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第180話

 俺は、真剣な表情で、今後の事を考えているであろう、ウサギを見習い、住居について、一から考え直す事にした。


 まずは、ウサギに指摘された、地下の拡張について。


 確かに家を建築するのに比べれば、楽な気も、しなくはないが、やはり、崩落の危険と、酸素の不足が気になる。


 それに、地下は、現状、外に比べて温かくはあるが、この先、外が更に寒くなって来た際に、俺たちが耐えられるほどの気温が、保たれるかと言えば、答えはNOだろう。


 自身が虫の時代に土の下に住んでいたから分かる事だが、地中では多少、寒さは(しの)げるものの、少なくとも、俺が活動を停止してしまうレベルでは、寒い。


 加えて、元々空気が(よど)んでいた地下ではあったが、ゴブリン達の移住により、人口密度が増えたせいか、より酷い状況になっていた。


 それこそ、これ以上拡張したら、本当に、いつか、酸素不足になる気がするし、そんな場所で、火を焚こうものなら、自殺行為でしかないだろう。


 それに加えて、異臭などもするため、良くないガスなども、発生しているのではないかと感じる。


 生物が生活している以上、そういった物は発生するし、食糧保管庫でもある地下は、色々な匂いが混ざって、身体的には勿論、精神的にも宜しくない気がしていたのだ。


 まぁ、それに気が付いたのは、この間、コグモに……アレの為に連れられて、久々に地下に降りた時なのだが。


 正直、あそこで寝泊まりしているゴブリンやウサギ達は、良く文句を言わないなと、感じるレベルである。


 それに、地下道を補強できるのは、現在、俺だけだ。

 俺に、もしもの事があった場合、拠点を維持できなくなる場合がある。


 対して、技術さえあれば、誰にでも……、と、までは行かないが、ある程度のメンバーが作成できるであろう、家屋と言う物は、知識と技術の共有、俺が欠けた場合の保険と言う意味でも、作成する意義を感じた。


 それに、地下の拡張は、外よりも多少、暖かい分、外で体が動かなくなった後でも、可能だろう。


 逆に、地下で寒さを凌げないと分かってから、地上で家を作り始めるのは、寒さにより、不可能だ。

 そうなった場合は、諦めて、冬眠するしかなくなる。

 

 深く考えれば、考えるほど、家造りに挑戦する事は、合理的な気がしてきた。


 (家を建てるなら、みんなの大きさに合うものにしないとな……)


 最初、洞窟の通路は、一番大きなゴブリンが、腰を屈めながら、やっと通れる程度のものだった。


 その為、穴を広げて対応したのだが、家屋となると、そう言った対応も難しくなる。

 少し余裕の持った建築を、心がけるようにしなければ……。


 因みに、そんなゴブリンのリーダーであるゴブスケは、洞窟暮らしに慣れ、力よりも隠密や俊敏性、技術を重んじる進化をしている為か、体が小柄になりつつある様に感じる。


 加えて、森の中での生活で耳を酷使する為か、人間に比べると、元々発達していた、横長の尖った、大きな耳が、暗い洞窟生活を経たせいか、さらに大きくなっていた。


 他には、手の巧緻性や、知能レベルの発達が顕著ではあるが……。それが進化なのか、ただの成長なのかは分からない。

 しかし、それらは彼が、彼なりに努力した結果である事に、間違いは無いだろう。


 生物的に見て、小柄になった彼に、他のゴブリン達が付き従う姿は、少し違和感があるが。

 その体格差を補って、余り有る程に、彼には皆を引き付けるだけの魅力と、能力があるのだろう。


 それに、他のゴブリン達にも、物理な力で無いそれを、それを察する事ができるだけの知能があり、理性が備わっているのだから、彼らの今後も、楽しみで仕方がない。

 

 しかし、同じく洞窟に暮らしているはずのウサギが逆に成長しているのは何故なのだろうか?

 もう、耳を入れないでも1m近い身長がある様に感じる。

 

 技術重視も、洞窟暮らしも、ゴブリン達と、変化は無いのにはずなのに、ここまで真逆の進化をする物なのだろうか?

 

 俺は、身動き一つとらずに思考を巡らせている、ウサギに目をやり、これは良い機会だと、彼を観察する事にした。


 まずは足先。

 彼は常に爪先(つまさき)立ちの様な体勢であり、足は爪先から(かかと)までの幅も広い為、唯でさえ高い身長が、さらに高く見える。


 目線を足から胴へと上げてみれば、細く、それでいて、しっかりとした体。

 まぁ、体に張り付くような、それでいて、しっとりとした、つややかな毛が四肢を覆っている為、本当の体形は、図りかねるのだが……。

 

 そんなスレンダーな体つきの中で異彩を放っているのは、胸元と、尻尾にだけ生え揃った、モフモフで柔らかそうな毛玉。


 ウサギ曰く、俺に好かれる為だけに、その場所の毛だけ、故意的に、そのような状態にさせていると言う。

 俺には良く分からないが、サンタクロースの髭みたいなものなのだろうか?


 そして、更に視線を上げてみれば、中性的で、少し小さめな、可愛らしい顔。

 体全体と総合して見れば、ウサギを見た10人中10人が、彼を女性だと思うだろう。


 しかし、こう、真剣に悩んでいる顔を見ると、何処か男らしくて、カッコいいと言うか、何と言うか……。

 やっぱり、男の子なんだなぁ~。なんて、思う。


 体だって、俺より大きいし、無理やり糸を入れられ、暴れていた、野生の?ゴブスケを押さえ付けたのも、ウサギだと聞いた。

 頭も良くて、器用で、力も、その長い脚から生み出される俊敏性もある。


 ウサギがその気になれば、俺なんて、彼に糸を通す間もなく、一瞬で組み伏せられてしまうだろう。

  

 (……いや!組み伏せられた状態でも、糸の俺なら、散り散りになって……!)

 そんな事を考えながら、俺はウサギと対峙(たいじ)するシーンを想像した。


 場所は、イメージがしやすい森の中。

 対峙するウサギの視線は、今の様に真剣で……。

 次の瞬間、彼の細くも力強い腕で地面に押さえつけられ、その真剣な瞳が、俺を射抜く。

 そこで、俺は……。俺は?

 

 「……どうしたの?パパ」

 ウサギの顔を見つめたまま、固まっていた俺を正気に戻したのは、クリアだった。


 「お、おぅ!何でもないぞ!」

  俺が無駄に声を張り上げると、流石のウサギも驚いたのか、ビクリと体を反応させ、こちらへ振り向く。


 「さぁ、仕事だ仕事!」

 俺は慌てて、ウサギの視線から顔を逃すと、動揺を悟られない様、声を張り上げる。


 「……?」

 訝し気な視線を送って来るウサギには気付かないふりをして、俺は図面を書く為にも、チョークを手に持った。

 

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