表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/486

第42話 余白

 ……クリナの香りがする。

 

 俺は、白が支配する空間で目を覚ます。

 白以外何も見えない。見えるのは、自分の体だけ。


 ここは天国なのだろうか?


 体が、魂が、溶けていく感覚。

 いや、実際に、少しずつ溶けているのだ。この世界の白に。

 

 不思議と不安はなかった。それどころか、世界と一つになるような、心地の良い、安心感が心を満たす。

 

 体が薄れていくほど、意識も薄れていく。

 このまま、俺は消えていくのだろうか?


 ……まぁ、良いか。俺に思い残す事なんて……。

 事なんて……?

 

 何かが頭に引っかかる。

 ……駄目だ。頭が朦朧として、なにも思い出せない……。

 

 「ごめんなさい!ごめんなさい!」

 ……あれ?誰かが泣いている。一体、どこで……。

 俺は、辺りを見回すが、誰もいない。

 

 「ごめんなさい!ごめんなさい!」

 ……何故、君は泣いているんだ?

 何処から聞こえているかも分からない声に、俺は問いかけた。


 「ごめんなっ!ごめんなざいっ!!」

 しかし、当然、答えは返ってこず、泣き声だけが、響き続ける。

 

 「全部、全部、私のせいなんです!全員、私が殺したんです!私が!私が生まれて来なければ良かった!あの時死ねばよかった!」

 そんな……。そんな悲しい事言うなよ……。

 誰の物かも分からない嗚咽(おえつ)に、俺の心は()き乱される。


 お前のせいじゃない。生まれてきたのも、間違いじゃない。強く生きて欲しい。

 どんな方法でも良い。泣き声の主に、伝えたかった。


 「神様。私は悪い子です。悪いのは私です。私が罰を受けます。私が死にます。だから、だから、全部元通りに……」

 次第に弱まって行く、少女の声。


 ……駄目だ。

 駄目だ、駄目だ、駄目だ!

 そんな事、許さない!絶対に許さない!

 世界が許しても、俺が許さない!

 神が、創造主が彼女の命を奪うと言うならば、俺は、創造主であろうと、絶対に赦さない!

 

 ……そうだ。これはクリナの香りじゃない、もう、彼女の香りだ。

 

 それに気が付いた瞬間、誰かの気配を感じ、振り返る。


 …あぁ、クリナ……。ここにいたんだな。

 姿は光のように揺らいで見えないが、紛れもなく、それはクリナだった。


 でも、ごめん。……また、一人にしちゃうけど、もう少ししたら、また迎えに来るから……。その時まで、待っててくれるか?

 光の影が、首を振るように揺らめくと、俺の頬に触れて来た。

 

 え?神様に逆らったら、地獄行きだから、もう、帰って来るなって?

 そんな、つれない事、言うなよ……。


 俺の中に、言葉や感情が流れ込んでくる。

 

 うん。うん。うん……。

 そうか、クリスもこっちに来ちゃったんだな……。

 ……はははっ。確かに、お互い、一人じゃないなら、寂しくないな。

 …うん、うん。……え?二人から、あいつに?

 うん。うん。……きっと、喜ぶよ。絶対に届ける。

 

 …そうだな……。長くなるかも知れないからな。先に行ってくれていて、良いよ。


 うん。うん。

 うん。色々と、ごめん……。助かるよ。

 うん。最後まで、ありがとう。

 うん。うん。……うん。


 ……じゃあ、行って来るな。

 

 俺はちょっと出かける様な口調で、挨拶を済ませると、光から、一歩、遠ざかった。

 光の影は、笑うように、優しく揺らめくと、そのまま風のように消えてしまう。

 

 俺は、それを見届けると、彼女の香りが、漂ってくる方向へ歩き出す。

 どれほどの距離があるかは分からない。

 俺の体がもつかも、分からない。

 

 しかし、この心は、名前だけは、絶対に届ける。彼女が強く生きて行けるように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ