第383話
「では、明日はゴブスケさんが、待機班の現状把握と、調整を行う為に、待機班へと加わる形で宜しいですね?」
暗くなる前に拠点へ戻り。
恒例の馬鹿騒ぎの後に、これまた、いつも通りに開かれた会議兼、報告会。
「ヴァゥ!」
「あぁ」
静かに頷く皆を代表して、俺と、張本人のゴブスケが声を上げる。
返事で発言が掻き消されるといけないと言う事で、議論の末、今回、試験導入する事となった方法だ。
しかし、シンとした空気の中での発言は、それはそれで難易度が上がる気もしないでもない。
「あ。追加と言うか念の為に良いッスか?」
サラッと言ってのけるウサギも、まったく気にしていない訳では無い様だし。
特に、ウィズや、クリア辺りには、発言の機会を奪うと言う意味で、致命傷になりかねない。
「はい。どうぞ」
しかし、挙手制と言うのも、ムカデみたく手足が短かったり、ファースト達の様に、四足歩行の者もいるからな……。
それに、皆が手を上げていない中で手を上げると言うのも、これまた抵抗が生まれるだろうし……。
皆に出来るだけ平等な精神的負担で、賛成か反対かの意思表示をさせて、かつ、それが皆の目に見えやすい方法となると……。
「ありがとうッス……。で、まぁ、さっきも言った通り、念の為なんっスけど、ゴブスケさんには、特に行き詰りやすい、建築、開発班の様子を見てきて欲しいッス。
竹籠を応用した新しい防具や、効果的な防寒具、防寒設備の開発も、進捗が気になるッスしね。
粘土集め兼、水路作りをしている人達も、地中の木の根や岩の撤去で困ってる様でしたッスし。村から貰った鉄の道具なんかも、こっちでは当分使いそうにないんで、いくつか持って行って貰って、効率的な使い方を教えてやって欲しいッス。
後は、あれッスね。飽く迄水路作りは資材、食糧集めの一環なんで、あんまり思い悩んでる様だったら、フォローしつつ、息抜きで、他の現場に回してやっても良いッスかね……。あ。この、他の現場に人を回す時には、自分が無能だから回されたんじゃなくて、飽く迄、他の現場が、その人を欲しがってるから、って形にしてッスね……」
「ヴァゥアゥ……」
ゴブスケは手早く、棒状の皮の包みを出したと思えば。
その中から、良く焼けた炭だけを削り、再度、書き易い様に、棒状に練り押し固めた物を、流れる様に、皮の先から覗かせる様に握って。
そんな、ゴブスケご愛用の鉛筆モドキが、薄い板の上を、物凄いスピードで走る。
緻密な発声が苦手な分、意思疎通を計る際に、良く文字を書いていた為、そちら側に進化したのだろうが。
会議を記録を書き留めていた生前の俺も真っ青な速筆っぷりだった。
そして、そのやり取りに、それぞれのリーダーも、頷いたり、食いついたり、耳だけを向けて見たり。方法は違えど、二人の邪魔にならない様に、静かに耳を傾けていた。
何なら俺も耳を傾けていた。
それだけ、ウサギの発言には気付きが、学ばされる事が多い。
それを皆も分かっていて、関心を向けているのだろう。
「……っと、こんな所ッスかね。わざわざお時間、取って貰って申し訳なかったッス」
へこへこするウサギだが、わざわざこんな場所で言ったんだ。初めから皆にも聞かせる気だったのだろう。
「…………」
おおっと。何とも言えない沈黙。
ウサギと目が合う。
(分かったよ。俺が何とかするさ……)
「……いや。実に考えさせられる内容だった。今後とも機会が有れば、頼む」
俺は適当な相槌を挟みつつ、進行役のコグモへと視線を送る。
「はい。では、他に、発言をなさりたい方は、居りますか……?」
そこで何人かが首を横に振る。
(首……。首か……。傍から見て、分からなくはないが、振っている間は他の人の反応が見えにくいしな……)
いっその事、クイズ番組の答案スクリーンの様な、誰にでも一目で、抵抗なく、簡単に、分かりやすい意思表示が出来る設備が有れば……。
(……いや。ボタンぐらいなら作れるか?)
腕が短くてボタンを押すのが難しくても、そこは引いたり、何なりすれば、簡単に意思表示が出来る様にして……。
(いっその事、魔力を検知して、強制的に意思表示をさせる。とか……?)
いや、それは流石に抵抗があるし、何より、会議に関係ない内容や、個人的に聞きたい様な話にも反応してしまいそうだ。
そうなれば、場を混乱させてしまうだけだろうし、少なくとも、俺がそうならない機構を思い付くまでは、この案は保留だな……。
(とりあえず、イエスとノーと、発言の意志が示せる、三種類ぐらいのボタンが有れば良いか……?)
それに、ボタンの機構も考えて……。
詳細はウサギや開発班に話を通して、意見を貰ってから詰めるか。
「続きましては、明日から始まる、洞窟潜行試験についてですが……」
「ヴァィ!」
形式上と言う話ではあるが、初めてゴブスケが発案者となるらしい、議論。
しかし、それを気負っている様子も無く、良くも悪しくも、ゴブスケらしい始まり方だった。
「ごれ!みぐ!」
ゴブスケが手元に有った何枚かの薄板を片手で持ち上げ、指差す。
「はい。同じ物が、皆様の手元にあると思いますので、そちらを……」
それは、今以上に深く潜りたいと言う人の人数と、潜る場合の組み分け。
それに、試験官として、ウサギとムカデが交代で、最終選考地点を警備する事等、事前に話し合われた内容が事細かに書かれていた。
その、書類?は、情報が各所に散らばり過ぎており、もう少し、同じ内容は同じ場所に、順序だてて、纏めて書いて欲しくは有ったが。
大きな中央の板に、皆に見える様に、簡易的な説明や図を書く事は有っても、個人個人に、内容の詰まった板を渡すと言うのは、初めての試みで。
ゴブスケ自体、初めての発表と言う事も鑑みれば、不足が無いという点を評価して、上出来と言っても過言では無いだろう。
「……ルリ。試験用腕章に合わせて、認定用腕章まで……。今日中に、作れるの……?」
隣に座っていたリミアが個人的に聞いて来る。
「そこも合わせて、試験人数は調整してるからな。大丈夫だろ」
「大丈夫そうに見えない」
「ん……。まぁ、全員が全員、試験に受かるって訳でも無いだろうし……。最悪、認定腕章は後回しで、もし、足らなくなったら、ウサギ達の方で、足らなくなった分の奴らから、記録を取って貰って、後日配布するか……」
「そうした方が良い。それと、試験腕章は一度作れば使い回せる。今日が一番忙しいだろうから、手伝う」
「あ!抜け駆けは狡いです!私も手伝いますからね!」
「お、おぅ。助かる」
明日の訓練も有るし、ヘバっていた二人には休んでいて貰いたかったが。
少し、無理のある仕事を受けたのも事実で、俺の落ち度だし。
何より、二人の提案を無碍にするのは、信頼をしていないと言ってしまっている様で、憚られた。
(三人で編み物か……。考えて見れば初めてか……?)
そう考えると、ワクワクもしてきて。
今晩も、諸々の事情から注意を逸らし、楽しく過ごす事が出来そうだった。




