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第28話 暖かい悪夢

 ……腹減ったな……。

 そう言えば、俺って、腹が減ったから、起きたんだっけ?


 《ハラヘッタ》 

 …真似をするな。


 《マネスル、チガウ。ワタシ、ハラヘッタ、シテル》

 なんだ、その、ハラヘッタ、シテル。って言うのは。腹が減ってるだろ。

 

 《ソウ、ハラガヘッテル》

 ……なぁ、いい加減、解放してくれよ。そうすれば、獲物だって……。

 

 《ワカッタ》

 彼女は、俺が全てを言い終える前に、体内の糸を緩める。

 

 瞬時に、彼女に近寄り、押し倒す俺。

 その細く白い喉元を挟み込むように、牙を突き立てる。

 俺が、この顎を閉じるだけで、彼女の首は飛ぶ。

 ……そのはずなのに、彼女は何もしてこなかった。

 

 感情のこもっていない目が、俺を見つめる。

 ……何だよ。ご自慢の糸で拘束しないのか?

 

 《シナイ。スル、ヒツヨウ、ナイ》

 なんでだよ?俺が、日和ってるとでも、思ったのか?

 

 《チガウ。ワタシ、ソコ、オトス、サレル、シヌ、シナイ。……ホンタイ、ココ》

 そう言って、彼女は、俺を見つめたまま、光る下腹部を指差す。

 

 それが、嘘じゃない保証なんて、どこにもねぇ……。

 《…ソウ。ナラ、スキニ、スルト、ヨイ》

 

 まるで抵抗しない彼女。

 彼女の言う通り、首が弱点でないなら、死なないだろう。


 それなら、俺も、躊躇(ためら)う必要はない。

 顎に少し、力を籠める。それだけだ。

 ………………。


 《……無理よ》

 ……え?

 雰囲気の変わる彼女。

 

 《あなたには無理。……だって、そういう人だもの……。そうでしょう?》

 優しい、大人びた表情で、(さと)す様に、語りかけて来る、彼女。

 その声も、仕草も、クリナに抱いたイメージと、瓜二つだった。

 

 お前!馬鹿にするのも!!

 その首を噛み千切ろうとするも、その笑顔を見ていると、力が入らない。

 

 《ワタシ、ニハワ、クリナ、ノ、キオク、モ、アル》

 流暢な発音と、顔の表情を同時に行った事で疲れたのか、彼女の表情が無表情に戻る。

 体全体が、死体の様に、力なく、項垂れ、下腹部の光は、息を荒くするように、強く、荒々しく、点滅していた。

 

 《アナタワ、ひよってなンテ、いないワ》

 ゆっくりと人間の腕を伸ばしてくる、彼女。

 しかし、首すらも座っておらず、目も焦点が合っていない。

 その姿は、まるで動く死体だった。

 

 《だッテ、もともと、やさシイ、ひとだモの……》

 その声と共に、彼女の腕が、だらりと、地面に落ちる。

 俺は首元から離れると、反射的に、その手を取った。

 ……冷たい手だ。偽物の、作り物の手。


 下腹部の光は、弱々しい物になっている。

 きっと、本当に、あの部分が、本体なのだろう。


 無防備な体を晒す彼女。

 何故、彼女はここまでして、俺を手懐けたいのだろうか。

 俺を操作できるなら、他に、いくらでも、やり方はあっただろうに……。

 

 クリナの肉体は死んでしまった。

 でも、その記憶を引き継いだ彼女の中では、まだ、クリナの心が生きているんじゃないのか?

 ……本当に、殺して良いのか?

 

 いや、殺して良いか、どうかなんて、関係ない。

 俺には、もう、こいつを殺すだけの、勇気は存在しなかった。

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