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思い出せ、俺という人間であった時のことを!

 リガティアの隠れ家は大体はシュクデンにあるようで、シュクデンは今日も雨であり、俺とリガティアは何もすることが無いとクッションに埋もれて居間に転がっていた。

 いや、リガティアは適当に転がりながら英雄譚という書物とギルドからの報告書を読み耽りながら時々小言で暴言を吐いている。


 彼女はジークィンド・クレイモアという誰もが知っている英雄とパーティを組んでいた大魔女でもあるが、過去にそのジークに傷つけられていたのだ。


 彼女が十二歳だと知って振るとは、クレイモアはなんと狭量か。

 そこは喜んで自分好みに育てるべきであろうに。

 ああ、俺がその頃に彼女と出会っていたら、大事に大事に守り慈しんだ事であろうに、全く。


「全く。ギルドめ。なによこの給与明細。ちまちま仕事をするよりも、あそこを壊して金蔵の金を全部奪った方が良いかしら。ああ、メテオをあいつらにこそ落としたい。」


 俺もその通りだ!


「わふ!」

 俺は彼女を慰めるためにと彼女に覆い被さり、彼女の心が少しでも癒されるようにと彼女の毛布となった。


 ああ、俺は何と果報者か。

 少女の身体は石鹸の匂いとミルラという香料の柔らかい香りに包まれており、俺は彼女のうなじや耳元に鼻先を突っ込んでは彼女に軽く叩かれるという素晴らしい時間をも味わえるのだ。


「もう!トトったら。あなたが外に出たくてうずうずしているのはわかるわよ。ドアを開けるから一人でお散歩をしてくる?いいわよ。」


 俺は彼女からごろっと転がり降りると、そこで追い出されないように寝たふりを始めた。

 ここで雨の中外に出されたら、絶対にこの美しい少女は俺を残して隠れ家を移動させてしまうだろう。


 彼女は意外と薄情なのだ。

 猫の方が楽しいかもと、俺を目の前にして言い放つほどだ!


 良いぞ、猫か。

 大熊猫と書くパンダに変身してあげようか。


「ああ、もう!」


 俺は寝たふりしかしていないと、首をあげてリガティアを盗み見た。

 リガティアは完全に身を起こして胡坐をかいて座っており、物凄く苛立った様子で手元のギルドの報告書を読んでいる。

 俺は起き上がると彼女の手元にある報告書に鼻先を突っ込み、彼女を怒らせる情報を報告書から探そうとした。


 探すまでは無かったが。


 俺が逃したアイシュ・アイアとノッド・レイリーによる新たな殺しの報告だ。


 殺されたのはギルドの勇者志望の若者二人、それも生きたまま全身を切り裂かれての放置による死だ。


 死ねるまでに何時間必要だったことだろうか。


 俺はリガティアの横顔をベロンと撫でて、彼女に出ていくことを告げた。

 俺だったらアイシュ・アイアを殺す事が出来る。


「行くの?トト。外は、ああ、晴れている。見て!虹が見えるわ!」


 リガティアは俺に大きく玄関のドアを開け放ち、俺は二度と会えない彼女を見つめて彼女の笑顔を心に刻むと、今度こそ死ぬかもしれない戦いへと飛び出した。


 今度こそ、あの魔女と殺人狂を始末してやる。

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