第152話
「んっ……」
不意に、光が顔に掛かる。
俺は両目を隠す様に片手を顔に置いた。
「朝ですよ。起きてください」
コグモの優しい声を聞き、意識が覚醒して行く。
「……うん」
俺は寝ぼけ眼を擦りつつ、起き上がる。
コグモはもう、朝の支度をしていた。
開かれた窓から日の光が差し込んでいた。
きっと、今し方、コグモが開いたが為に、俺の顔へ、光が降り注いだのだろう。
一番早くに寝たはずのクリアは、俺の腕にしがみ付いたまま、未だに安らかな寝息を吐いていた。
少し目を閉じると、鳥の鳴き声と、風のさざめきが聞こえる。
そして、すぐそばではコグモが朝の準備をする音が……。
朝日と静かな朝の空気が心地よい。
ベッドもふかふかだ……。
「もう……。また寝ようとしないで下さいよ……」
そう言いつつも、コグモは自身の仕事を進めるだけで、特に起こしてくるような事はしない。
そんなに甘やかされると、ぐーたら人間になってしまいそうだ。
「………おはよう」
そうはならない為にも、なんとか、激闘の末、自分の意志で眠気に打ち勝ち再び目を開ける。
どうして、こうも、自分の欲求に逆らうのは難しいのだろう。
正直、起こしてもらえる方が、何倍も楽だった。
「はい。おはようございます」
仕事の手を止め、こちらに振り返ると、優しい、元気な笑顔で挨拶を返してくれるコグモ。
朝からこんなに可愛いコグモの笑顔を見れただけでも、頑張って起きた甲斐があったと言う事にしておこう。
「クリア。朝だぞ」
俺の腕に掴まって、寝ているクリアを揺り起こす。
この世界には時計はないので、太陽の位置を見て、生活習慣を作る事が大切だ。
そうでもして、自身でルールを決めていかないと、誰に急かされる訳でもないこの世界では、それこそ、ぐーたら人間になってしまう。
一人で生きていく分になら、それでも良いかもしれないが、みんなで生活している以上、そうは行かない。
コグモはこうやって、朝の準備をしてくれているし、ゴブリン達だって、今日の授業に合わせて、朝の行動をとっているだろう。
そこに俺たちが寝坊していけば、皆に迷惑がかかる。
集団生活を行う以上、ある程度の規則を守ることは、大切であり、それを教えていくのも、親の役目なのだ。
俺が、甘々なコグモとは違うという所を見せてやる!
「朝だぞ、起きろ、朝だぞ~……」
目覚めないクリアをしつこく揺り動かす俺。
「………ん………」
その内に、クリアはゆっくりと目を開けた。
しかし、その瞳は、またすぐに閉じてしまい、抵抗と言わんばかりに、俺の腕に、更に強く抱き着いてくる。
「ほら、そんな事をしてもだめだ。起きるぞ」
クリアを先ほどまでより、強く揺り動かす俺。
しかし、クリアは目も開けなければ、離れる気も一切ないらしい。
その意地を張る姿も可愛くて……。
「……たくっ……」
早々に諦める俺を見てコグモがクスリと笑った。




