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第201話

 (人の長と言っても、こんな寒村の長じゃ、警備なんて無いに等しいんだな……)

 真夜中、月明かりを頼りに、浮遊しながら、村長の家、周辺を見回す俺。


 警備員等がいないのは、ミルの記憶により、事前に知ってはいた。

 しかし、ミルが知らないだけの可能性もあるし、念には念を入れてみたが……。

 本当に何も無い様だった。


 まぁ、一応、村長の家と言うだけあって、平屋ではなく、高床式倉庫の様な家になっており、その分、侵入はしにくいだろうし、何より、高い位置にある家の玄関は、村の何処からでも目立つ設計になっていた。


 正面から、昼間に入れば、皆の目に留まる為、不審者が出入りしようとすれば、確実に捕まってしまうだろう。

 ……しかし、まぁ、夜の警備がこれだけ疎かと言う事は、警備の意味より、権威の象徴としての意味合いが強いのかもしれない。


 (ミルの記憶からするに、村人には慕われている様だったしな……)

 だから、村人に対して、警戒する必要も無い。

 それに、この村には外部から攻撃に耐えうる力も無いと悟っているのかもしれない。

 それなら、無駄な警備を置かないのも、納得である。


 (諦めてるんだな……)

 人が飢え死にする事も、身内を売りに出す事も、外部勢力に襲われる事に対してだって……。

 全てを諦め、淡々と日常をこなす、この村は、とても平和に見えた。


 (あぁ、それって……)

 諦めた末の、思考を停止させた平和。

 俺は、その末路を知っている。

 俺自身の経験として、痛いほど、身に沁みついている。


 この家は、そんな村を象徴している様で……。


 (気持ち悪い……)

 吐き捨てるように呟く俺。

 それは、過去の自分を見せつけられている様で。


 諦めた末に、人の命を軽く扱うようになった、この村と、同じだとは思いたくない。

 思いたくは無いが、心の底では、本質は同じだと理解してしまっている。

 

 (これが、同族嫌悪ってヤツか?)

 何か少し、違う気もするが……。


 (でも、そうか、諦めるって言う事は、こういう事なんだな……)

 仕方にと言い訳して、どんどん深みに(はま)って行って、最後には身動きさえ取れなくなって、気付いた時にはもう手遅れ。

 そして、手遅れになった事にさえ、言い訳をして、仕方ないと、納得して消えて行く。


 改めて、頭で理解して、目の前で、他人の命まで巻き込んだ、"仕方が無い"を見せつけられると、少し怖くなった。


 (違う!俺は違う!誰かが死んで、仕方が無いなんて事は無い!クリナだって……)

 違くない。

 先程、自身で認めたじゃないか、本質は変わらないんだって。


 本当に思っていないのか?クリナが死んだ事が、仕方のない事だって、割り切っていないのか?

 割り切っていないで、こんなのうのうと生きていられるのか?

  

 ……。

 …………。

 ………………。


 考えたくない。

 そんな事を考えてしまった事実すら、思考の片隅に置いておきたくなかった。


 (……仕事……、しなきゃな……)

 俺は思考を放棄し、頭を切り替えると、窓の桟に取り付き、暗い家の中へ侵入する。


 きっと、諦めたら、この続きを考える事になる。

 それに、この村のような事態に、皆を巻き込むことになるかもしれない。

 それだけは駄目だ。あってはならない。絶対に、絶対に。


 「絶対に……」

 人目も(はばか)らず、噛み締める様に、呟く俺。


 その日、諦める事に対しての恐怖が、しっかりと俺の中に刻まれた。

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