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白き悪意だけの魔女

「あら、私の誘いを断った癖に、私の可愛い子に手を出そうとするなんて、なんていけない狼さんなんでしょう。」


 蜂蜜色に輝く長い髪を体中に這わせているだけでも煽情的であるのに、大きすぎる胸に細い腰と豊かな臀部という男達の夢のような体つきまでしている。

 それどころか、どんな男をもベッドに誘い込めるような表情を作ることだってできるという百戦錬磨だ。

 けれど彼女は、そんなに美しくセックスシンボルにもなり得る自分の存在こそ否定したいように、服はいつもタートルネックの白い長袖ドレスという清楚なものだ。


 ハルメニアは何でも治せる回復術を持っていると評判で、世界の救世主のような扱いを設けている。

 対してリガティアは破壊王と名高い。

 そんな二人は旧知だったらしく、そして、ハルメニアは俺の恥さらしな行動までも知っていたようだ。

 だからこそ今までに、俺とリガティアの暮らしに色々な干渉をしてきたのではないのだろうか。


 そして俺の考えは正しく、彼女はリガティアに干渉していたことを否定するどころか俺を責め返してきた。


「う、ふふ。天下のルーパート・グリフォンが犬になって十代の女の子の足を舐めているなんて、ふふ、情けない。」


 俺はハルメニアに何も言い返さずに、無言のままリガティアの作った鍋をハルメニアに差し出した。


「食べてくれ。そして、リガティアの悲しさを知ってくれ。あの子は本当に頑張って本通りに料理を作ったんだ。本のところどころにある、美味しくするひとさじなんて無駄なアドバイスまで律義に読み取ってね。」


 俺はハルメニアがもっと大笑いしてリガティアか俺を小馬鹿にするのかと思っていたが、彼女は母親のようにあらまあと口元を片手で押さえ、鍋の中のシチューをレードルですくって飲んで見せた。


「まあああ。あの子は何の本を読んだの。ルーパート・グリフォンが書いたエッセイが楽しいし簡単な料理のレシピが載っていて使えると教えたのに。」


 俺は鍋を抱えたままぎゅうっと目を瞑り、実は恋のキューピットをしようとしていたのかもしれないハルメニアに謝ろうと心を決めた。


「あ、そういえばあれは絶版だった。あの本を参考にしたミランダ・バーの料理エッセイ本に飛びついたかもしれないわね。あれは凄く不評で、ルーパート・グリフォンの本の再販迄消えたと評判だったものね。あら、まあ、まだ売ってたの、あの魔書。」


 くすくすと笑い出したハルメニアにシチューを掛けてしまいたかった。

 けれども、俺の行動を洗いざらいリガティアに話されたら困るではないかと、俺はハルメニアへの攻撃心を押さえた。

 彼女は危険だ。

 俺は友好的にハルメニアに頭を下げる事にした。


「すいません。俺はリガティアの元を去ります。あの、俺が彼女の可愛がる狼だったと知らないままにしてあげてくれませんか?彼女は無垢です。俺は彼女を傷つけたくない。」


「あら。散々傷つける行為というか、嫌らしい行為をしておいて。」


「――返す言葉もありません。」


「ふふ。でもあなたも初めてだものね。恋をする事。ええ、私は何も言わなくてよ。それに、このお料理については私からリガティアに謝るわ。料理くらい、教えて欲しいと言えばいくらでも教えてあげるのにね。」


「では、俺にしたように教えてあげればいいじゃないですか。誘拐して、監禁して、独り立ちできるまで教育する。」


 ハルメニアは俺に眉をあげて見せた。


 その表情はリガティアが時々見せる仕草にそっくりだったと思い出し、彼女は既にハルメニアに扱かれていたのだと噴き出した。


「なあんだ。それでもリガティアは料理が下手なのですね。」

「あの子は人の話を半分しか聞かないから。ええ、だからこそ汚れずにいられるのでしょうけれど。常識を覚えないから、限度ってものを知らないわよね。」


 俺は久しぶりに心の底から笑っており、親から虐待されていた所からハルメニアに助け出してもらった幼い頃の思い出や、ドルイドに売られるようにして弟子入りさせられた時のことを思い出してもいた。

 持っていた鍋を適当な所に置くと、俺は自由になった手でハルメニアの手を包むようにして握った。


「母さん。こんな呼び方は嫌かもしれませんが、俺はあなたをそう考えています。あなたは意地悪だが、俺の大事な母さんだ。」


「ありがとう。あなたは私の息子だわ。そして息子だから幸せになって欲しい気持ちと、情けないお尻を蹴っ飛ばしたい気持ちで一杯よ。」


「気兼ねなく蹴っ飛ばしてください。俺はリガティアが男前になった所で月まで蹴り飛ばされた気持ちでしたけれどね。」


「あら、ほんと?あの悪戯は私の魔法だけどね。うふふ。リガティアは強化魔法を自分にかけたらゴリラになるっていつ気が付くかしらね。賭ける?」



「最低だ、母さん。」

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