黒犬さんはお手紙書いた
君に三食昼寝付きの中で、主人公リガティアが時々大好きなノーマンに公園で拾った犬を当て嵌めていますが、その人間臭い犬は人間だったのです、というお話です。
本編にルーパート・グリフォンの存在感が無く、彼とのエピソードを書けなかったので。
リガティアを思い切れないからと彼女に手紙を出した。
内容は単純だ。
「私の犬の面倒を見てくれたことに感謝する。一度あなたに会ってお礼を言いたいのだが、私に会っていただけるだろうか。」
何度も書き直して何度も冗長すぎると破き捨てたのにもかかわらず、出来上がってリガティアに送り届けたのはこのような物凄く簡単な文章である上に高慢でぶっきらぼうな失礼にも思える手紙であった。
だが、彼女に何と伝えれば良いのだ。
あなたと一か月過ごしたあの犬は、実は私が変身した姿だったのです。
絶対に言えない。
それでも俺はあの美しく優しい少女に再会したい思いが日々募り、結局は手紙などというものまで書いて送りつけた。
そして返事をしてくれない彼女に対して、勝手すぎる程に裏切られたかのように感じ始めてもいるのだ。
自分こそ彼女を騙していたのにかかわらず、だ。
「ああ、どうしよう。再びあの犬の姿になって彼女の元に行くべきか!」
口にして、どうしてそれをしないのかと自分を叱りつけた。
俺は犬だった。
本当は狼に化けていたはずだが、彼女が犬と言い張ったので犬で良い。
俺は犬として彼女の友人となった。
俺は犬だから、「行ってくる。」とも「さようなら。」とも言わずに、彼女の元から去ったのでは無かったのか?
「ああ。もう一回犬になろう。それで、俺という飼い主が俺を心配しているから俺を俺に返してくれというシチェーションを作ればいいのか。」
俺は自分の発案に喜んで立ち上がり、
だが一瞬で自分の馬鹿さ加減に頭を抱えてソファに再び沈み込んだ。
「犬の俺が人間の俺を紹介するって、そのシチェーション自体が無理じゃない。」
俺はそういえば二人もいなかった。