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第209話

 未だに頭を下げるマッド。

 俺は、念の為、彼が立ち上がっても、ギリギリ手が届かない空中で、ホバリングを始める。


 (ええっと……。こう言うのって、それっぽい口調の方が良いよな……?それと、話す態度や、内容も重要だぞ……)

 前世でも、第一印象は大事だと、痛い程実感しているし、ここは、しっかりと、キャラを定めてから……。

 

 「いかにも。そなた等が申す通り、我はこの森の精霊だ」


 「おぉっ……」

 俺の声を聴いた村長たちは、驚いたように顔を上げ、畏怖を含んだ眼差しで、こちらを見た。


 (あ~っ!クソッ!緊張して、少し声が強張っちまった!)


 しかし、それを表に出す訳にもいかないので、村長たちを見下ろしながら、何事にも動じない、自身の中にある神聖そうなイメージに合った態度を取り続ける。


 「…………」

 

 取り続けるが、マッドはこちらを見つめたまま動かない。

 何か言葉を待っているのだろうか?それとも、俺に掛ける言葉を考えている?


 (……ええい!まどろっこしいな!相手の考えている事さえわかればっ!

 ……あ、そうだった。それ、俺の専売特許じゃん。それに、マッドには、もう、糸を忍ばせてるし……)

 冷静になった俺は、糸を伸ばすと、マッドに接続する。

 

 (……何と仰られているのだろうか……)

 接続一番で聞こえて来た、彼の心の声は、濃い、困惑の色を見せていた。


 (あぁ、そうか、日本語じゃ、分からないよな……)

 そこで、自身の大きなミスに気が付きつつも、俺は、こいつらが扱う言語を上手く喋る自信は無かった。


 聞き取る事は出来ても、今まで喋った事も無い言語な上に、舌使いが難しそうだし……。

 喋るのと聞くのとじゃ、やっぱり、聞くだけの方が簡単だろう。

 聞き取れるからと言って、変な自信を付けて、話した事も無い言語を、大勢の前で口にするのは(はばか)られた。


 それに、もし、喋れたとしても、ここで、下手な言語で喋り、神聖な印象を落とすのは、良くない気がする。


 『村の長よ。そなた等が申す様に、我は、この森の精霊だ。聖なる言葉が、そなたらに届かぬ様であった為、今は、このようにして、お主の心に直接話しかけておる』

 俺は、それっぽい理由を付けて、マッドの中に話しかけた。

 今にして思えば、直接話しかけるよりも、こちらの方が、人知を超えた能力である分、神聖も保たれそうだしな。


 「あ、ありがたき幸せっ……!」

 そう叫び、再び頭を下げるマッド。

 しかし、その声とは別に、糸を通して(ま、まさか、本当に精霊様だと言うのかっ?!)と言う、彼の心の声も流れて来た。


 (う、疑われているのか……?いや、そもそも、俺の事を本当に精霊様だとは思っていなかった様な感じもするが……)

 しかし、この様子では、俺を精霊様と信じるまで、もう一押しだろう。


 『村の長よ。心にもない事を口にするで無いぞ?お主の思考なんぞ、手に取る様に、読み取れるのだからな』

 

 「そ、そんなっ!」

 驚いて、顔を上げるマッド。


 (それならば、今、目の前に現れた得体の知れない"モノ"を、精霊様と信じずに、利用しようとしたと言う事もっ……!)

 その後に続く、彼の思考は、俺をも混乱させた。


 (……えっ?なにそれ?俺、利用される所だったの?マッドって、そんなに悪い子だったっけ?!)

 内心、恐怖しながらも、こちらの心の内が、向こうに漏れる事は無い。


 俺は、怖いもの見たさで、どう利用されるはずだったのか、今の発言中に呼応した記憶に探りを入れる。


 (ふむふむ……。皆の信仰心をより一層、強める為に、適当な物を精霊様に仕立て上げたかっと……)

 精霊様と言う存在は、飽く迄、民を纏める為の戯言。

 それを祀り上げたマッド自身は、精霊という存在を、余り信じていない様だった。

 

 (ふぅ……)

 しかし、利用すると言うから、どのような物かと危惧したが、あまり、攻撃的な発想ではない様で安心した。

 これが、のこのこ近付いて来た所を捕まえるとかだったら、今後の付き合い方も、考え直さなければイケない所だった。


 『あぁ、そうだ』

 俺は、動揺を抑え、全てを知っていたかの様な、余裕のある答えを返す。


 「申し訳ありません!どうか!どうかお許しを!」

 マッドは床に頭を叩きつける勢いで、頭を下げた。

 ……いや、ゴン!と、鈍い音がしていたので、多分、本当に叩きつけたのだろうが……。


 しかし、今回の言葉からは、心のギャップを感じとれなかった。

 本心から、そう思ってくれているのなら、こちらとしても安心だ。


 『これに懲りたら、我の前で、(はかりごと)など、考えぬ事だな』

 念の為に刺した釘に、マッドは「ははあッ……!」と、頭を下げたまま答える。

 

 その思考からは、もう、俺を疑う感覚など、微塵も感じる事ができなかった。

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