第32話 進化と変化①
あれから数日。子どもは未だに生まれて来ない。
(どんな子が生まれて来るんだろうな……)
《マタ、コドモの、コト、カンガエ、てる》
俺が、一人、部屋の隅で腹を撫でていると、彼女が突っかかって来た。
(お前には、関係ないだろ)
俺は、適当に返すと、シッシと、追い払うように手を振った。
《カンケイ、アル。ルリの、コドモ、も、ワタシの、ゲボク》
(おい!てめぇ!百歩譲って、俺が下僕だとしても、子どもに手を出すのは、許さねぇからな!)
《………ジョウダン》
(はぁ………)
こいつは、この頃、良く、冗談を言うようになった。
しかし、これが、本気かどうか、全く分からない。
下手をすると、俺の気に触れそうになった時、冗談。と、言ってごまかしている節が《ナイ》
(……おい。人の思考に割り込むな)
彼女は、俺の威圧的な視線を無視して、糸で、もう何着目か分からない、服を織っていた。
人間の体を放置して、下腹部と、八本の脚だけで織っている。
きっと、人間の体より、虫の部分の方が、扱いやすいのだろう。
だが、せめて、人間の体の方にも、少しは力を入れて欲しい。
死体の様に、力なく垂れさがる人間。
その背中から生えた虫の脚が元気に動く光景。
B級ホラー映画で良く目にする、人間を食い破り、羽化しようとしている、寄生虫の様だ。
《デキタ》
俺の思考など無視して、出来上がった服を掲げる、彼女。
人間の方は死んでいるので、表情は分からないが、下腹部の光り方的に、得意気な雰囲気だ。
《……エッチ、です》
編みあがった服を布の様に掛け、下腹部を隠す彼女。
食事を恥ずかしかったり、光を恥ずかしかったり、変なやつだ。
《ココ、ワタシの、ホンタイ。ハズカシイの、アタリマエ》
(最初、俺に押し倒された時は、惜し気もなく、指を指して、見せつけていた癖に)
《アレも、ハズカシイ、デした……》
その言葉には、少し、熱が篭っていた気がした。
(そんなもんなのか?)
いつもとは違う雰囲気に、探る様な答えを返す俺。
《ソンナモン》
しかし、彼女は、何事も無かったかのように、いつも通りの口調で、答える。
…………。
気まずい静寂。
(………なぁ、そう言えば、何で女王はあんなに沢山、卵を産んでいたのに、俺は一つなんだ?)
別に、知っているとも思わなかったし、答えが欲しい訳でもなかった。
ただ、この空気を壊したかっただけの質問。
《ソレワ、ルリが、ジョオウとワ、ベツのホウコウに、シンカ、シタから》
意外にも、しっかりとした答えが返って来た事に、俺は驚く。
それに、進化とは、心が躍るじゃないか!
《進化って、どういう事だ?!成長して、卵が産めるようになっただけじゃないのか?!》
どうも、詳しく知っているような彼女の口調に、俺は素早く食いついた。




