再会
結局俺はリガティアに手紙というかお礼の品を送った。
手紙はリガティアが考案した絶対に手紙が届く魔法を採用させてもらったので、あれは必ず届くはずだが俺はなんて情けない事をしたのであろうか。
俺はトトを殺したのだ。
「あなたがトトと呼んで保護して下さった私の愛犬は本日息を引き取りました。あの子が私の元に戻って来れて、そして私があの子を見送ることが出来たのは全てあなたのお陰です。ありがとうございます。」
俺はそんな手紙の文言にリガティアを再び騙しているという罪悪感も強くあったので、自分の会社が製作している最高級シルクのレース付きハンカチーフも手紙に同封したのである。
けれど、それが功を奏した。
リガティアから返信が来たのだ。
「可哀想なトトにお花を供えてあげたいの。お伺いしてもよろしいかしら。」
どうぞもちろんいくらでも!
俺は小躍りしながらリガティアに手紙を出し、けれど、リガティアが我が家を訪れる日が近づくにつれて彼女を騙している事実が俺の気持ちを冷やしていき、当日を迎えるにあたって俺は完全に自分を取り戻した。
リガティアに真実を告げて謝ろうと決意したのだ。
「さて、どうやって真実を伝えるべきか。」
ハルメニアの話では俺は女性達に憧れられ持て囃されている外見だという事だと、俺は姿見に向かって歩いていき鏡の中の自分を覗き込んだ。
背は高く金髪に青い瞳というよくある外見に、情けない事をしたと後悔でしょぼくれているパッとしない男が俺を見返していた。
「こんな風情だから俺は狼に見えなかったのか。師匠の狼姿は素晴らしかった。俺はあんな風に変身していたと思ったが、リガティアに犬としか見えないくらいに俺の変身は情けないものだったのかもしれないな。」
俺の手は勝手に自分のシャツのボタンを外していた。
もうすぐリガティアが来るに違いないのに、服を全部脱ぎ捨てて狼に変身し、自分が犬にしか見えないのか確かめなければと、気がはやってしまっていたのである。
しかし、俺が狼に変身するべく体に力を込める前に呼び鈴が鳴り、条件反射のようにトト時代の思考回路になった俺は、リガティアだ!と勢い勇んで玄関へと走っていた。
全裸で。
ドアを開ける前に全裸に気が付き、だが、服を着ている間にリガティアが帰ってしまったらと恐慌に陥った俺は犬並みの判断をしてしまった。
すなわち、コート掛けにある魔法使いの黒ローブを全裸に羽織って玄関のドアを開け放ったのだ。
俺の目に見えたのはピンクの世界。
リガティアはいつものように口元しか見せない真っ黒のローブ姿であったが、彼女はトトの為に三十本はあるピンクのバラの花束を抱えていたのだ。
彼女はトトを偲んでくれていた。
嫌われてはいなかったと俺が嬉しさに涙を流し、ついには自分の顔を覆って戸口でしゃがみ込んでしまったのは言うまでもない。




