で息を引き取るものと思っていた。それが私の人生だと、若いながらもそう思っていたのだ。

 取り立てて、平凡。でもそれでいい。奇想天外はいらない。あっと驚くような冒険も成功もいらない。荒波のたたない穏やかな日々を過ごせればそれでいい。

 そう思っていたのだ。

 なのに――。


 *


「お待たせしました。今日の定食、タキパオの香草焼きです」

 てんこ盛りのワンプレートを置くと、男が小さく目をしばたいた。

「……ああ」

 この食堂の常連の一人であるカカシはひどく無口だ。頼むのはいつも『今日の定食』、そして皿を置くと「……ああ」とだけ言うところも。ああ、カカシという名前は私が勝手に命名したもので、心の中でそう呼んでいるだけのあだ名だ。ひょろっとしてるし、感情にとぼしいし。本名は知らない。興味もない。

「シャリー、次の二人分も出来上がったぞ!」

「はーい!」

 昼時になると手ごろな値段で腹いっぱい食べられるこの食堂は男達でごったかえす。この時間帯唯一の女給である私にとって、今は戦場みたいなものだ。

「シャリー、水をくれないか」

「はいただいま!」

 この人は、ライオン。肩まである黄金の巻き毛がいつもライオンみたいに膨らんでいるから、ライオン。カカシよりも若干若く、私よりも一回り年上と思われる。どことなく海外の某俳優に似ていなくも……ない。

「すまない。注文いいか?」

「すぐ行きます!」

 この人は、木こり。実際に木こりをしていそうだから、木こり。腰には常に斧を携帯しているし、手のひらは見るからに硬そうで、二の腕には筋肉がみっちりとついている。私にもっとも年が近そうなのはこの男、だけど親近感はわかないタイプだ。

「シャリー、料理が冷めちまうぞ!」

「はいっ!」

 この人は、オズ。お店の主人だ。私の世界を支配する人間だからオズと名付けた。父親くらいの年齢の、料理が上手で気さくな人だ。

 ただ、本当は――私はシャリーなんていう名前じゃない。

 だけど呼ばれればすぐさま空になったコップに水を注ぐ。注文をとる。料理を運ぶ。お会計をする。テーブルを拭く。床を磨く。他にも、いろいろ。

 働かなければ生きていけない、だから働いている。

 

 *


 ランチタイムを終えたらいったん家に帰るのはルーチンだ。賄いをバスケットに詰めてもらって。大食いだと勘違いさせたら常に多めに用意してくれるようになった。

 ドアをゆっくりと二回、続けて短いピッチで三回たたいてから鍵を開ける。入るや、すぐさま内側から鍵をかける。それでようやくほっと息をつくことができるのだった。

「……ママ?」

 ひょこっと向こうの壁から顔をのぞかせたのは私の唯一の宝物、凛だ。

「凛、ただいま!」

 満面の笑みを浮かべて床に膝をついて手を広げると、凛は一直線に私の胸に飛びこんできた。髪の長さが揃っていないのは昨日私が切るのに失敗したからだ。赤いゴムで結んだ前髪が頭頂部でぴょこんと揺れた。

「いい子にしてた?」

 細い髪を指ですいてやりながら訊ねると、

「うん。いい子にしてたよ。静かにしてた」

 凛は私の胸に頬をすり寄せながら答えた。縛った前髪のふさが顎の下に当たって微妙にくすぐったい。でもそれが不思議と心地いい。

「おなかすいたね。ごはんにしよっか」

「うん!」

 凛が力強くうなずくものだから、前髪のふさで鼻をぺしっと叩かれてしまった。


 タキパオと呼ばれる猪と豚の中間のような動物がこの付近に住んでいるそうで、ぶつ切りにした足を香草で焼いたものは『ここ』では『私達にとって』は御馳走だ。しかも今日は三本ももらえた。

「わあ! お肉だあ!」

 いただきますと言うや両手で掴んでかぶりつく凛を見ていたら、喜んでもらえてよかったという気持ちと、どうしてこんなことになってしまったのかといういら立ち、そして悲しみで喉の奥が鳴った。

 そう、あれは二か月前のことだった。

 夕方、保育園に凛を迎えに行き、日が暮れるのも早くなったなと思いながら電柱の並ぶ夜道を電動自転車で走っていて――上空にライト顔負けの光と強い負圧を感じたのは。

 負圧の正体は巨大な竜巻だった。

 住み慣れた街、使い慣れた道でまさかの竜巻――。

 避けることも逃げることもかなわず、私と凛は電動自転車もろとも竜巻に飲み込まれた。

 そして気づいたら――ここにいたのだ。

 横浜、いや日本どころか海外でもない、いわゆる異世界に。

「ママ。どうしたの?」

 いつからだろう、口の周りを油で光らせた凛がきょとんとした顔で私を見つめている。

「なんでもないよ。ほら、もっと食べて」

 黒パギをちぎってやりながら、あの日凛が無事でよかったとあらためて思う。

 頑丈さが売りの電動自転車は今住んでいるこの家のそばで大破した状態で見つかった。ハンドルだけが宣伝文句のとおりその形状を保っていて、月明かりの下できらりと光っていた。それを見たら「この状況はまるでオズの魔法使いのようだ」とふと思ったのだ。ほら、ドロシーが見つけたのも家の下敷きになった魔女の二本の足だったから。

 私と凛はすり傷は多少あったものの奇跡的に無事だった。理由は分からない。でも深くは考えないことにしている。そんなことを言ったらこの今の状況の方がよっぽどおかしいから。

 それから私と凛はここに暮らしている。

 あれからもう二か月が過ぎようとしている。

 私のことはこの街に流れ着いた異国の女だと誰もが思っている……はずだ。街外れの誰も住んでいなかったぼろ家に勝手に住み着いた頭の悪い女、そう思っていることだろう。言葉は概ね理解できるが、この国、この世界の常識にうとい女だと。

 凛のことは――まだ誰にも打ち明けていない。

 この世界では孤児も売春も珍しくない。まだ五歳、ではなく、五歳だからこそ危険だと思っている。

 今の私の最優先事項は凛であり、護りたいと思えるものは凛だけだった。凛のためだけにこのおぞましい世界で生きていると言っても過言ではなかった。


 *


 夕方になるとまた食堂へと出向く。闘いは一日に二回、昼と夜に行われるのだ。

 夜ともなると食事と酒が半々の割合で供されるから昼以上に忙しい。けれど私は早出担当なのでまだ楽だ。夜は私のほかに二人の女給が入る。最初から最後までいるのは十八歳のチェタ、私と交代で遅番で入るのは二十二歳のムアだ。

「あの人、今日も一番に来たね」

 チェタが私にこっそりと耳打ちをする。その視線の先には木こりがいた。相変わらず能面のような顔をしている。でも木こりが頼むのは乳酒とリヨ豆の炒ったもの、それにパギの串焼きと決まっている。

「はいどうぞ!」

 最初の頃は木こりがメニュー表で指さすまで待っていたけれど、今では席に着くや木こりのためのセットを出してしまうことにしている。いつも同じものを頼むから、ある時「いつものでいいんですよね?」と訊ねたらやや驚いた顔でうなずかれたのだ。「それでいい」と。食に執着のない人、らしい。

「……ありが、とう」

「おーい、チャスクをくれ!」

 かすれた木こりの声にかぶせるように大声を出したのはライオンだ。目が合ったのでうなずくと、ライオンがさらに何か話しかけてこようとした。だがその時、タイミングよく店にカカシが入ってきた。そのカカシとも目が合った。

 そう、幾多いる常連のうち三人の男に特別なあだ名、オズの魔法使いにちなんだ名前を付けているのは、この三人が昼夜必ずこの店にやって来るからだった。カカシは一週間前から、ライオンはひと月前から、木こりなんて私がここで働きだした三日後にはいた。

「注文、またあとで伺いにきますね」

 まだ決まっていないだろうことは分かっているから、カカシには声だけ掛けて厨房近くへと戻ってしまう。そこにチェタも戻ってきて、注文をオズに伝えた後に私に意味深な笑みを向けてきた。

「あの三人、絶対シャリーのことが好きだよね」

 どの三人のことを言っているのか、今更訊ねる必要はない。

「そんなことないですよ」

「でもあの三人、シャリーのことばかり見ているし、シャリーにしか注文とらせないじゃない」

「そんなことないですって」

 謙遜しつつも内心嬉しかったりする。……そんなわけ、ない。異世界といえば恋愛などという短絡的な思考になる人間ばかりではないのだと、誰とは言わないけれど強く訴えたい。

 恋愛をするためには必要条件というものがあると私は思っている。けれどこの世界にはそんなものは一切ない。だからあの三人にはあまり近づきたくないとすら思っていた。

 だけどチェタは恋こそ至上のものと思っていて、絶対にあの三人の料理を運ぼうとしない。私がやるべきだと本気で思っている。

「ほい、チャスクお待ち!」

 オズが陶器製のコップを置いてみせても、案の定チェタは知らん顔だ。内心ため息をつきながらも私はそれをライオンの元へ運んだ。

「おお、これこれ!」

 ライオンはチャスクが好物で、店にいる間はこればっかりを水のようにしこたま飲む。そして料理はほとんどとらない。ライオンの前に置いた大ぶりのコップは、置いたと思ったらすぐに宙に浮き――ごくごくと喉を鳴らして一気に干された。

「ぷはーっ。仕事終わりの一杯は最高だ!」

 今夜のライオンはいつも以上に絶好調なようだ。羽振りのいい仕事をしているであろうことは、ライオンが身に着ける三つの指輪と二本の腕輪、それに上等そうな服からも察せられている。午後、何かいい商談でも成立したのだろうか。……興味はないけど。

「もう一杯くれないか」

 うなずき、去ろうとしたところでライオンがやや言いにくそうに話しかけてきた。

「怪我、大丈夫か?」

「あ、ああ。平気……です」

 立ててみせた指先には一センチくらいの小さな切り傷がある。昨日、ライオンが落としたコップを片付けていて切ってしまったのだ。……うん、昨日はちょっと驚いた。床に座り込み血のにじみ出た指をしばし見つめていたら、なぜかライオンも床に膝をついていて、視線が同じ高さにあって――目が合った瞬間、心臓が跳ねた。もちろん、悪い意味で。

 さらに口を開きかけたライオンに自然と足が後ろに動きかけた――その時。

「こっちの注文をお願いしたい」

 天の助け、カカシに声を掛けられた。

「はいただいま!」

 待たせてしまっているから――いや、ライオンから逃げるために小走りに近づく。カカシは三人の男の中で唯一頼むものが毎回違う。メニュー表をじっくりと眺め、うんうん考え、それから私に声を掛けてくる。

「ヌパタの塩焼きをくれないか」

「それと水、ですね」

「あ? ああ」

 カカシは夕食時はあまり食べない。そして酒は一切飲まない。そんなに細い体なのだから栄養が足りていないのではないか、とたまに気になる。……たまに、だけど。

「……よく客のことを見ているんだな」

「え?」

 初めて注文以外のことで声を掛けられ、変な声が出た。だがカカシは目が合うやライオンと違って自分から視線を逸らしてくれた。「なんでもない」とつぶやきながら。

 それから他の客もどんどん入ったが、木こりは最初に頼んだ乳酒をちびちびと飲み続け、ライオンはチャスクをどんどん飲み、カカシはヌパタと呼ばれる赤い魚をちまちまとつついていた。それもいつものことだ。そして三人が時折私に意味ありげな視線を送ってくることも。

「ではお先に失礼します」

 二時間きっかり働いて、店を出る。

「お疲れ。はいこれ」

 忙しい時間帯でもオズは必ず私に賄いを用意してくれる。それを私はバスケットに詰め、店を後にする。去り際に三人の視線を感じるものもいつものこと、だけど絶対に振り返らない。視線も合わせない。ほんと恋愛感情なんて迷惑だ。様々なことが違う世界でも恋心は等しく存在するだなんて、ちょっとおかしくないか?

 夜道を小走りで駆ける。街外れの方は女が一人で出歩くにはやや危険なのだ。いや、それだけではない。労働を終えてくたびれた体を叱咤してでも走るのは、一人家に待つ凛のことが心配でならないから。

「ただいま……!」

 息を切らせて家に飛び込む私に「おかえり」と飛びついてくる凛の温もりに一日の疲れのすべてが浄化されていく。

「はああ……」

 上向きに結んだ前髪がぴょこぴょこと揺れて、本当にかわいい。この世界で一番かわいい。

「ママどうしたの?」

「ううん。凛のことが大好きだなってあらためて思っただけ」

「わたしもママのこと大好きだよ」

 たまらずぎゅっと凛のことを抱きしめると「苦しいよママ」と言われて慌てて離れた。

「ごめんごめん。じゃ、夕食にしよっか」

「わーい。今日は何をもらってきたの?」

「それはね……」

 わきあいあいと夕食をとる。この世界でもこうして安らかな時間を持つことができていることには誰にともなく感謝したくなる。この世界も最悪ばかりじゃない。まだ大丈夫って思える。そう、まだ大丈夫。まだ大丈夫。私はここでもちゃんとやっていける。

 夕食後は水で体を拭いて簡素なベッドに入る。ランタンの類は買えていないし他にやることもないから、ベッドの中で私が寝物語をするのが習慣になっている。

「昔々あるところにうさぎさんとくまさんがいました」

 温かな体をくっつけ合って、頬と頬が触れ合う距離で、昼間考えておいたオリジナルの物語を紡いでいくこの時間は至福だ。

「うさたんとくまたんだね! ね、名前はうさたんとくまたんにしていい?」

「いいよ。でね、そのうさたんがね……」

 窓から差し込む月光だけが頼りの薄明るい部屋で、凛は笑ったり真顔になったりといそがしい。けれど長くても一時間後にはすやすやと眠りについている。

 あどけない寝顔を見つめながら、思う。また明日も変わり映えのしない非日常が繰り返されることになるんだな、と。そしてそれは一生続くのだ。

 そして無垢な凛を見つめていると、微笑みと悲しみという両極端な感情で胸が締め付けられるのは毎夜のことだった。

「……ごめんね。こんなところに連れてきちゃって」

 もしもあの日、あの夜あの道を通らなければ。そしたらこんなことにはならなかったのに……。

 毎日長い時間を一人でこの家にいるというのに凛は文句ひとつ言わない。本当はそんないい子じゃなかったのだ。『あっち』ではどこにでもいるごく普通の女の子で、聞きわけがなかったり、いたずらしたり、嫌いなものは嫌いとはっきり口にできていたのだ。なのに。

「ごめんね……」

 もしも過去に戻れたら、絶対に凛を連れてこないのに。

 たとえ寂しくても、絶対にこっちに連れてこないのに――。


 *

 

 次の日、いつもよりも早く目が覚めたのは防衛本能のなせる業だったのかもしれない。

 暗がりの中、音を立てないように起き上がり――外に人がいる気配を感じたその瞬間、身が凍るほどに縮んだ。確かにここは街の外れで、いつ狼藉者の類に襲撃されてもおかしくはないのだが、実際に第三者の気配を感じたのは初めてのことでひどく動転した。

 それでも勇気を出して外を伺う。窓枠と玻璃の隙間から覗くと、なんとそこには木こりがいた。そう、食堂の常連の一人、木こりがいたのである。中背ながらも筋肉質な体つき、腰に下げた斧の造形、そして短く刈り上げられた赤い髪――ファンタジックなこの世界においてもひときわ目立つ炎のごとき髪は、木こり以外の何者でもない。

(この家の場所を知られた?)

 とっさにその場に座って体を隠す。

(ストーカー?)

 だからその夜、店を出た途端ライオンに声を掛けられた時には強い恐怖を覚えた。客に店の外で声を掛けられたのも、こうやって待ち伏せをされたのも初めてのことだったからだ。

「今から帰るのか?」

「……は、はい」

 今夜はチャスクを一杯ひっかけただけで帰ったから珍しいこともあるものだと思っていたのだが。

(まさかあれからずっと外で待ってたの?)

 実は今日は昼も夜も木こりは店に現れなかった。だから一人になった瞬間に木こりが迫ってくるのではないかと思い、いったんそう思うとそれは真実になると思い込んでいたのだ。だが実際に私を待っていたのはライオンだったというわけだ。

 距離をとり様子を伺う私を気にすることなく、ライオンが気安い態度で近づいてくる。

「だったら途中まで一緒に行こう。俺もあっちに用事があるんだ」

 嫌だ――そう言ってぴしゃりと断れるものならそうしたい。だが客相手にそれはできない。それにライオンの逆鱗に触れたら女の私に抵抗しきれるかどうか。この世界はそういう世界だ。だから穏便に断りたい。……なのに。

「女一人じゃ危ないからな」

 ライオンは私の隣に立つと小さくウインクをしてみせた。いかにも善良めいた表情で。あなた自身が危険なんです――そう言ったらこの人は激昂するだろうか。

 きらめく星空の下をライオンと歩き出す。自然に満ちた、いや自然しかないこの界隈では、夜になると月や星が眩しいほどに光り輝く。この世界にも月と星があることに宇宙の神秘を感じる。ただし月は五つあるし、星は三倍ほど大きく見えるが。代わりに太陽はゴマ粒みたいな大きさだ。

 砂利道で鳴る二人の足音以外、鳥獣の類の音も一切聴こえない。とても――とても静かだ。その静けさが嵐の前の前兆のように思えてしまうのはどうしてだろう。

 三歩前を歩くライオンは、ライオンと名付けただけあって背が高く体格も大きい。肩まである金の巻き毛が月光を受けてきらきらと光ってきれいだ。常連客三人の中でもっとも美形なのはこの男だ。自信に裏打ちされた華やかな雰囲気も、笑みを絶やさない彫りの深い顔も、異なる世界出身の私ですら美しいと思う。

 これでライオンが王子様や貴族だったら本物のテンプレだ。そう思ったら一人苦笑していた。取り立てて目立たないヒロインが異世界に飛ばされてライオンのような男性に好かれて相思相愛になる――そんなテンプレめいた結末をハッピーエンドと謳う本を何冊か読んだことがある。……けれど私はライオンの正体を知っている。

 頭の後ろで両手を組み、上機嫌に鼻歌を歌うライオンの後ろから「あの」と声を掛けた。

「どうして私の家がこっちだって知ってるんですか?」

 やや声が硬くなってしまったせいか、ライオンの鼻歌と足がぴたりと止まった。

「あ? ああ。それは」

 振り返ったライオンの表情が月光を背にしているせいで陰って見えて、それが私の胸にすくう恐怖を刺激した。

 その黄金色の瞳と目が合った瞬間、勢いよく喋っていた。

「知ってます。あなたはチャルドル商会の御子息……なんですよね?」

 それは今日、チェタから教えてもらった情報だった。そう、今朝家の近くで木こりを目撃し、今更になって私の様子を伺う常連客三人のことが怖くなり――彼らの素性を知りたくなったのである。チェタは「わ、興味が出てきたんだね」と店が開くまでのわずかな時間を使って嬉々として教えてくれた。

 知って――後悔した。

 知らなければよかった。

「私が娼館から逃げたから、だから連れ戻しに来たんですか?」

 ライオンが口を開きかけた。だがそれよりも先に言う。

「それとも逃げた事実を盾に私を脅す気ですか?」

 そう、私がこの世界で最初に職を求めて頼ったのはこの街一番の商会、チャルドル商会で、「お前に向いている店はここだけだ」と連れていかれた先は娼館だったのである。

 それもそうだ。この国の言葉を完全に理解しておらず、少しは料理はできるがこの国のメニューは一切知らず、裁縫もできなくはないがこの国の製品には疎く――となれば私にはこの体一つしか金になるものがなかったのだ。

 そこが娼館だと知った瞬間、納得がいった。絶望はしなかった。当然の流れだとすら思った。これこそが本当のテンプレだと。けれどいざ店に入り服を脱いでみせるよう言われたところで――頭が真っ白になり、気づけば店を飛び出していた。懐にけっこうな前金を入れたままで。

 その後、今の食堂で働けることになったのは本当に運がよかった。

 それからは食堂と家を往復する日々だったから、商会や娼館のある界隈とは一切関係を持たずにいたのだけれど――どうやらあの日のことをなかったことにはできないらしい。そう物事は自分の都合よく進まないということだろう。

 ライオンは私に恋をしていない。それも今更ながら知ったことだ。私に向けていた視線は恋ゆえのものではなく逃亡者であり金づるを監視するものだったのだ。

「お金はすぐ返しますから……だからゆるしてください」

「いや。そういうことじゃなくてな」

 ライオンが参ったといった仕草で頭をかいた。それを見て「ああ、やっぱり」と思った。この人にとってあの金を取り返すことは目的ではないのだ。

「……私に選ばせてくれませんか」

 目をしばたいたライオンに間髪入れずに言う。

「今住んでいる家に住み続けられれば、それ以外のことについてはできるだけあなたの言うとおりにします。決して逃げないと誓います。誓いますから、だからあの家から連れ出すのだけはやめてください。お願い、します……」

 ライオンはしばらく口を開けたままでいたが、結局何も言わずに唇を結んだ。そして私をじっと見つめた。おそらく私をどう扱うかその頭の中で算段しているのだろう。どちらが得か、得ではないか。商人とはそういう存在であるべきだ。

「分かった」

 答えが出たようだ。

「では私はいつ娼館に赴けばいいんでしょうか」

「娼館には来なくていい。それに金は返さなくていい」

 と、いうことは?

 少し考えたらライオンの意図は読めた。なるほど、私に対して少しは恋心というものがあるのかもしれない。もしくは単なる好奇心だ。いずれにせよ娼館で働くよりもこの男一人を相手にするほうがまだましだ。となると逢引き宿のようなところに行くことになるだろうか。……うん、不特定多数を相手にするよりもよっぽどいい。

 そんな五十歩百歩でしかない優劣をつけて自分自身を慰めていると、ライオンが想定外の提案をしてきた。

「俺が行く。俺が明日お前の家に行く」

「……それは困ります! 家じゃなくて外にしてもらえませんか」

 しかしライオンは一歩も引かなかった。

「明日、タミの刻にお前の家に行く。待っていてくれ。いいな」

 それだけ言うとあとはもう何ら発することなく、ライオンは私を家まで送った。別れた直後、気づいた。ライオンに家の場所を完全に知られてしまったことに。あの商会を訊ねた時には住まいについて言葉半分に濁したけれど、これで我が家にライオンを迎えなくてはいけなくなってしまったことに。


 *


『タミの刻』とは日本でいうところの午後三時ぐらいのことだ。

 食堂での昼の勤めが終わって家に着くのが午後一時半頃で、夜の勤めのために家を出るのが午後五時頃だから、その間に私を抱きたいということなのだろう。この流れでお茶をしに来るだけだと思うほど、私は能天気でも楽観主義でもない。

 次の日、早朝に家の周りをまた木こりがうろついていた。畳み掛けるようにやって来た不幸の連続に想いを馳せると胃がしくしくと痛んだ。朝食時に凛に「ママ大丈夫?」と心配され、「大丈夫」と笑って答えたが、正直うまく笑えた自信はない。

 もしも誰の人生にも幸福と不幸が平等に振り分けられているならば――現実世界でもっとたくさんの不幸を味わっておくべきだったのかもしれない。だが今更どうしようもない。過去は変えられないのだから。


 その日はランチタイムの終盤、店にはカカシの姿しかなかった。

 カカシはいつものように今日の定食を黙々と口に運んでいる。

 今日は木こりもライオンも来ていない。……姿が見えないということがこれほど怖いことだとは思ってもいなかった。

 痛む胃を押さえながら自然と深いため息が漏れた。

 あまり考えないようにしていた現実世界につい思いを馳せる。私には六つ年上の姉がいた。高校卒業とともに初恋相手と結婚するという、幸せを凝縮したような人生を歩んできた姉が。姉は結婚後ほどなくして可愛らしい女の子を産んだ。

 あの姉に比べれば私は十分不幸だったと思う。高校受験に失敗しているし、ずっと片想いをしていた相手とは結局結ばれることはなかった……。

 いや、もう戻れない世界のことを考えても仕方がない。私はあと数時間もしたらライオンに捕らわれるのだから。……そう、好きでもない人と。

(ああもう、このくらい当然だって割り切らなくちゃダメなのに)

 頭をぶんぶんと振る。

 この世界にやってきて異世界で暮らしていかなければならないことを悟った瞬間、いや悟らざるを得なくなった瞬間――私は凛のためなら何でもすると自分に誓った。その一つにはこういったことも含まれている。二十一世紀の地球上でもそういう国はいくつもあることを踏まえれば、文明がざっと千年は遅れているこの世界に『それ』があるのは当たり前だ。

 けれど――今度こそは避けられないと思うと重い感情に飲み込まれてしまう。

 まだ覚悟が足りていなかったのかもしれない。

「……どうしたんだ?」

「……え?」

 はっと顔をあげると、いつの間にか目の前にカカシが立っていた。

「ああ、すみません。お会計ですね」

「違う。どうしたのかと訊いている」

 長い前髪の奥から意外なほど強い目で見つめられていることに気づき、私はとっさに両腕を抱きしめて視線を落とした。

「……なんでもありません」

 カカシの視線は木こりとライオンのことを連想させる。だから――恐いと思ってしまう。ああもう、誰もがそういうことしか考えていないなんて、ここはなんてひどい世界なんだろう。

(……ああそうか)

(……私がいた世界は相対的に見ればどの世界よりも幸福が詰まった世界だったんだ)

 そう思ったら泣きたいほど悲しくなった。だからこうなったのも仕方がないんだ、と。

「ほんとに何でもありませんから」

 仕方のないことに抵抗することは……無意味だ。

「お会計、お願いします」

 カカシはためらいながらも貨幣三枚を取り出した。だが手のひらに貨幣を落とした瞬間――カカシが私の手首を強く掴んだ。

「僕と一緒に来ないか?」

「……え?」

「悪いようにはしない。信じてくれ」

 さらに手に力を込められた。

「いたっ……!」

 思わず声をあげると、カカシは正気を取り戻したのか、ぱっと手を離した。

「……すまないっ」

 腕で覆った顔はやや青ざめていた。

「そんなつもりじゃなかったんだ……っ」

 だがそれ以上は言葉にならないようだ。私の責める視線に耐えきれなかったのか、カカシは逃げるように店を出て行った。

「どうした?」

 放心していたのだろう、厨房に引っ込んでいたオズが心配そうに私の様子を伺ってきた。

「あの客に何かされたのか?」

 ちなみにカカシは首都から派遣された学者様なのだそうだ。チェタいわく、都会から地方にやって来る男は遊べる女を常に物色しているとか。

「なんでもありません。……ああ、いえ」

 一度は誤魔化そうとしたが、掴まれた手首はじんじんと痛みを帯びている。

 私は衝動的に言っていた。

「唐突ですみません。これを限りにここでの仕事を辞めさせてください」

 私にだって――嫌なことは嫌だと言わせてほしい。

 本当に嫌なことは嫌だと、言わせてほしい。

 そう思った。

 そう思って――しまった。


 *


 帰宅するなり「ここを出るよ」と宣言した私に凛はあっけにとられた。ざんばらな前髪が凛の丸く見開いた瞳の上でゆらゆらと揺れた。

「ゴム、どうしたの?」

「……ゆるくてほどけちゃったの」

 すまなそうに凛がうつむくものだから、視線を合わせてにっこり笑ってみせた。

「いいのいいの。縛り直せばいいんだから」

 そうは言っても毎日使っている赤いゴムは段々伸びてきていて、そろそろ限界だ。でもリボンや紐の類だと子供の細くて少ない髪をうまく結べなくて――。

 でもこれからはゴムなしでも結べるようにならなくちゃいけない。そういうことの積み重ねが子供を育てるってことだから。

「はい、できた」

「ありがとう!」

「じゃあママ、準備するからこれ食べてちょっと待っててね」

 賄い食の入ったバスケットを手渡し、さっそく荷造りを開始する。私自身は空腹を感じている余裕はない。……もうこうするしかないのだから。

 あと一時間ほどでライオンがここにやって来る。本当はひとまず凛にはどこかに隠れてもらって、私はその恐ろしい初の体験を我慢しようと決めていた。……ついさっきまでは。

 だけどその後は――どうする?

 確かに娼館で働くはめにならなくてよかった。しかしライオンからの要求はいつまで続くか分からない。私に飽きたら――その後は?

 そしていつかは凛の存在に気づかれるだろう。同じ屋根の下にいるのだからバレないわけがない。チャルドル商会は娼館だけではなく、いわゆる人身売買全般も手掛けている。もしも凛を他人に奪われるようなことがあったら――私は生きてはいけないだろう。

 危険人物はライオンだけではない。我が家の周囲を徘徊する木こりがいつ暴走するかも分からない。若く強靭な木こりに抵抗する手段はライオン以上に皆無だ。しかも木こりはこの街の自警団の一員だという。少なくともこの街では自警団員は尊敬され、かつ恐れられる存在だから誰も歯向かったりはしないそうだ。

 そして、カカシ。朴訥としたカカシは一見無害そうだが、今日店で向けられた視線も、行動も、狂人めいていて恐怖しかなかった。頭のいい人間の垣間見せる狂気は理解の範疇を超えている――。

 荷造りといっても、ため込んできた日持ちのする食料と筒に入れた水、それにわずかな給金で得た衣服の類だけだ。私はそれらを風呂敷のような大きな布で包み、肩にくくりつけると、今だ状況を理解していない凛の手を引いて、もう一方の手にバスケットを持ち、住み慣れた家を出た。

 郷愁めいた気持ちになるのが怖くて、後悔したくなくて、一度も振り返ることはしなかった。


 *


 街には、行けない。

 となると向かう先はその反対、森の中以外にはない。

 この世界にやってきた当初、喉の渇きと空腹を訴える凛のために私は一度だけこの森に入ったことがある。景色を一望すれば街のある方向は一目瞭然だったが、そちらに向かう勇気は当時はなかったのだ。だからまずは人のいない方向へ、ひとまずの食べ物と飲み物を求めて足を踏み入れたのである。

 凛を家に置いていくのは不安だったから、今と同じように手を引いて森の入口付近をうろうろとさ迷ったことを思い出す。森の奥に入ってしまって二度と戻れなくなるような事態は避けたかったから。この世界にやってきて何が一番幸運だったかというと、住むことのできる空き家をすぐに確保できたことだ。気づいたらすぐそこにあの家があった。こんな幸運は二度とない。だから家から離れないように慎重になったというわけだ。

(……でもあの時は結局酸っぱい実しか見つけられなかったんだよね)

 水については湧き水の類すら見つけられなかった。

 だからその日、歩き疲れて眠った凛を家に置くと、私はとうとう街へと足を踏み入れた。そこで私はこの世界の言葉をそれなりに理解できることを知った。地元民でなくても望めば仕事を得られることも知った。職のあっせんならばチャルドル商会がこの界隈では一番有名だということは、人の好さそうな女性が親切に教えてくれた。

 ざくざくと落ち葉を踏みしめながら、森の奥へと分け入っていく。

 歩くたびに街を訪れた日のことを思い出していく。

 チャルドル商会を訊ねて。連れて行かれた先が娼館で。娼館から逃亡した直後、公衆の井戸を見つけて歓喜して。お腹いっぱい水を飲んで。それから凛にこの水を持って行こうと思って。でも水筒の類も何も持っていなくて――懐に入ったままの貨幣にその瞬間、気づいて。言葉にならない感情が押し寄せてきて……。

 オズに声を掛けられたのは、そんな時だ。

 とぼとぼと道を歩いていたら「辛気臭い顔をしてるな。余ってるのでよければ飯食ってけよ」と気安く声を掛けてくれたのだ。

(それから食堂で働かせてもらえることになって……すごく嬉しかったな)

『あちら』でもバイト含めて一度も働いたこともない私にとって、女給として働く日々はかなりのプレッシャーだった。文字は読めないし、メニューどころか食材も見知らぬものばかりだったし、いかにも異世界人、非地球人に囲まれて働く時間は常に緊張を強いられた。家に置いてきた凛のことが心配で心は一時も休まらなかった。

 けれどオズは根気よく私を育ててくれた。オズが私を女として求めてきても断れないほどに。しかしオズはそういった素振りを見せることはなかった。いや、このまま働けばいつかはそうなっていたのかもしれない。その前にあの三人が――ライオンが、木こりが、カカシが行動を起こしただけで。

「ねえママ」

 ずっと黙っていた凛が不安げに問いかけてきた。

「どこに行くの? わたし家に帰りたいよ」

 私は足を止めると凛の前に膝をついて視線を合わせた。

「あの家は凛の本当の家じゃないのよ。凛の家は横浜にあるんだから」

「ママ?」

「……凛のパパとママも、おじいちゃんもおばあちゃんも、本当の家で凛のことを待ってるんだから」

「ママ、何言ってるの?」

 凛は真実分からないようだ。

 そう――この子はこの世界に来たときから私をママと勘違いしている。

 本当のママは私の姉だ。六歳年上の姉だ。

 この世界に飛ばされたあの日、私は仕事が終わらないと嘆く姉の代わりにしぶしぶ保育園に凛を迎えに行った。義兄は出張で不在だったこともあって。

 だから本来、この世界にやって来たのは私ではなく姉だったはずだ。私は今でも高校に通っていたはずだ。両親に大事にされつつ、二か月後に迫る受験を控えて、いやだいやだと言いながら勉強に励んでいたはずなのだ……。

 胸の内にわき出したどろどろとしたものにはっとした。

「ううん、いいの」

 かぶりを振って立ち上がる。このままでは姉と凛を憎んでしまいそうだ――そう思うことはたびたびあって、その都度私は頭を空っぽにするようにしていた。

 もしかしたら私が凛をこの世界に連れてきてしまったかもしれない――その思いも芽生えるたびに蓋をする。この世界に飛ばされた元凶は私にあって、凛は巻き添えをくらっただけかもしれない――と。ああもう、考えたくない。今頃姉や義兄は私のことを恨んでいるだろうか――。ああもう、何も考えたくない。私が悪ければいいんだし、私が頑張ればいいのだから。

 また凛の手を引いて歩き始める。

 しばらくして、ようやく話を再開することができた。

「凛のことはママが護るからね」

 たとえ凛が『あちら』のことを忘れてしまっていても。

 本当の母親のことを忘れ、私のことをママだと勘違いしていても。

「ママが凛のことを絶対に護るから」

 いつか――いつか『あちら』に戻ることができたら私は姉と義兄にゆるしてもらえるだろうか。まだ高校生なのに凛のことを護ってくれてありがとうと感謝してくれるだろうか。よく戻ってきてくれたねと抱きしめてもらえるだろうか――。

 気づけば辺りは随分暗くなってきた。木々は一層生い茂り、わずかな陽光すら差し込むのをゆるさないと言わんばかりだ。その木々も幹の直径は一メートルを遥かに超えているし、葉はすべて黄土色でどれも人間の顔よりも大きい。

「ママ、ママ」

「うん。もうちょっと頑張ろうね」

「ママ、足が痛いよ」

 ぐずる凛を背中におぶってまた歩き出す。五歳の体は軽いようで、重い。枝や石といったものに足をとられバランスを崩すと、その重みのほどが身にしみた。

「お話、してあげようね」

 息を切らしながらも笑みを浮かべて振り返ると、凛は現金に喜んでくれた。

「やったあ!」

 その無邪気さがなぜか涙腺を刺激した。

「じゃあうさたんとくまたんの話の続きをして!」

「うん。いいよ」

 こっそりと鼻をすすり、やや大きめに呼吸をして気持ちを切り替える。

「昔々あるところにうさぎさんとくまさんがいました」

「もうそれは知ってる。昨日は寂しがり屋のうさたんがくまたんをお茶に誘ったんでしょ? その後は?」

「はいはい。うさたんはね……」


 *


「それでうさたんはとってもおいしいクッキーを焼いたの。でね……凛?」

 いつからだろう、凛は眠ってしまっていた。ずっと家に引きこもっていたのに急に歩かせたから疲れてしまったのかもしれない。さっきから凛の体が余計に重く感じられるようになっていたのはそのせいか。

 足元をうさぎによく似た黒毛の小動物が駆けていった。長くも短くもない耳は左右に二本ずつあり、凛の縛った前髪のようにひょこひょこと軽快に揺れていた。

 あらためて凛を背負い直す。この重みこそが私に課せられた責務なのだと気持ちをあらためる。そして、歩く。とにかく歩く。ずっと履いているスニーカーはいい加減限界にきているが歩き続ける。ゴマ粒サイズの太陽が沈み、木々に覆われていることもあって一メートル先ですら目視しきれない暗闇に包まれても、私はひたすら歩き続けた。

 想像すらしたことのない奇怪な生き物を時折見かけても、嫌な臭いを発する沼でぎらつく花々が水をすする場面に遭遇しても――心を無にして歩き続けた。ほらあそこには曼殊沙華を思わせる花が一面に咲いている。でもその上を飛んでいくのは体長三メートルを超える蝶で……うん、もう分かってる。ここが地球ではないってことくらい。

 やがて平坦だった道は次第に傾斜を帯び、これに私は歓喜した。このまま進めば家の裏手の山を越えられる。……ようやくあの三人の男から解放される。

 足の裏が痛くなっても、凛の体を支える両腕がきつくなっても、私はとにかく歩き続けた。この道を歩ききった先にはきっと希望があるはず――そう信じて。


 どんな話にも結末があり、どんな道にもゴールはある。

 深い森を突き抜け、どんどん急峻になる山道を踏破し、私はとうとう山頂にたどり着いた。鬱屈した木々を抜ければ、見慣れた五つの月があちらこちらから私を見下ろしていた。

 だがてっぺんに立ち辺りを見回した瞬間、私をここまで突き動かした気力が完全に掻き消えた。そしてその場にへたり込んでいた。

「嘘、でしょ……?」

 全方位、三百六十度。私が逃げてきた街を除けば、そこには森しか存在しなかったのである。

 海も湖も平地も、何もない。ただただ木々が密集している。それだけだ。灯りの類も見つけられない。夜でこれならば人が住む場所はこの辺り一帯にあの街しかないということだ。

「……はは、ははは」

 冷たい地面に座り込んだら乾いた笑いが出てきた。

 もうこうなったらあの街に戻るしか……ない。こんな寒い場所を歩き続けたら数日もせずに死んでしまう。私はまだいい。だが凛には……無理だ。危険な生物に襲われる可能性だってある。

(だったら三人の男のいずれかに寄生することを考えるべき――?)

 もう他に方法は、ない。

 うまく手なずけて、凛のことを認めさせることができる人は誰だろう。胡坐をかいた上に眠ったままの凛を向かい合わせで座らせ、私に寄り掛からせる。吐く息は白くないがひどく寒い。だから抱きしめた凛の体の温かさが気持ちよかった。

 月明かりの下、なんとはなしに凛の小さな頭をなでながら私は考え続けた。

(ライオンは……一番危険。人が好さそうだけれど信用できない。凛を大事にしてくれるとはどうしても思えない)

 この小さな温もりをこそ、私は護らなくてはならない。

(木こりは……まだ信用できそうだ。だけどストーカー気質のある人を本当に信用できる? それにいざという時に木こりから凛を護ることができるとは到底思えない)

(だったらカカシ……? でもカカシは得体が知れない。恵まれた場所で育ち恵まれた職に就くカカシは常識人だろうから、凛のことを邪見にする日がいつか来そうだ。ううん、最初から受け入れないに決まってる)

(……だったらどうすればいい? やっぱりこのまま逃げる?)

 両腕で凛のことを抱きしめながらぐるぐると考え続けていたら――気づいた。

「……凛? 凛っ?」

 息を――していない。

「え? え? どうして? なんで?」

 瞼をつむったままの凛をあわてて体から離して眺める。と、その勢いのままに凛の体が背後へと倒れかけた。

「凛? 起きて凛っ!」

 とっさに支え、体を乱暴にゆする。でも凛は成されるがままだ。まるで魔法にかけられたかのように深い眠りについている。……いや、違う。これは眠ってるんじゃなくて……。

「……凛っ! 起きて! 起きて凛っ!」

 死――その忌まわしき単語が頭に浮かんだ瞬間、私は半狂乱になって凛をかき抱いた。

「凛! 凛! 目を覚まして!」

 頬をぺちぺちと叩く。

「だめだよ凛! 起きて!」

 だが凛には私の声は聞こえていないようだ。いや、実際に聞こえていないのだ。温もりが……あんなにも温かかった凛の温もりが心なしか低下している。まつ毛は持ちあがるどころか震えることもしないし、唇はうっすら開いているけれど動かない。……呼吸すらしていない。

「誰か……お願い」

 一度口から零れたその一言、その願いは、一度放ったが最後止められなかった。

「助けて……」

 はじめは小さく、次第に声を張り上げていた。

「誰かこの子を、この子を助けて……っ」

 腕の中のまだ温かな宝物を強く抱きしめ――力の限り声を張り上げていた。

 本当はずっと前からこう言いたかった。この世界に来た瞬間から、誰かに向かって助けを乞いたかった。けれどその誰かはどこにもいなくて。だから私が凛を護らなくちゃいけなくて。……弱音を吐くことなんてできなかった。強くならなくちゃいけなかった。両親に護られていた高校生の自分は捨て、凛を護る唯一の人間、大人にならなくちゃいけなかった。

「誰か……っ」

「助けて……!」

「せめてこの子だけでも……!」

 何度も、何度も叫ぶ。助けてと。誰か助けてと。だがそれにこたえる者は一向に現れない。……誰一人現れない。やっぱり誰もいないのだ。私達を救ってくれる人なんて。

「うっ……」

 唐突に涙があふれだした。それはこの世界に来て初めての涙だった。しかしそれを止めるすべを私は知らなかった。だって、救済はどこにもないから。この世界には試練しかないから。都合のいい神や奇跡の類は存在しないから――。

「う、うう……」

 圧倒的な孤独と絶望に貫かれ――。

 私は声を限りに叫んだ。


 ****


「君は釈放だそうだ」

 どうして、と言わんばかりにこちらを見つめてくる若者に、学者はさらに言った。

「それとあの渡り鳥はギヤ山の頂で発見されたそうだ」

 それを聞いた瞬間、警備団所属の若者は呆然とし、やがて頭を抱えた。

「どうしてこんなことに……! 俺はただあの二人を助けたかったんだ、なのに……!」

「そう自分を責めない方がいい。仕方がなかったんだ」

 今、二人は古びた机を挟んで向かい合って座っている。一方は罪人として、もう一方は面会者として。若者の目は睡眠不足と興奮、それと強い怒りと悔恨とで血走っている。その目が学者をぐっと睨みつけた。

「あなたは渡り鳥について詳しいんだろう? だったらどうしてあの二人のことを救えなかったんだ!」

 渡り鳥――それはこの世界に時折現れる異世界人のことを指す。

 突如鳥のようにどこからか飛んでくるから、渡り鳥。

 そして渡り鳥はこの世界では忌むべきものとされていた。

「渡り鳥とはそういうものなんだ。軌道も周期も異なる五つの月が一つに重なる時、この国のどこかに現れる……ただしその身に災厄をともなって、な」

 その日、その夜。国内各所に通達がなされていたとおり、この街の片隅に渡り鳥がやって来た。それは少女と幼女の二人組だった。二人の第一発見者は若者だ。二人が落ちた場所は自警団のための小屋で、その管理を任されていた若者がたまたま小屋の中にいたのである。

 本来ならば渡り鳥は単独でやって来る。そう聞いていたがゆえに若者は驚いた。まさか二人、しかもどちらも年若いときたら。単なる異人のようにも見えたが、天から落ちてくる様子を目撃したからには渡り鳥であろうことは疑いようがなかった。

 なお、渡り鳥は捕獲され次第隔離され、そこで餓死するまで放置される。そう定められている。昔、渡り鳥を丁重に迎え入れた時代もあったというが、ある時、渡り鳥が有していた疫病によって多くの人間が死したことがあり、それ以来、渡り鳥は禁忌の存在とされている。実際、渡り鳥の大半は一年とたたずに突然死してしまうし、こちらにやってきて数日で息絶える者もいる。しかしそれと同時に渡り鳥は畏怖の存在でもあった。それゆえ直接息の根を止めることもできず……結果、死ぬまで閉じ込めるという恐ろしい手法がまかり通るようになっていたのである。

 若者が二人の存在を頑なに秘密にしてきた理由が――これだ。

 いかにも無垢でいたいけな二人を前にして、そんな非情なことはできなかったのである。

 とはいえ、自分の選択がこれでよかったのかどうか、かなり悩んだ。二人を救うことが大勢の命を奪うことになるかもしれないし、あの家に永遠に隠しておける道理もないからだ。

 だからふらっと訪れた食堂でそのうちの一人――自分よりも一回り若いと思われる少女が働いているのを見かけてひどく驚いた。店主にそれとなく訊ねたところ「どこからか流れてきた訳ありみたいだけど良く働くいい子なんだ」と早口に言われ、「見守ってやってくれ」と頭まで下げられた。

 そこで若者はようやく腹をくくった。少女がこの国の言葉を理解すること自体稀有なことだし、見知らぬ土地で自ら働きだすに至った勇気には称賛しかなかったからだ。

 それからは毎日様子を見に食堂を訪れた。ただ、少女からもっとも遠い席を選んでしまうあたり、自分でも情けないと思わないでもなかったが。

(ああ、そういう自分の弱さやずるさがこの結末へとつながったのだろう――)

 悔しさで顔を歪ませた若者に学者が目を細めた。学者は若者の、若い者ゆえの内面を理解していたのだ。自分もかつては若者と同じ年だったことがあるのだから。

 だが五つの月が一点に集ったあの夜にまれにみる巨大な彗星がこの街に落ちたという情報を若者一人で隠せるわけもなく――渡り鳥を『処分』するためこの街に派遣されたのが、学者だったというわけだ。

 学者は学者にしては年若い。しかし渡り鳥について自分の右に出る人間はそうはいないという自負があった。この仕事に適任なのは自分だと驕ってもいた。そして知った――自分はまだ未熟だということを。

「さあ、ここから出るんだ。君のあの男への暴行については本人からの要望で無罪と決まったそうだから」

 これに若者がかっと目を見開き、両手首を捕縛されたままで机を力任せに叩いた。

「あの男は少女を闇市で売ろうとしていたんだ! それについては追求しないのかっ?」

 あの男――少女がライオンと名付けた男は、商人ゆえの情報網と嗅覚によって娼館にやって来た少女が渡り鳥であることに後になって気づいた。そう、男は少女のことを娼館で遠目ながらも一度見ていたのである。その少女が食堂で働く女給と同一人物だと気づいてからは、少女に近づくタイミングを虎視眈々と狙っていたというわけだ。

 店全体を見渡せる場所に常に座っていた若者は、男が少女に強い興味を抱いていることに気づいた。だから渡り鳥の住まい周辺を監視するようになった。だがそれがよくなかった。若者の行動に男が焦り、その日のうちに少女に自ら接近したのだ。

 少女が男を連れて戻ってくるのを見て、家の近くに潜んでいた若者は驚いた。だが少女の表情、様子から状況は把握でき――男が独りになったところで背後から殴りつけたのである。ほぼ衝動だった。

 幸か不幸か、男は死ななかった。

 だが目を覚ました男は若者のことを覚えており、犯人だと訴えた――。

 初めて人を傷つけた感触を思い出し、若者の両手が強く握りしめられた。それに視線をやった学者が半ば呆れたように言った、

「中途半端な正義感では誰も救えないし何も変わらないよ」

 そこには自嘲気味な笑いが含まれていた。

「それにたとえ君があの男を殺してもあの渡り鳥はいつかこの街を逃げようとしたはずだ。……あれほど警戒心が強い渡り鳥は記録にもなかった」

 誰の手も借りない――少女がそう決めていたことは若者も学者も知っている。毎日見ていれば分かる。それでも若者はどうにかしたくてあがいたし、学者も普段の冷静さを捨てて少女に声を掛けてしまった。信じてくれ――そんな安っぽい台詞まで使って。

 だが信じられるわけがないのだ。

 信じる理由も裏付けも――男達は何一つ有していなかったのだから。

「……分かってるさ。だけど、それでも。それでも俺はあの二人に生きていてほしかったんだ……」

 家の中の気配を探るたびに、二人が自分達と同じ存在、人間であることを若者は理解していった。抱きしめ合い、笑い合う様子には自然と笑みが浮かんだ。幼子に対する少女の献身には感じ入るものがあったし、少女のいない家で息をひそめるように暮らす幼子はひどく健気だった。

 ママ、と呼ぶたびに幼子の声がはずみ、ママ、と呼ばれるたびに少女が柔らかな空気を放った。

 ママという言葉の意味は分からないが――二人にとって特別な言葉であることは分かった。それはきっと多くの人間が知っている甘く尊いもので……。

「あの二人に生きていてほしかったと、そう思うのは間違っていたのか? なあ!」

 挑むように食って掛かる若者はあれからずっと深い悲しみと怒りで支配されている。

「あの二人は鳥なんかじゃない! 俺達と同じなんだ! 同じだったんだ……!」

 叫ぶや――感極まった若者は机に顔を伏せた。

 学者は若者の揺れ動く後頭部をしばらく見つめていたが、結局は何も言わずに静かに目を伏せた。


 ***


「……といったことがきっかけで、今では渡り鳥……いえ世渡り人に対して国は保護する方向になったのですよ」

 ずっと教師の話を聞いていた姫はふわあと小さくあくびをした。

「姫様。僕の話を聞いていましたか?」

「もちろんよ!」

 あわてて答える姫の顔は若干赤らんでいる。だがまだ七歳、長い時間座って話を聞いているだけでも大変なのだ。しかも相手はこの国随一の学者だ。話が難解でついていくのも必死だ。

「ね。もう授業はおしまいでいい? こんなにいいお天気なんですもの、外の空気を吸いたいわ」

「ええ。いいですよ」

「やったあ! ではまた明日。ごきげんよう」

 挨拶だけは丁寧に、姫は学習用具を片付けもせずにぱたぱたと部屋を出て行った。

 くすくすと笑うメイドの声に教師が困ったように振り返る。このメイドは授業中壁のそばにひっそりと立っていた。

「姫様にはもう少し勉学に励んでいただきたいですな」

「そうですね」

 くすくすと笑いながら「ところで先生」とメイドが表情をあらためた。「私もこうして先生の授業をそばで聞いていまして世渡り人について初めて知ったことがありました。ですがいくつか分からないことがあります」

 普段無口なメイドがこうも饒舌に語りだしたことに、教師は純粋に興味を引かれた。

「ほお。どんなことでしょう?」

 姫もこのくらい積極的に学んでくれればいいのにと思いながら問う。

「世渡り人は本当に受け入れてもいい存在なのでしょうか?」

「というと?」

「疫病についての心配はないのですか?」

「ああ。その質問はもっともですね」

「今もどこかに隔離されているのでしょうか」

 教師がやや遠い目になった。そうすると教師の表情に年相応の老いが浮かんだ。

「歓迎者、という存在がいます」

「……歓迎者、ですか?」

「ええ。この国には今、こちらにやって来たばかりの世渡り人を迎え入れるための組織があるのですよ」

「それは……命を賭さねばならない危険な行為なのでは……?」

 やや怯えたようにつぶやいたメイドに、相変わらず長い前髪の奥、教師の瞳がそっと閉じられた。

「ええ。そのとおりです」


 ***


 夜道を一台の馬車が駆けていく。

 御者台には若い女と、女よりも一回り年上の男が乗っている。

 二人は夜空にせわしなく視線をやっている。まばゆいばかりに輝く星々の中で、たった一つの月が煌びやかに天空に浮かんでいるのが確認できる。

沙理さり! 本当にこっちなんだろうな!」

 馬を駆る男が大声で問いかけたのに、同じく女も大声で返す。

「あのカカシ先生がそう言ったんだからそうなの! 前も当たったんだから今度もきっと当たるわ! 信じるしかないでしょうっ?」

 と、女の視線が一点に止まった。

「見て木こり! あそこよ……!」

 彗星が夜空を斜め下に向かって流れていく様を女が指さすや、隣に座る男が勢いよく馬の綱を操作した。

「了解っ!」

 山の麓に落ちた彗星は一瞬だけ輝きを増した。だがすぐに光を失った。しかしこの二人が光の落ちた場所を――世渡り人の落ちた場所を見失うわけがない。二人はこうして何人もの世渡り人を救出してきたのだから。

「さあ行くぞ! しっかり捕まっていろ!」

 舗装などない山道をぎしぎしと音を立てながら馬車が駆けていく。その車体には黄色のインキで下手なライオンの絵が描かれている。この二人の活動を資金面含めて全般的に支えてくれる一人の男に敬意を表したものだ。……出会いは勘違いに勘違いを重ねた最悪なものだったが。

 ライオンの左右には木こりとカカシの絵も描かれている。その隣には一人の女の子が。縛った前髪がぴょこんと揺れるかわいらしい女の子だ。

 前を見据える女の眉はきつくひそめられている。

 女の手首には赤いゴムが巻かれていた。年季の入ったそれは色あせ、ゴムはすっかり伸びている。しかしその赤はしゃれっ気のない女の手首を美しく彩っている。

「待ってて! あなたのことは私が助けに行くから……!」


 


 これは――渡り鳥と呼ばれた私についての物語。


 誰でもない、私自身が紡いでいく物語だ。


お読みくださりありがとうございましたm(_ _)m

なろうでいう非テンプレ作品ですが、実際は異世界転移したら途中まではこの作品のような状況に陥るのがテンプレのような気がしています。

しかしそれだと悲しい結末しかないので、最初から話し言葉は理解できるようにし、かつ後半以降は想像を膨らませてハードさを調整しました。

ハイファンタジーかつシリアスということで敢えての行間空白も入れず、かつ短編形式での投稿としてみました。読みにくい方いると思います。すみません、完全なる自己満足です。

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[良い点] 読み進めるごとにありきたりな想像がどんどん覆されていくことに脱帽です。 オズの魔法使いになぞらえた主要な登場人物の描写が素晴らしく、”私”の目を通じて表現される危険な雰囲気にはらはらしなが…
[一言] なんともほろ苦い、けれど一筋の希望の光がさすストーリーにさすがアンリさんだなと思いました。 異世界転移というのは何かしらの明確な使命があっても理不尽なものなのに(唐突に異世界に呼ばれて、異…
[良い点] 読み専モードの時は、このぐらいシリアスなファンタジー小説が好きです!(*´ω`*) 2万字があっという間でした。 商館から逃げた話のところで、おや? と思ったら妹さんの方だったのですね。 …
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